「言う事を聞け!」ふるさと納税で4市町だけを除外した総務省の強権

5月16日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64660

泉佐野市の徹底抗戦

国民に人気を博している「ふるさと納税」だが、その対象から4つの自治体だけを除外するという強硬措置に総務省が打って出た。

5月14日の総務省の発表によると、6月からのふるさと納税の制度見直しに伴い、大阪府泉佐野市と佐賀県みやき町静岡県小山町和歌山県高野町の4市町を対象から外すことを決めたという。6月1日以降、これらの市町に寄付しても、ふるさと納税制度上の税優遇は受けられなくなる。

総務省が4市町をいわば「村八分」にしたのは、「返礼品を寄付額の3割以下の地場産品に限る」とした総務省の「指導」に従わなかったため。言う事を聞かなかった自治体への「懲罰」の色彩が濃い。

泉佐野市は「さのちょく」と名付けたふるさと納税特設サイトを設置、通販サイトを思わせる返礼品の品ぞろえや、返礼品が寄付額の3割を超す高い「還元率」が人気を集めてきた。2016年度に寄付受け入れ額が34億8400万円とベスト8に登場、翌2017年度には135億3300万円を集めてトップに躍り出た。2位だった宮崎県都農町の79億1500万円に大きな差を付け、ダントツの人気を誇った。

泉佐野市は関西国際空港の対岸にあり、タオル産業などがあるものの、人気を集めるような特産品に乏しい。他地域の製品や輸入品でも、地元の業者が取り扱っていることを理由に返礼品とし、一時は、「何でもそろう納税サイト」の色彩を強めていた。

こうした「過剰な返礼品競争」に待ったをかけたのが総務省。返礼品の調達価格を30%以下に抑えることや、地場産品に限ることを繰り返し通達。これに従わない場合には、制度適用から除外すると脅しをかけていた。これに泉佐野市は真っ向から反発してきたわけだ。

泉佐野市のサイトには千代松大耕市長のあいさつ文が掲載されている。総務省の制度見直しに対して新キャンペーンを展開するあいさつだが、それはまさに宣戦布告だ。

「新制度を詳しく見ていくと、総務省は国民には見えづらい形で、返礼品を実質的に排除する意思、そしてふるさと納税を大幅に縮小させる意図で新制度を設計しているとしか思えないルールとなっています」

そのうえで、制度が変わるまでの5月31日まで限定として、返礼品に加えてアマゾンギフト券を配る「300億円限定キャンペーン」を展開している。中には返礼率50%に加えて10%のアマゾンギフト券を上乗せし返礼率が実質60%になるものもあった。

総務省に逆らい続けたわけだ。

反乱の芽を潰す

除外決定を受けて泉佐野市は以下のようなコメントを報道関係者向けに出した。

「本日、総務省の報道発表において、本市がふるさと納税の6月からの新制度に参加できないとの発表がありました。本市は、新制度に適合した内容で参加申請を行っていたため、非常に驚いています。なぜ本市が参加できないのか、その理由・根拠を総務省に確認し、総務省のご判断が適切なのかどうか、本市としてしっかりと考えたいと思います」

驚いていますとしているが、実際は除外を覚悟していた。

というのも、除外された4市町には、すでに総務省による「ペナルティー」が課されていたからだ。

石田真敏総務相が3月22日の閣議後記者会見で、今回除外された泉佐野市など4市町に対する2018年度の特別交付税の2回目の配分額を事実上ゼロにしたことを明らかにした。

ふるさと納税で多額の寄付金を集めたことで、財源に余裕があるとみなし、交付税を受け取らない「不交付団体」並みの扱いにしたのだ。

「財源配分の均衡を図る観点で行ったもので、過度な返礼品を行う自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と石田総務相は述べていたが、言う事を聞かない自治体への嫌がらせであることは明らかだった。新制度からの4自治体の除外は、総務官僚の明らかな「意趣返し」とみていいだろう。

そんな「懲罰」まで食らっていたからこそ、制度改正で除外されることを予測した泉佐野市は、総務省にケンカを売るようなキャンペーンに乗り出したのだ。当然、このキャンペーンは人気を博しており、相当な金額のふるさと納税を駆け込みで集めることになりそうだ。

今回の総務省の措置に対して、泉佐野市がどんな対抗策に打って出るのかはまだ分からない。だが、総務省は第二の泉佐野市を生まないための手を、今回打っている。

多額のふるさと納税を集めている43の市町村に対して、新制度の適用を6月から9月までの4カ月としたのだ。言う事を聞かねば9月をもって除外するぞ、と言わんばかりの「恫喝」である。

「地場産品」かどうか疑わしい物を返礼品にしている自治体や、旅行券などの金券を返している自治体に、「イエローカード」を出しているわけだ。今後は総務官僚が返礼品をひとつひとつチェックして、これは地場産品かどうかチェックし、改善を求めていくという。

多額の寄付を集めている自治体は、さまざまな工夫を凝らしているところが多い。どうやってふるさと納税による寄付を集め、それをどう使うかは、まさに自治体が考えるべきことだろう。

納税者は住民税のうちの2割余りを、自らの意思で他の自治体にほとんど自己負担なしで寄付できるのがこの制度の面白いところだ。応援したい自治体に納税者の意思で税金を再分配できるからだ。

国家官僚のための地方自治

実は、このふるさと納税制度については、総務官僚は当初から導入に反対だった。というのも、国が集めた税金を地方交付税交付金として自治体に配分する権限を総務省が握っているからだ。その分配権は総務官僚の力の源泉になっており、自治体に部長などの幹部として出向したり天下ることを可能にしている。

ふるさと納税が拡大していけば、総務省による交付税交付金の分配権に穴があくことになりかねないわけだ。高額の返礼品で寄付の獲得競争をしていることを役所に常駐する記者クラブの記者を使って過度にアピールするなど、ふるさと納税批判を水面下で煽ってきた。

ふるさと納税は増えたと言っても2017年度で3653億円に過ぎない。地方税の税収総額は39兆円を超える。総務省が権限を握る地方交付税交付金も15兆3500億円にのぼるのだ。

ふるさと納税制度ができて、地方自治体の姿勢が変わった点がある。歳入を増やすために、自ら努力するようになったのだ。

これまでは国から来る交付金補助金をどれだけ多くもらうかが自治体にとっての「増収策」だったが、創意工夫で税収を劇的に増やすことがこの仕組みによって可能になったのだ。住民からの税収よりも、ふるさと納税による寄付収入の方が上回っている自治体もいくつも出始めている。

交付金分配権によって自治体の生殺与奪の力を握って来た総務省からすれば、たとえ少額でも、蟻の一穴となって、自治体が自立するようなことになっては困るわけだ。

泉佐野市のような派手なケースが出てくれたおかげで、総務省は言う事を聞かない自治体を「村八分」にする力を得た。泉佐野市の対応が正しいかどうかではなく、地方自治にも、民主主義にも悖るような権限を総務官僚が握っていることを問題視すべきではないか。地方自治とは何か、国民もメディアも考えるきっかけにすべきだろう。