総務省の「泉佐野市いじめ」が止まらない…!ふるさと納税の報復か  やはり「地方自治」は名ばかり

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どう見ても嫌がらせ

ふるさと納税の制度を利用して多額の寄付金を集めた大阪府泉佐野市に対する総務省の“いじめ”が続いている。

2019年12月分の特別交付税の同市への配分額を、前年度に4億3502万円あったものを、災害対応分の710万円に大幅減額したのだ。交付団体の中で災害対応分だけだった自治体は泉佐野市だけだった。事実上、交付税を受け取らなくても財政運営ができている「不交付団体」並みの扱いがされた。

もちろん泉佐野市が黙っているわけがない。「ふるさと納税での収入増を理由に交付税を減額されたのは納得できない」として、国に審査を申し立てていた。ところがこれに対しても「却下する」との高市早苗総務相からの文書が1月24日に届いた。地方交付税法の規定は特別交付税の算定方法に対する不服等は審査の対象としていない、という紋切り型の回答書で、門前払いだったが、背後にふるさと納税を巡る同市との対立があることは明らかだった。

泉佐野市の千代松大耕市長は声明を出し、こう憤った。

「本市を狙い撃ちにして大幅減額するようなルール変更がなされたことは、ふるさと納税をめぐって国と争っている本市への嫌がらせであるということは、誰の目に見ても明らかです」

泉佐野市への交付税の減額は2019年3月に続いて2度目で、総務省泉佐野市を目の敵にしていることは明らかだ。

確かに、泉佐野市がふるさと納税制度を巡って「やりすぎた」ことは間違いない。

2018年度に泉佐野市は497億5300万円のふるさと納税制度による寄付を集めた。全国最多の受入額だった。初めてトップになった2017年度は135億円と唯一100億円を集めて話題になったが、それをさらに大きく上回った。

総務省ふるさと納税の制度を見直し、2019年6月から新制度に移行するのを前に、「閉店セール」として返礼品のギフト券を大盤振る舞いするなど、総務省の神経を逆撫でした。

もともとネットショップばりのホームページを開設、豊富な返礼品の品揃えで人気を集めていたが、それに拍車をかけたのだ。総務省は繰り返し大臣名の通知を出して、返礼品の寄付額に対する割合を3割以下に抑えることや、地場産品に限ることなどを求めていたが、泉佐野市はそれを無視していた。

法律が代わって新制度になるのを前に「駆け込み」で多額の寄付を集めたのだ。

逆らうものは許さじ

そんな泉佐野市に総務省は“懲罰”を加える。地場産品の利用や返礼品の金額割合を抑えることに従わなかったことを理由に、寄付額上位の4つの自治体、泉佐野市、静岡県小山町和歌山県高野町佐賀県みやき町を新制度の対象から除外したのだ。

他の3市は黙ってそれを受け入れたが、泉佐野市は闘争を開始する。新制度から除外した総務省の決定を不服として、「国地方係争処理委員会」に審査を申し立てたのだ。

2019年10月に委員会は、「過去の募集方法を根拠に(新制度から)除外するのは改正地方税法に反する恐れがある」と指摘、総務省に再検討を求めた。ところが、それでも総務省は除外方針を変えなかったため、泉佐野市が大阪高等裁判所に提訴した。

その裁判の判決も1月30日に下され、請求は棄却された。

佐村浩之裁判長は判決理由で、これまでの過度な返礼品競争などの経緯を踏まえると、過去の実績を考慮し参加自治体を指定する新制度は総務相の裁量の範囲内だ、とした。

泉佐野市は、後からできた法律で、過去の行為を問題として新制度から除外するのは、法律の大原則である「不遡及の原則」に抵触するとしていたが、高裁はこれを認めなかった。泉佐野市は判決を不服として最高裁判所に上告した。

もっとも、泉佐野市との係争は、総務省にとっては願ってもないことだったに違いない。国の言うことを聞かない自治体は、交付税を減らすという仕打ちを覚悟しなければならない、ということを裁判所も認めたからだ。

もともと総務省ふるさと納税に対して反対で、本来は住民サービスに使われるべき税金が他の自治体に回り、しかも返礼品で納税者に戻っているのは問題だという批判を繰り返し展開してきた。その問題性を証明する格好の事例が泉佐野市なわけだ。

目覚めた自治体の自立意識が

実は、ふるさと納税制度で、地方自治体の意識が大きく変わっている。人口減少が続く中で、どの自治体も税収減に悩まされているが、自らの努力で地域を売り込み、寄付金という形で収入を増やす道ができたのである。

制度ができる前までは、地方交付税交付金を配分する総務省や、様々な補助金を交付する霞が関に日参するくらいしか、方法がなかったのである。

ところが、工夫してせっかく収入を増やしても、地方交付税を減らされてしまうのでは何にもならない。泉佐野市への仕打ちは、自治体の財政的自立を妨げることにつながりかねないのだ。

そもそも総務省は、自治体を財政的に自立させようと考えていないことは明らかだ。全国に1765ある自治体のうち、財政が黒字で交付金を受け取っていない自治体(不交付団体)はわずかに86だ。圧倒的多数が財政的に自立せず、交付税に依存している。

これは交付税額を決める総務省にとっては権限を増すことになる。総務省の人材を副市長や部長など幹部に迎える自治体が後をたたないのは、そんなところに理由がある。再分配機能に名を借りた国による地方支配が続いていると言っても良い。

ふるさと納税は大幅に増えたと言っても、まだ5000億円だ。地方交付税交付金の総額は15兆2100億円にのぼる。むしろ、多くの自治体が、国への依存を高めている。

2018年度に泉佐野市にふるさと納税した人は、のべ250万人。2位の小山町の29万人をはるかに上回る。そうした人たちが全て、返礼品目当ての「損得」で泉佐野市を「応援」したのだろうか。地方自治のあり方を考える上で、今後も国と泉佐野市のバトルから目を離せない。