本格的な「移民受け入れ」議論を避ければ、日本がもたない可能性

4月19日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64210

地方ほど深刻な人手不足

2019年4月1日から出入国管理法が改正され、働く外国人のための新しい在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」がスタートした。

これまで正式に労働者としては在留が認められなかった農業や漁業、宿泊、外食産業などで外国人が働けるようになる。すでに介護や宿泊などの分野で資格を取得するための試験が始まっており、新資格によって日本で働く外国人が入ってくるのも時間の問題だ。

これまで「単純労働」だとして労働ビザを出さなかった宿泊や外食で、一気に解禁につき進んだのは、深刻な人出不足による。ホテルのルームメイドや旅館の客室係の人手不足は著しく、部屋があっても人手が足らないために客を断る例も出ている。インバウンド旅行客の増加というせっかくのチャンスを逃しているのだ。

このままでは人手不足が原因で営業ができなくなるという業界団体などからの悲鳴が上がったことから、地方選出の議員も解禁に向けて動いた。これまで外国人労働者の受け入れに根強く反対をしてきた自民党議員が一気に受け入れ止むなしへと転換したことが大きい。

大学などへの留学生をアルバイトとして使える都市部よりも、人口減少が深刻な地方で、外国人労働者を解禁して欲しいという声が大きかった。

それぐらい、日本の人口減少は急ピッチで進んでいるのだ。

総務省が4月12日に発表した2018年10月1日現在の日本の総人口(推計)は1億2644万3000人と、1年前に比べて26万3000人減り、8年連続の減少となった。

高齢者・女性だけでは埋め合わせできない

しかも、人口減少に加え、高齢者の割合が劇的に増えている。65歳以上の人口は全体の28.1%と過去最高を更新した。4人にひとりどころか、そのうち3人にひとりが65歳以上になりそうな勢いだ。

総務省の人口推計で、「現役世代」の割合が過去最低になったことも明らかになった。15歳から64歳のいわゆる「生産年齢人口」のと割合は59.7%と、データが比較できる1950年以降で最低になったというのだ。

15歳から64歳の人口は7545万人と、前年に比べて51万2000人も減っている。こうした「現役世代」の減少が、猛烈な人手不足につながっているのだ。

外国人労働者の受け入れに反対する人たちの間からは、外国人を入れる前に、もっと高齢者や女性を活用すべきだという声が挙がる。だが、現実には安倍内閣が進めてきた「女性活躍促進」、「一億層活躍社会」の推進によって、すでに高齢者と女性で働く人の割合が大きく増えている。

総務省労働力調査によると、自営業なども含めて働いている人の数である「就労者数」、企業などに雇われている「雇用者数」ともに増加を続けており、いずれも過去最多だ。生産年齢人口は減少しているのに、就労者数が増えているのは、働く65歳以上の人が増えていること、そして働く女性が増えていることが背景にある。

すでに65歳以上で働いている人は850万人に達している。もちろん過去最多水準である。また、15歳から64歳の女性のうち、仕事に就いている人の割合、就業率は70.2%に達しているのだ。それでも人手不足は深刻さを極めているのだ。

しかも、働く高齢者が今後も増え続けるわけではない。いわゆる「団塊の世代」が今年全員70歳になり、いよいよ現役を引退する動きが加速すれば、今までのように働く高齢者が増え続ける保証はないのだ。

要は外国人を真正面から受け入れる議論をしなければ、人口減少に追いつかないのである。

移民への抵抗は徐々に低減

前述の人口推計では、減少数は26万人だが、実は「日本人」に限れば人口は43万人も減っている。人口推計には長期在住する外国人も含まれるので、その外国人が16万5000人増えたため、減少数が小さくなったのだ。それでも外国人の増加で日本人の減少を賄えているわけではない。

有効求人倍率はバブル期どころか、高度経済成長期を上回る高さで、「人手不足」が深刻な状況に達していることを示している。

ロボットや人工知能の活用で人手がかからなくなる、という期待はあるものの、技術革新の前に人手不足で社会が壊れかねない。その「崩壊」を阻止するためにも、外国人の受け入れが必要だ。それも、日本に住んで日本社会を支えてくれる外国人を受け入れなければならない。

支持層を意識するのは分かるが…

人手不足が深刻な地方の農家の経営者はこんな事をいっていた。

「働きに来た当初は外国人かもしれないが、村に住んで子どもが生まれれば、その子を日本人として育てれば良い」

つまり、移民を受け入れようというのである。

このまま人口が減少すれば、村の存続すら危ういと感じ始めている人は地方ほど増えている。村の祭りや共同作業ができなくなった、という声は全国あちらこちらで聞く。

にもかかわらず、安倍晋三首相は「いわゆる移民政策は採らない」といい続けている。安倍首相を支持する右派の人たちを意識しているとみられる。

だが、かつては外国人アレルギーが強かった地方の人ほど深刻な人手不足の中で、外国人受け入れに容認に転換している。右派の人たちの中にも、企業などが無秩序に労働力を受け入れて、外国人がなし崩し的に増えていくより、きちんとしたルールに従って受け入れる方が社会に混乱を与えないと言う人たちも出はじめた。

「特定技能1号」の資格は滞在期限5年で、基本的に更新を想定していない。労働力として受け入れ、5年経ったら帰ってもらうという「出稼ぎ」が前提だ。今後も人口減少が続く中で、「出稼ぎ」でつなぐ事がいつまでできるのだろうか。

また、本国に帰ることが前提の「出稼ぎ」では、日本語や日本の習慣を本気で学ぼうとはしないだろう。また、その地域に根付こうという意識も生まれないにちがいない。きちんと定住して、日本人になってもらうために必要な教育を義務付けていくことが本来は必要なのではないか。

2017年1年間に生まれた子どもは94万4000人と2年連続で100万人を下回った。出生数が反転しなければ、人口減少は止まらない。社会の仕組みを守っていくためにも、そろそろ本格的な移民政策について議論すべきだろう。