居酒屋や旅館の接客は今後もずっと外国人 法改正は事実上の"移民解禁"だった

プレジデント・オンラインに2月22日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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「研修生」というバッジをつけたスタッフたち

今年の4月以降、日本の職場の様子ががらりと変わり始めることになりそうだ。改正入国管理法の実施で、働く外国人が増え、職場に外国人がいるのが当たり前になってくる。そんな職場での働き方も大きく変わる。部下の外国人を使いこなすスキルが必須になるのも時間の問題だ。

すでに前哨戦は始まっている。4月1日に導入される「特定技能1号」という就労資格では、「宿泊業」や「外食業」というこれまでは原則禁止されていた分野で、外国人が正規に働くことが可能になる。

大分県別府。湯煙が上がる温泉街は中国人などの外国人観光客が目立つ。老舗のホテルの玄関を入ると、着物姿の若い女性スタッフが客を出迎えている。ところが、胸に「研修生」と書かれたバッジを付けている。聞いてみると中国からやってきたスタッフたちだった。

旅館の客室係は圧倒的に人手不足で、全国の観光地の旅館は悲鳴を上げている。客室係の手が足らないため、部屋が空いていても予約を断っているところも少なくない。旅館やホテルで作る全旅連(全国旅館生活衛生同業組合連合会)では数年前から外国人労働者の解禁を政府に要望してきた。

抜け道として使われてきた「留学生」

もともと旅館の客室係やホテルのルームメイドなどの仕事は「単純労働」だとして外国人の受け入れが禁じられてきた。就業ビザが下りなかったわけだ。単純労働の職場に外国人を入れると日本人の仕事が奪われる、というのが理屈である。工場や農業など同様に人手不足で喘ぐ現場には、技能実習生という制度が導入され、日本の技術を学んで本国に持ち帰るという「建前」で働き手を受け入れてきた。だが、旅館や外食といった分野はその技能実習の対象からも外されていた。

そんな中、抜け道として使われてきたのが留学生。日本語学校に留学すれば、週に28時間までならアルバイトができる。夏休みなどは40時間まで認められる。都会の外食チェーンなどは、こうした「留学生」をせっせと採用して店員として使っているので、外食チェーンのお店に行くと日本人スタッフがひとりもいない店舗に出くわす。だが、地方の旅館やホテルの場合、専門学校や日本語学校などの留学先がなく、留学生自体がいない。

外国人労働者を解禁してほしいという声は、地方の方が強いわけだ。かつては外国人を受け入れるべきではないと強く主張していた保守派の自民党国会議員ですら、地元支援者の切実な訴えに耳を傾けざるを得なくなった。改正入国管理法が2018年秋の臨時国会での短時間の審議であっさり通過したのは、こうした事情があった。

日本に定住する外国人が増えるのは明らか

導入される特定技能1号の就労資格は、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、素形材産業、産業機械製造、電子・電気機器関連産業、飲食料品製造業、ビルクリーニング、介護、農業、漁業、宿泊業、外食業の14業種に認められる。多くが技能実習の対象になってきた業種だが、宿泊や外食などは今回初めて正式に門戸が開かれた。もちろん、日本語が一定レベル以上できることや、必要な技能を身に付けているというのが建前で、業界団体などが行う試験をパスする必要がある。

在留期間は5年で、家族の帯同を認めず、永住権を得るための年数にもカウントされない。あくまで、出稼ぎとして受け入れるのであって、そのまま日本に居続けることはない、というのが建前だ。というのも安倍晋三首相は繰り返し「いわゆる移民政策は採らない」と言い続けており、霞が関も「移民」を前提にした制度だと言うことができないのだ。

だが、現実には、今回の法改正をきっかけに、日本に定住する外国人が増えていくことになるのは明らかだ。実質的な移民受け入れに舵を切ったと言うこともできる。

働き手の数が過去最多でも、人手不足は深刻化

人手不足が深刻化しているのは、少子化で働き手が減っているからだ、と思われがちだ。確かに少子化の影響も大きいのだが、今現在は、働き手の数は過去最多を更新し続けている。総務省労働力調査によると、就業者数、雇用者数とも第2次安倍内閣が発足した翌月の2013年1月以降、72カ月連続で増え続けている。2018年10月の就業者数は6725万人と過去最多を更新、雇用者数も5996万人と6000万人の大台にあと一歩に迫っている。

