後手後手に回る対策…外国人の日本語教育、それでいいんですか?

現代ビジネスに3月7日にアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/60926

ようやく初の実態調査

日本に住民登録している義務教育年齢の外国人について、文部科学省が初の全国実態調査に乗り出す方針を固めた、と毎日新聞が報じた。

6歳から14歳のいわゆる義務教育年齢の子どもは、教育を受ける権利を持ち、その親は子どもに教育を受けさせる義務を負うことを憲法26条は定めているが、それはあくまで「国民」の権利であり、義務に過ぎない。日本に住む外国人には適用されないのだ。

だがそうなると、日本語がまともにできない子どもたちが日本社会に生まれてくる。日本に住んでいるので、母国語の教育を受けるのも難しく、日本語も母国語もきちんとできない外国人が実際に生まれている。「ダブル・リミテッド」と呼ばれ、外国人居住者の多い自治体では、もう何年も前から大問題になってきた。

そうした子どもたちの実態把握はすべて自治体任せで、こうした子どもたちへの教育をどうするかも自治体に丸投げされてきた。自治体によっては、学校のクラスに追加の教育を配置する「加配」などを行ったり、ボランティアを募って日本語教室を開くなど、様々な対応を行っている。

だが、外国人居住者が少ない自治体では、対応が後手に回り、ほとんど放置されているケースもある。「国民」ではないため、義務教育年齢でも就学させる義務がないからだ。

毎日新聞が独自に行った外国籍児童数の上位100自治体に行ったアンケートでは、外国籍児童7万7500人のうち2割に当たる約1万6000人が就学しているかどうか不明だったという。

外国人労働者流入が本格的になって

これに対して文科省がようやく重い腰を上げた、というのである。全国1741自治体に照会して、未就学の実態を把握するという。

それ自体は第一歩に違いないが、あまりにも遅くないだろうか。今年4月からは改正出入国管理法の施行で、新しい在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」が始まり、外国人労働者が本格的に日本にやってくると見込まれる。

特定技能1号の資格では家族は帯同できない事になっているが、外国籍どうしが結婚して出産したり、観光ビザで子どもが来日することを完全に防ぐことは難しい。

特定技能2号の在留資格を取れれば、家族帯同も許され、期限の更新も可能になる。ところが、「国民」ではないので、今のルールでは、教育の義務は課されない。ダブル・リミテッド問題がますます深刻化する懸念があるのだ。

また、文科省は、外国人に日本語を教える「日本語教師」の公的資格を創設する方針だという。外国人に日本語教育を行うにはまず教師育成から、というのは理解できるが、これも対応としては遅くないか。

日本語教師の資格については、2018年6月に閣議決定された「未来投資戦略」に検討項目とされたことをきっかけに、文科省傘下の文化庁の所管である「文化審議会」に諮問された。文科省が主導で検討したわけではない。

文化審議会は2019年度に具体的な制度設計に着手して「2020年度以降の創設を目指す」と報じられている。霞が関の修辞学で読み解けば、「検討しています」というアリバイ作りで、「2020年度は無理」という意味だ。

外国人児童教育が「文化行政」?

文部科学省は外国籍児童への教育については、もともと関心が薄い。「国民」ではないから、義務教育の対象ではなく、文科省の仕事ではない、とでも思っているのだろう。だから担当は文化庁なのだ。国際文化交流の一環という位置付けなのだ。

文化庁に全国の公立学校に外国人子弟の教育を求める権限などないし、日本語教師自治体に派遣する予算もないから、本気でこの問題に取り組もうという姿勢が欠如していることは明らかだ。

外国人居住者が多い自治体の首長さんに聞くと、日本語教育は市民ボランティアの協力なしには維持できておらず、そのための予算も乏しいという。居住外国人に対する日本語教育を、子どもだけでなく、労働者本人や妻など家族にも行うための予算や助成金を付けて欲しいというのが、首長さんたちの切なる声だ。

つまり、日本政府が、きちんとした外国人に対する日本語教育の方針を打ち出し、そのための予算措置を講ずる必要がある、ということだ。しかも、各省庁バラバラの対応ではなく、一元的に外国人政策を立案・実施する必要がある。

4月からは法務省の外局として、出入国在留管理庁が設置される。入国管理局を格上げするもので、「在留」の言葉が加わったことが示す通り、居住外国人政策を担当することになる。

本来は、ここに文化庁がやっている外国人日本語教育の政策立案機能を移すべきなのだが、霞が関の縄張り争いの中で「一元化」は簡単に進まない。

内閣府に「外国人庁」を設置して外国人政策を一元的に企画立案していくのがのが王道だが、内閣のリーダーシップも弱い。というのも安倍晋三首相が「いわゆる移民政策は取らない」と言い続けているためだ。

実態は日本国内には260万人以上の外国人が在留しており、146万人が雇用されて働いている。実質的な「移民」がなし崩し的に増えているのだ。