「外国人に仕事を奪われる」は本当か 「いわゆる移民政策とは違う」と主張し続ける安倍首相

日経ビジネスオンラインに11月9日にアップされた『働き方の未来』の原稿です。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021900010/110800080/

「特定技能2号」なら家族帯同も認める
 外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案の審議が始まった。深刻な人手不足で、多くの業界から外国人労働者の受け入れ解禁を求める声が上がっており、政府は今の臨時国会で可決成立させ、2019年4月から施行したい考えだ。

 今回の入管法改正ではこれまで「単純労働」とされてきた業種で受け入れが可能になる。新たな在留資格を創設するのが柱で、「相当程度の知識または経験を要する技能」を持つ外国人に就労可能な「特定技能1号」の在留資格を与える。

 建設や介護、宿泊、外食といった人手不足が深刻な14業種が想定されている。農業や漁業のほか、飲食料品製造、ビルクリーニング、自動車整備、航空、素形材産業、産業機械製造、電気・電子機器関連産業が加わる。

 「技能実習制度」に基づく在留資格で外国人が働いている業種も多いが、事実上の「就労」にも関わらず「実習」が建前のため、様々な問題が生じている。他業種への転職や宿泊場所の選択の自由がないため、「失踪」する技能実習生が相次いでいるほか、最低賃金以下の報酬しか実際には支払われないなど、社会問題化している。

 一方で、技能実習(最長5年)を終えた人材は帰国するのが前提のため、せっかく技能を身につけたのに採用し続けることができないといった不満が企業の間からも上がっていた。

 今回の法改正では技能実習を修了するか、技能と日本語能力の試験に合格した場合に、「特定技能1号」という資格を与える。在留期間は通算5年とし、家族の帯同は認めない。

 さらに高度な試験に合格し、熟練した技能を持つ人材には「特定技能2号」の資格を与える。1〜3年ごとなどの期間更新が可能で、更新回数に制限はない。配偶者や子どもなどの家族の帯同も認める。10年滞在すれば永住権の取得要件の1つを満たすことになり、将来の永住にも道が開けることになる。

 報道によれば政府は初年度に4万人の受け入れ増を想定しているという。一見多い人数に見えるが、実際は違う。2017年度末の在留外国人は256万人で、厚生労働省に事業所が届け出た外国人労働者だけでも128万人に及ぶ。いずれも過去最多だ。外国人労働者は1年で19万4900人も増えている。

安倍首相の“建前”に野党は反発
 増加分を資格別にみると、留学生が4万9947人増、技能実習が4万6680人増となっている。こうした実態から見ると、新資格で4万人という数字はかなり過小で、仮に4万人に資格付与をとどめようとすれば、「狭き門」になる。留学生や技能実習生の制度を使った実質就労が今後も続くということだろう。逆に実勢に合わせて新資格を授与すれば、10万人近い外国人労働者が入ってくる可能性も十分にありそうだ。

 国会論戦で野党も外国人の受け入れ拡大自体には正面切って反対していない。問題視しているのは、安倍晋三首相があくまで「いわゆる移民政策とは違う」と言い続けていることだ。国連の定義では、1年以上その国に移住していれば、「移民」で、5年の在留資格を持って働いている外国人は立派な移民ということになる。ましてや「特定技能2号」の資格で在留する外国人は問題を起こさなければ事実上無期限で日本に居住でき、家族も帯同することができる。これを「移民」と呼ばずして何というのだろう。

 逆に「移民ではない」といい続けることで、新たな問題が起きる。「特定技能1号」の資格では家族帯同も許されないし、永住権取得のための通算在留年数にもカウントされない、という。「5年たったら帰っていただく」というのが建前なのだ。つまりあくまでも「出稼ぎ」扱いで受け入れると言っているわけだ。

 そうした状況に置かれた外国人が、日本語を真剣にマスターして、日本社会に適合していこうと考えるかどうか。期間中だけ割の良い儲け仕事で稼いで帰ろうと考えるのが人情だろう。それこそ、社会不安の種をまくようなものだ。きちんと長期にわたって日本に住むコミュニティーの一員になってもらう事が、社会の混乱を起こさないためにも必要だろう。

 安倍首相は国会での質問に答えて、条件を満たせば永住の道が開けることになる「特定技能2号」を経ての永住権取得について「ハードルはかなり高い」と答えている。そう答えざるを得ないのは「移民政策を採ることは考えていない」といい続けるからだ。日本に永住してもらわなくて結構、あなたたちは所詮「出稼ぎ」です、と首相が言う国で、本気で社会の一員になろうとする外国人がどれだけいるだろうか。

 「外国人が入ってくると日本人の仕事を奪われる」という反対意見もある。もともと外国人の受け入れに反対派が多い自民党内にもそうした議論はあったが、法案提出に向けた党内手続きは予想以上にスムーズだった。というのも自民党議員は支援者である地元の商工業者から、さんざん人手不足の話を聞かされ、外国人受け入れ以外に道がないことを理解しているからだ。心情的には受け入れ反対でも、支援者の声には逆らえないわけだ。

 実際、留学生がたくさんいる都市部よりも、地方都市や農山村の方が人手不足は深刻になっている。コミュニティーの崩壊寸前になっている地域もあり、「来てくれるなら外国人でも大歓迎」という声が少なくない。かつて農山村でブームになったフィリピン人花嫁が地域に定着し、外国人アレルギーが薄れているという現実もある。

雇用者数の増加はいずれ頭打ちに
 現状の人手不足で見る限り、外国人労働者が入ってきたからと言って日本人の仕事が奪われるという話にはならないだろう。仕事を探す人1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、厚生労働省が10月30日に発表した9月の実績で1.64倍と、1974年1月に肩を並べた。44年8カ月ぶりの高水準というから、高度経済成長期並みの人手不足になっているということだ。

 人口が減っているから人手不足になっていると言われるが、実際は、働いている人の数は増えている。総務省が発表する労働力調査によると、9月の就業者数は6715万人、会社に雇われている「雇用者」数は5966万人といずれも過去最多を更新した。就業者数、雇用者数ともに第2次安倍内閣発足直後の2013年1月以降69カ月連続で増え続けている。

 これは65歳以上でも働き続ける高齢者が増えたこと、働く女性が増えたことが大きい。安倍首相が言う「1億総活躍」「女性活躍推進」がある意味、効果を発揮しているのだ。今や65歳以上の就業者は800万人を突破、15歳から64歳の女性の就業率も70%に乗せた。いずれも初めてのことだ。

 問題はこれからだ。日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少し始め、すでに164万人も減少、2018年10月1日現在の概算値は1億2644万人となった。1年で25万人減のペースで減り続けている。人口の大きな塊である団塊の世代が2022年には75歳以上となり、働き続けていた人も職場から去っていくことになるだろう。早晩、65歳以上の働き手の減少が始まるのは確実だろう。女性の働き手も就業率が70%を超えてきたため、そろそろ頭打ちになる可能性が高い。

 そうなると、日本の人手不足はさらに本格化する。ロボットなど機械化や、働き方改革で人手のかかる仕事を減らしたとしても、労働人口減を補うことは難しい。そうなると、外国人に依存せざるを得ないのは明らかだ。個別のケースでは優秀な外国人が日本人のポストを奪うことはあるかもしれない。しかし、全体としては外国人が入ってきたから日本人が職を失うということは数字を見る限りありえないと言っていいだろう。

 「技能実習生」や「留学生」と言った便法ではなく、真正面から外国人を受け入れる制度として新資格を創設するのは、今後、本格的に移民政策を議論していく上でも重要な第一歩になるだろう。