GDP2.1%増でもやっぱり高まる「消費増税延期の可能性」

5月23日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64797

 

成長率UPでも景気悪化

5月21日の夜、自民党の最大派閥である「清和政策研究会」(細田博之会長)の政治資金パーティーが開催された。安倍晋三首相を送り出している派閥ということもあり、メイン会場はすし詰め状態、画像でつないだ第二会場も満員という大盛況ぶりだった。

駆けつけて挨拶に立った安倍首相は、雇用の増加など経済運営の成果を強調した上で、こう語った。

「1−3月期のGDPは2.1%増という成長となりました」

前日の5月20日発表された1-3月の国内総生産GDP)の数字を挙げたのである。確かに、表面的に見れば、実質0.5%増、年率換算で2.1%増というのは「良い結果」に違いない。前の期である2018年10−12月期は年率換算で1.6%増だったので、それを上回る結果だったことになる。

だが、大方のエコノミストはこのGDPをみて、景気の悪化を指摘している。どういうことか。

0.5%増という高い伸びになったのは、「純輸出」が大きく改善したため。しかし中味を見ると、2.4%減の輸出に対して、輸入が4.6%減と大きく減ったことから、差し引きで貿易が好転しているように見えていることが主因なのだ。輸入は実際の数字である名目では8.0%も減っており、国内景気の急速な悪化を示しているのだ。

もちろんプラスになったものもある。公共投資が実質1.5%増、住宅投資が1.1%増といった具合だが、公共投資は国土強靭化対策などで公共事業を政府が積極的に積み増しているため。住宅投資は消費増税を控えた駆け込みが背景にあるが、駆け込みというには増加率は小さい。

ただ、注目されていた個人消費は0.1%のマイナスと再びマイナスに転落した。足元の消費はかなり弱いのだ。

5月21日に発表された日本百貨店協会の4月の全国百貨店売上高は、前年同月比マイナス1.1%だった。消費増税まであと半年となり、本来ならば駆け込み需要が膨らむタイミングなのだが、売り上げは膨らんでいない。

駆け込み需要が期待される「美術・宝飾・貴金属」の売上高の伸びも8.8%増にとどまっている。一見、大きく伸びているように見えるが、前回の消費増税した2014年4月の半年前である2013年10月の同部門の伸び率は19.7%増だった。

一気に解散風が

もちろん、安倍首相がGDPの中身の分析について説明されていないはずはないし、足元の消費が悪いことも重々承知しているはずだ。それでも「好調だ」という見方を示したのは、明らかに「意図」がある。

清和会のパーティーには、7月の参議院議員選挙の候補者が勢ぞろいした。選挙戦を戦う候補者からすれば、消費増税延期への期待が高い。仮に、首相がそうした候補者の前で「景気悪化」を口にすれば、そうした期待がさらに膨らむことは明らかだ。

パーティーにはテレビカメラも入っており、大半の記者の関心事は消費税の行方にある。下手なことを言えば、消費増税延期と掻き立てられかねない。そこで「2.1%増」をプラス評価して見せたのだろう。

消費増税を巡っては、4月に、安倍首相の側近である萩生田光一幹事長代行がインターネット番組で、景気動向次第では見送りがあり得るという趣旨の発言をし、その場合は、首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性に言及した。

「6月の日銀短観の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、崖に向かい皆を連れて行くわけにいかない。違う展開はある」と語り、さらに「増税をやめるなら国民の信を問うことになる」と述べたのである。

永田町に解散風が一気に吹いたのは言うまでもない。

5月13日に内閣府が発表した3月の景気動向指数(CI)の速報値では、景気の「現状」を示す「一致指数」が99.6と、前月よりも0.9ポイントも低下した。指数は2015年を100としたもので、その変動から機械的に「基調判断」を導き出す。その「基調判断」が2013年1月以来、6年2カ月ぶりに「悪化」となったのである。

第2次安倍内閣が発足したのが2012年の年末だから、政権発足以来の「悪化」ということになる。アベノミクスの「息切れ」が鮮明になったわけだ。

そんな中で、菅義偉官房長官が5月17日の記者会見で、野党が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院を解散する「大義」になるかという記者の質問に対して、「それは当然なるんじゃないでしょうか」と述べたのだ。

「首相の専管事項」とされる解散について官房長官が言及するのは極めて異例で、一気に衆議院の解散・総選挙が永田町のムードになったのである。

禁じ手、消費税率引き上げ延期は?

安倍首相は2015年10月と2017年4月に、予定されていた消費税増税を先送りし、その後の国政選挙で勝利してきた。総選挙となれば、切り札として「消費増税延期」が再度使われることは明らかだろう。

では、消費増税はまたしても延期されるのか。

増税による反動減対策として、すでに政策発動するための予算を計上しており、実際にはもはや引き返せないというのが霞が関の見方だ。だが、足元の消費が弱い中で、増税を強行して景気が一気に腰折れすることになれば、政権への批判が一気に噴出することになりかねない。

萩生田氏が言うように7月上旬に発表される「日銀短観」までは、増税見送りの可能性を慎重に探っていくことになるのだろう。