このままでは将来に禍根を残す? 建前重視の技能実習制度「拡充」

月刊エルネオス1月号(1月1日発売)に掲載された原稿です。

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 景気の底入れや少子化の影響もあって、人手不足は深刻さを増している。東京オリンピックパラリンピックに向けた工事需要が旺盛な建設業界はもとより、宅配便など運輸人材やIT技術者なども圧倒的に不足している。そうしたしわ寄せは生産性が低いとされる小売りや外食、宿泊業などに及び、人手を確保できないために店舗を閉めるなどサービスの縮小に追い込まれるところまで出始めた。
 そんな中で、期待を集めているのが「外国人人材」である。コンビニや居酒屋、旅館など接客サービスの場で多くの外国人を目にするようになった。実際には、弁当工場やクリーニング工場、洗い場など人目に触れない職場では外国人が圧倒的な戦力で、もはや彼らなしには日本経済は成り立たないところまで来ているのだが、いよいよそれが「目に見える」職場や職種にまで急速に広がっている。
 少子化が一向に改善されない中で、労働力不足は一過性のものではない。本来は長期にわたって日本に住み、働く「定住外国人」の受け入れを促進していくべきなのだが、安倍晋三内閣は「いわゆる移民政策は取らない」という立場をとり、外国人受け入れに本腰を入れていない。
 そこで「活用」されているのが、「外国人技能実習制度」だ。発展途上国の労働者が日本で働きながら技術を学び、母国に帰ってその技術を生かす「国際貢献の仕組み」というのが建前だが、実際には外国人労働力を受け入れる窓口になっている。技能実習生は最長五年まで滞在できるが、あくまで「実習」として働く「帰国が前提」の労働力だ。

コンビニの人手不足対策

 二〇一七年十一月、この技能実習制度の対象職種として「介護職」が追加された。介護の現場は圧倒的に人手が足りない職種の代表格。これまでもフィリピンなどとの経済連携協定(EPA)で来日したり、留学生として日本の養成学校で二年以上学んだりして「介護福祉士試験」に合格した人などは、在留資格を得ることができることになっていた。だが、実際には日本語の壁などがあり、介護職として日本に在留している外国人はまだまだ少ない。
 今回、技能実習に加えたことで、今後「介護職員」として働く外国人を増やしたいというのが政府の考えだ。さらに日本で三年以上働き、「介護福祉士」の資格を取れば無期限で日本で働き続けられるようにすることも検討している。
 このように政府は、技能実習制度の対象職種を拡大し、在留期間を長期化することで、労働力不足を補おうとしている。こうした流れに乗って、さまざまな業界団体から技能実習制度の対象に加えるよう要望が寄せられている。
 例えば日本チェーンストア協会は、コンビニで働く人材を「技能実習」の対象にするよう年明けにも正式に要望する方針だと報じられている。コンビニも深刻な人手不足に陥っている。現在は外国人留学生が主体だが、留学生では週に二十八時間までしか働けない。また、仕事に慣れたと思ったらすぐに帰国してしまうなど、安定的な雇用確保からは程遠いのが実情。
 また、大学への留学生などは、コンビニや居酒屋などの仕事は敬遠するようになっている。もっと割の良いキャリアにつながるアルバイトを探すことが容易になったからだ。何せ、中国人ならば中国語と日本語、そして英語などが操れる。グローバル対応を進める企業にとっては貴重な戦力になっている。
 そこでコンビニ業界は技能実習制度に目をつけたわけだ。日本でコンビニ運営のノウハウを学び、自国に帰ってコンビニ展開を担うというのが「建前」だが、店員の「技能」がどこまで自国のためになるのか、その理由付けは心もとない。実際には足らない人員を補うのが「本音」である。

「外国人技能実習機構」新設
 こうした技能実習制度を使った「なし崩し」ともいえる外国人受け入れに対して、将来に禍根を残すことになりかねないと危惧する声もある。
 というのも技能実習は本音では足らない「労働力」を短期的に補うために運用されており、そこには外国人を「生活者」として長期にわたって受け入れる視点はない。しかし、いったん日本にやってきて働き始めれば、彼らは「労働力」であるだけではなく、「生活者」として社会に存在することになる。三年もしくは五年で帰国するのが「前提」だから、国も企業も、あるいは外国人本人も、日本のコミュニティーに溶け込ませて社会の一員として活躍させようという発想が欠如する。
 本音が「労働力」としてしか考えない技能実習制度では、これまでも劣悪な労働条件や長時間労働、賃金の未払いなど問題点が指摘されてきた。そこで十一月からの法改正で受け入れ企業や、受け入れ窓口になる業界団体がつくる「監理団体」などに対してチェックを厳しくする仕組みが導入された。「外国人技能実習機構」(東京都港区)が新設され、実習先は実習生ごとに実習計画を作って機構の認定を受けなければ、実習生を受け入れられなくなった。「建前」をより「建前らしく」するための制度が作られたのだ。
 機構は実地検査を行って実習計画に反している場合は認定を取り消したり、業務停止命令などを出すことになるとしている。社会問題化している実習生へのパワハラやセクハラ、脅迫による強制労働、外出禁止などの私生活の不当な制限についても目を光らせるという。
 外国人をあくまで「労働力」としてしか扱わない仕組みが将来に禍根を残すことは世界が証明している。ドイツなどは一九六〇年代に安い労働力として使ったトルコ人などが国内に滞留、社会問題を引き起こした。今、ドイツは移民として外国人を真正面から受け入れる代わりに、ドイツ語の習得やドイツでの生活の基礎知識の習得などを義務化している。
 日本の人口減少はまだまだ続く。社会を維持していくためには外国人の受け入れは不可欠だ。そろそろ真正面から「移民」について議論し、受け入れのための仕組みづくりを考える時期だろう。「技能実習生」や「留学生」という形でなし崩し的に外国人が入ってくるのを見過ごしていると、将来、取り返しのつかないことになりかねない。