安倍首相がアベノミクスの成果として強調するのが、この就業者、雇用者が大きく増えた、という点だ。確かに第2次安倍内閣が発足した2012年12月の雇用者数は5490万人だから500万人も増えたことになる。雇用の場が生まれているのだ。

だが、よく中身を見てみると、増えているのは女性と高齢者である。女性の就業者は2018年10月に2991万人と過去最多を更新、65歳以上の就業者も2018年9月に886万人と過去最多を記録した。2012年12月と比べると、女性就業者は340万人あまり、65歳以上就業者は310万人あまり増加している。15歳から64歳の女性の就業率は71%を超えた。

それだけ日本人の働き手が増加しているにもかかわらず、人手不足が深刻化しているのだ。団塊の世代がどんどんビジネス界から去っていく中で、人手不足は間違いなく今後さらに激しくなる。ちょっとやそっと景気が悪くなったくらいでは、人手不足は解消しないだろう。

外国人労働力なしに日本の経済社会は回らない

もちろん、背景には少子化がある。少子化による若年層の働き手の減少がジワジワできいてくるのだ。実は就業者のうち65歳以上を除いた64歳以下の就業者数をみると、1997年6月に6171万人のピークを付けて以降、ジワジワ減少している。2018年12月では5801万人にまで減っているのだ。もはや外国人労働力なしには、日本の経済社会は回らないところまで来ているのである。

日本で働く外国人は厚生労働省に届けられた2018年10月時点で146万463人。2008年は48万6398人だったので、この10年で100万人も増えたことになる。外国人を雇用した場合、事業者は厚生労働省に届け出なければならないことになっており、毎年10月時点の人数などを、「外国人雇用状況の届出状況」として厚労省が公表している。

146万人のうち23.5%に当たる34万3791人が留学生などとして入国しながら働いている外国人である。本来の就労ビザではなく留学生という資格で入国しながら働いている、という意味で「資格外活動」と呼ばれる。

外国人が働いている業種をみると、「卸売業、小売業」が12.7%、「宿泊業、飲食サービス業」がやはり12.7%で、両方で25.4%を占める。ほぼこうした業界で働いている外国人が留学生だということを示している。

事実上の「移民解禁」と言える仕組み

改正入国管理法は、留学生を働かせるという抜け道ではなく、真正面から雇用しようという姿勢に転換した点で、大きな一歩だ。だが、彼らが5年たったら帰る「一時的な労働者」と考えていると大きな禍根を残すことになるだろう。

東京の荻窪で出会った居酒屋で働く中国人女性は、夫と共に来日しており、夫はコンビニで働いているという話だった。口を濁していたが、おそらく留学生の資格でやってきているのだろう。この夫婦に子供ができれば、日本語教育をどうするのか、という問題に直面する。

今回の改正法に盛り込まれた特定技能2号という資格は、期限3年だが更新が認められ、家族帯同も許される。永住権の取得に必要な年限にもカウントされる。この資格での在留許可はしばらく出されないことになっているが、建設、造船・舶用工業、自動車整備業、航空、宿泊業の5つの業種から始まることになっている。つまり、技能実習生や特定技能1号での期限が来たら、2号に切り替わって長期滞在を許すという構図が出来上がっているのだ。事実上の「移民解禁」と言ってもよい。

これによって日本人の働き方も変わる。職場にさまざまな文化的バックグラウンドを持った外国人がいるのが当たり前になり、そうした人材を管理し使いこなすスキルが管理職に求められることになる。ひとりの日本人が多数の外国人を管理するといった職場も当たり前になってくるだろう。日本の地方都市の普通の職場でも、外国人と働くのが当たり前という時代が目と鼻の先まで来ているのだ。