コロナ明けで人手不足が深刻に、もはや抜本的な移民政策を考える時 技術実習、アルバイトではもう人は来ない

現代ビジネスに4月9日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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外国人労働者数、過去最高

新型コロナウイルスの感染が落ち着きを見せていることで、人の動きが一段と活発化してきた。旅行や外食産業など、新型コロナの影響が大きかった業界もようやく繁忙状態が戻ってきた。年度末から年度始めにかけて新幹線や飛行機の混雑はコロナ前に戻り、飲食店でも予約が取れない店が続出した。ようやく経済活動が本格的に回復基調に入ってきた。

そんな中で懸念されるのが深刻な人手不足だ。2022年の年平均の新規求人数(パートを含む実数)は年平均で86万6402人とコロナ前のピークだった2018年の97万6762人にはまだ及ばないものの、2021年に比べると10.8%も増えた。

2023年2月の統計によると新規の求人数は、宿泊業・飲食サービス業で37.2%増、教育・学習支援業で23.7%増、卸売業・小売業で11.1%増、医療・福祉で10.3%増など、いずれも大幅な増加になっており、新たに仕事を求める人に対してどれぐらいの新規求人があるかを示す「新規求人倍率」は2.32倍に達している。旅館業などでは人手が足らないことから客室があっても宿泊客を取れないところも増えている。人口減少が今後も急ピッチで進む中で、どうやって中長期的に従業員を確保していくか、企業経営者は頭を悩ませている。

そのひとつの解決策が外国人労働力への期待だ。厚労省がまとめた2022年10月現在の「外国人雇用状況の届出状況」によると、新型コロナで鈍化していた外国人労働者数は、1年前に比べて5.5%増加、182万2725人と過去最多を記録した。求人数がコロナ前に達していない中で、外国人労働者はすでに最多を更新しているのだ。

産業別に見ると「医療・福祉」が28.6%増と大幅に増えている。介護老人ホームなどでの深刻な人手不足を受けて、介護現場で働くインドネシア人などが求められている結果だ。医療・福祉で働く外国人はまだ7万4339人と全体から見れば4%あまりだが、今後も外国人材へのニーズが確実に高まっていくのは間違いない。建設現場も深刻な人手不足に直面しており、建設業で働く外国人も6.2%ぞうの11万6789人に達している。建設現場では外国人なしでは工事が成り立たなくなっているところもある。

今後、急増が見込まれるのは、新規求人数の伸びが顕著な、宿泊業・飲食サービス業や、小売業だろう。

移民としての道は開かれるか

一方で、ここへきて、働く外国人の「在留資格」に変化が出始めた。「技能実習」や「資格外活動」が減り、「専門的・技術的分野の在留資格」を得て働く人が大幅に増えたのだ。

日本の人口がピークを打った2008年頃から外国人労働者は急速に増え始めたが、「いわゆる移民政策は取らない」と言う政府の方針の下で、高度人材と呼ばれる人を除いて、就業は厳しく制限されてきた。その「便法」として使われてきたのが「技能実習制度」で、日本で働いて技術を学び、それを本国に戻って役立たせると言う「国際協力」を建前にしていた。

実際には、安い労働力として工場などで使われ、人手不足に陥った農業の現場では不可欠な存在になっていた。ピークだった2020年には40万人を超す外国人が技能実習生として国内各地で働いていた。この技能実習生の資格で働く外国人労働者は全体の23.3%を占め、最多の在留資格になっていた。それが、2021年、2022年と減少に転じているのだ。

さらに「資格外活動」で働く外国人も2022年は減少に転じた。資格外の大半は「留学生」で、週に28時間までアルバイトすることができるルールになっている。これをある意味もうひとつの「便法」として使い、日本語学校への留学生という建前で実際には労働力として日本に連れてくる仕組みが出来上がった。渡航費用などを事前に借金させて、日本に労働力として送り込む「ビジネス」が成立し、ベトナムなどから大量の働き手がやってきた。

こうした「便法」がまがりなりにも減少に転じた背景には、2019年に「特定技能」という在留制度が創設されたことが大きい。この資格は従来、「高度人材」と政府が呼んできた「専門的・技術的分野の在留資格」に含まれるため、2022年は26.3%も増加したのだ。滞在や就労環境が劣悪だとしてしばしば問題視されてきた技能実習から特定技能へと急速にシフトし始めている。特定技能には2種類あり、「特定技能1号」は就労が上限が5年ということになっているが、それを終えて「特定技能2号」として認められれば、家族を呼び寄せることもできるようになる。実質的に「移民」としての道が開けると見ていいだろう。

「出稼ぎ」だけではメリットはない

「いわゆる移民政策は取らない」と言い続けてきた政府も、「高度人材は積極的に受け入れる」と言うようになった。つまり、特定技能の枠で実質的な移民受け入れへと舵を切ったと見ていいだろう。

もっとも、それで外国人が大挙して日本にやってくるかは話が別である。日本に出稼ぎにやってくるメリットが急速に落ちているからだ。特にこのところの円安によって自国通貨換算した手取り給与は大幅に減っている。もはや優秀な中国人労働者などは日本にはやってこなくなっている。

外国人雇用状況でも、これがはっきり表れている。外国人労働者の総数は過去最多ではあるが、中国からの労働者は2年連続で減少した。一時期大幅に増えていたベトナム人の増加率もこの2年、2%台にとどまっている。経済的に豊かになった国からは日本にやってこなくなっているのだ。ブラジル人も横ばいである。一方で、2022年はネパール人が20.3%増え、11万8196人と10万人を突破、インドネシア人も7万7889人と47.5%増えた。さらにミャンマー人も4万7498人に達している。こうした国々も経済発展と共に、日本にやってくるメリットが薄れていくに違いない。

円安を生かした観光業の伸びなどインバウンド需要が期待される中で、そのサービス水準を維持できるだけのマンパワーが確保できるのか。今後、急ピッチで進む若年人口の減少が日本経済の復活の足かせにならないためにも、外国人に選んでもらえる国であり続ける必要がある。そろそろ本格的に移民制度の整備を考える時だろう。