制度を止めたい総務省が強権発動 「ふるさと納税」はどう変わる?

エルネオスの6月号(6月1日発売)「硬派経済ジャーナリスト 磯山友幸の《生きてる経済解読》」の原稿です。是非お読みください。


 六月一日から「ふるさと納税」制度が大きく変った。実質負担二千円程度で気に入った自治体に寄付し、代わりに魅力的な「返礼品」を入手できることから、大人気を博してきたが、法改正で総務大臣が認定した自治体しか、制度が適用されなくなった。除外された自治体に寄付しても制度上の「特例寄付」として扱われず、控除されないことになる。
 見直しでは、四つの自治体が制度から「除外」されたほか、四十三市町村が今年九月までの期間を区切った認定になった。総務省はかねてから、寄付に対する返礼品の調達金額の割合を三割以下に抑えることや、地場産品に限ることを「指導」してきた。法改正で、それを盛り込み、従わない自治体を除外するという強権発動に出たのである。
 除外を発表されたのは、大阪府泉佐野市、和歌山県高野町佐賀県みやき町静岡県小山町の四市町。三割を超える返礼率の商品をそろえたネットショップ張りの専用サイトを展開したり、地場産品でないアマゾンギフト券や商品券などを返礼品に加えたことが総務省の怒りを買った。泉佐野市は新制度で総務省が認める三割以下の地場産品に、アマゾンギフト券を上乗せし、制度が変わるまでの五月三十一日までの限定として「300億円限定キャンペーン~規制後のふるさと納税を体感して、ギフト券最大30%をゲット!~」を行った。ホームページには「これでいいのか?ふるさと納税」という言葉まで付し、総務省の感情を逆なでしていた。

総務省の胸先三寸
適用除外は過去の懲罰

 泉佐野市は除外の発表を受けて、「新制度に適合した内容で参加申請を行っていたため、非常に驚いています。なぜ本市が参加できないのか、その理由・根拠を総務省に確認し、総務省のご判断が適切なのかどうか、本市としてしっかりと考えたいと思います」とのコメントを発表した。新制度では各自治体が申請して総務省が認定したところしか制度の対象にならない。同市は六月以降は総務省の方針に従うという姿勢を一応示していたものの、除外されるのは覚悟のうえだったようだ。
 泉佐野市は、通販サイト張りの専用サイトと高い返礼率が人気となり、二〇一七年度には百三十五億円ものふるさと納税(寄付)を受け入れた。制度が変わる前に、できるだけ多くの寄付を集めておこうという下心があったのは間違いない。除外されるのを想定して、キャンペーンを打っていたのだろう。
 というのも、今年三月二十二日には石田真敏総務相が記者会見で、泉佐野市など今回除外された四市町に対して、二〇一八年度の特別交付税の二回目の配分額を事実上ゼロにしたことを明らかにした。交付税は、国が自治体の財政状態に応じて配分している。東京都など財政的に余裕のある自治体には配られず、「不交付団体」と呼ばれるが、四自治体もこの「不交付団体」並みの扱いをされたのだ。
 会見で石田総務相は、「財源配分の均衡を図る観点で行ったもので、過度な返礼品を行う自治体へのペナルティーという趣旨ではない」と発言していたが、総務省の言うことを聞かない自治体への明らかな嫌がらせだった。
 今回除外になった静岡県小山町の場合、四月の町長選挙では返礼品が争点になっていた。前町長の決断で、アマゾンギフト券などを返礼品に加えた結果、二〇一七年度は二十七億円あまりを集め、二〇一八年度も大きく増やしていたもようだ。推進した前町長は四月の選挙で落選、見直しを訴えた新町長が当選したにもかかわらず、総務省は除外を決めた。過去の「懲罰」の色彩が強いのはこの一件を見ても分かる。
 こうした結果、九月までの「仮免許」状態になっている四十三の市町村は、今後、総務省の顔色を伺うことになるだろう。ご機嫌を損ねれば、泉佐野市や小山町のように、排除されかねない。総務官僚の胸先三寸なのだ。

どこまでが「地場産品」?
新制度でも知恵比べが続く

 しかし、「地場産品に限る」とした新制度には、不満を抱く自治体が少なくない。何を「地場産品」とするかの線引きが不明確だからだ。六月から除外される小山町の場合、五月末までの返礼品には「サーティーワンアイスクリームの商品券」が掲載され続けていた。町長のインタビューによると、町内に工場があることを理由に、町の担当者が総務省の担当者からOKをもらっていた、という。
 地域に特産の農水産物がある自治体は、簡単に寄付が集められる。北海道の根室市は特産の花咲ガニや北海島エビなどが人気で、二〇一八年度に五十億円の寄付を集めたとみられるが、総務省の認定ではこれはOKである。問題は、工場などで生産されたものをどこまで「地場産品」とみるかだ。
 例えば、宮城県名取市の返礼品には、一万円の寄付でヱビスビール三百五十㍉㍑缶十二本がある。市内にビール工場があるというのが理由だ。米国製のタブレット端末を返礼品にしていて総務省からダメ出しされた自治体もあったが、自治体の言い分は、地域の工場がタブレット向け部品を輸出している、というものだった。
 総務省は、金券もアウトだとしているが、自治体内にある温泉旅館などの宿泊券を返礼品にしているところも少なくない。鹿児島県霧島市に二十万円寄付をすると、霧島温泉の有名旅館「妙見石原荘」の本館ペア宿泊券がもらえる。また、栃木県那須町も温泉旅館の宿泊券を返礼品にしている。
 今回の見直しで、寄付する人たちにとっての「お得感」は若干薄れるかもしれない。だが、故郷やお気に入りの地方を応援しようという人はそう簡単に減らないに違いない。
 二〇一七年度は二年で二倍以上の伸びになったものの、ふるさと納税制度で寄付した人は一千七百三十万人、寄付額は三千六百五十三億円に過ぎない。地方税収全体では三十九兆円、個人の住民税収だけでも十二兆円を超える。仮にふるさと納税の最大可能額を個人住民税の二割とすると、二兆四千億円になる。それと比べれば、まだまだ少ない。
 さらに、総務省が分配権を握っている地方交付税交付金の総額は十五兆円にのぼる。納税者の意思で自治体から自治体に移す「ふるさと納税」はまだまだごく一部なのである。
「返礼率三割以下」「地場産品」という法律の条文をどう解釈するか、総務省の指導をパスして、どれだけ魅力的な返礼品を生み出すか。今後も自治体間の知恵比べは続きそうだ。