「ふるさと納税」を「寄付」を考えるきっかけに 12月を「Giving December」にする取り組みも始動

現代ビジネスに12月21日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/238117/122000091/

総務省が7自治体を“やり玉”に
 今年もふるさと納税の締め切りが迫っている。今年の所得税や来年の住民税の控除に間に合わせるには、12月31日までに当該自治体への「入金」が完了しなければならない。ふるさとチョイスなど専用サイトからならば12月31日まで可能なところが多いが、金融機関から振り込む場合には営業日が12月28日までなので注意が必要だ。1分でも遅れれば来年以降の控除ということになってしまう。

 総務省が発表している「ふるさと納税に関する現況調査」によると、2017年度にふるさと納税の仕組みを使った寄付金の総額は3653億円。前年度の2844億円から3割増え、制度ができた2008年以降最多となった。2013年度は145億円にすぎなかったものが、確定申告がいらない「ワンストップ制度」が始まったことや、地域が創意工夫を凝らした「返礼品」を用意したことで、一気に寄付額が増えた。

 そんな人気沸騰中のふるさと納税に、総務省が横やりを入れているのはご承知の通り。2017年4月と2018年4月に大臣通達を出して、返礼品について「換金性の高いものの禁止」や「金券の禁止」、「地場産品に限ること」、「返礼品の調達金額を寄付額の3割以下に抑えること」などを求めた。2018年9月に、野田聖子総務相(当時)が、制度の見直しを表明。総務省の自粛要請に従わない自治体については、控除の対象から外すとした。

 自民党税調などもこれを了承、2019年6月1日以降、従わない自治体をふるさと納税制度の対象から外し、その自治体に寄付しても税金から控除できなくなる。強権で自治体をねじ伏せる結果になるわけだ。

 総務省は9月時点で、「返礼品調達額が寄付額の3割以下」という基準に“違反”している自治体が246、「返礼品は地場産品に限る」という基準に“違反”していた自治体が190あると公表していた。こうした自治体は、「対象から外す」と脅されたことで、返礼品の見直しを行い、11月1日時点で前者が25、後者が73に減った。お上のご意向には逆らえない、というわけだ。

 両方の基準を守っていない自治体として7自治体がやり玉に挙げられた。2017年度の寄付額実績で135億円を集めた大阪府泉佐野市や、新潟県三条市宮城県多賀城市和歌山県高野町、福岡県福智町、福岡県上毛町沖縄県多良間村である。泉佐野市や三条市は、総務省の一方的な指弾に反発。当初は制度が見直されても従来通りの返礼品を続ける姿勢を見せていたが、総務省が本気で対象外とする意向を示しているため、2019年6月までに、しぶしぶながらも見直しを行うのではないかと見られている。

ふるさと納税は、地方の「創意工夫」の一つ
 もちろん、過度の返礼品競争には批判もある。返礼品につられて寄付をするのは、本来の寄付ではないから税金の控除対象にするのはおかしいという識者もいる。一部の自治体が高額の返礼品を出してごっそり寄付を持って行ってしまうので、自分の自治体には寄付が来ない、という自治体の声も聞かれる。東京都など税金が「流出」する一方の自治体は、そもそもふるさと納税制度に反対している。

 だが、この制度によって、自治体が大きく変わったのも事実だ。これまで自治体が収入を増やそうと思えば、中央から降って来る地方交付税交付金を増やしてもらえるよう、総務省の言うことを聞くのがせいぜいだった。あるいは、国が設けた補助金助成金を獲得するために、地元選出の国会議員や総務省に陳情して歩くぐらいしかできなかったのだ。

 それが、ふるさと納税制度ができて、自分たちの魅力をアピールすることで、税収(寄付)を増やすことができる道ができたのである。地元の特産品をアピールしたり、観光地としての魅力をアピールするために、「返礼品」をそろえ、納税者の心をくすぐった。泉佐野市がネットショップ張りのふるさと納税サイトを作り、ポイント制度などを導入して人気を博したのも、そんな創意工夫の一つだった。実際の地域からの税収を、ふるさと納税が上回るケースも相次いでいる。

 もう一つ、自治体の首長や職員にとって大きなメリットがある。予算は議会の承認を得なければ一銭も支出できない。自治体が産業振興目的で助成金などを出そうとした場合、議会が同意しなければ何もできない。

 ところが、ふるさと納税は使途を明示するなどして「寄付」を募ることが可能なので、首長や職員がやりたかったことを世の中に問いかけ、それを実現することができるのだ。首長や職員にとっては、自分たちの創意工夫を発揮するチャンスができたのである。

 議会の「意思」による予算配分は必ずしも住民のニーズに沿っているとは限らない。政治力のある議員の声が政策に反映されるのが普通だ。ところが、ふるさと納税にひもづけされた事業ならば、納税者(寄付者)の意思がきちんと反映される。ふるさと納税は非常に「民主的な」仕組みとも言えるのだ。

 さらに重要な事がある。ふるさと納税は、納税(寄付)する側の意識を変えることにも成功しつつあるのだ。最初は返礼品が目当てで寄付をしたものが、出会った自治体への共感が生まれ、ファンになっていく。最終的には返礼品だけが狙いではなくなっていくケースが増えているのだ。

 また、自治体の中には、返礼品を出さないでプロジェクトに賛同してくれる人たちに呼び掛ける「ガバメントクラウドファンディング」も広がっている。これは行政の事業に「共感」した納税者が資金提供するわけで、自分の税金の一部を自分の意思に合った事業に回す、税金使途の明示に当たる。まさに、民主主義を実現する一歩、ともいえるわけだ。

ふるさと納税は、災害への善意の寄付も後押し
 日本には「寄付」という文化が根付かない、としばしば語られる。寄付税制が貧弱だから、寄付が増えない、という声もある。

 だが、それは本当だろうか。

 東日本大震災などの大きな災害を機に、善意の資金を寄せる人たちが急増した。その背中を押しているのが「ふるさと納税」である。ふるさと納税は、当初は税金の「付け替え」というアイデアから始まったが、それを「寄付」の枠組みを使うことで実現した。その結果、「寄付」のハードルが大きく下がったとみていいだろう。

 ふるさと納税のワンストップ制度を使えば、確定申告なしに「寄付」の税金控除の手続きができる。しばしば、ふるさと納税には「上限」があるとされるが、これは自分の住民税から控除され、実質的に数千円の負担だけで「寄付」できる額のこと。それを超えて寄付しても自己負担額が増加するだけで、まったく税制上のメリットがなくなるわけではない。

 ふるさと納税による寄付の総額と、税金の控除額の合計には大きな差ができ始めている。つまり、「上限」を超えて寄付している人がたくさんいる、ということなのだ。着実に日本に寄付文化が根付き始めているとみていいだろう。

 自治体によっては、ふるさと納税の枠組みを使って、被災自治体の代わりにいったん寄付を受け付け、手続きなどを「代行」して、最終的には被災自治体に届けるという寄付の仕組みを作りだしたところもある。これも厳密にいえば、総務省が言うところの「ふるさと納税の本当の狙い」からは外れた活用方法ということになるだろう。だが、そうした工夫を生んだことにこそ、大きな意味があるのではないか。

 日本では12月を「寄付月間 Giving December」と名付け、寄付について考えたり、寄付を実行したりする月にしようという運動が始まっている。「締め切り」が迫るふるさと納税の返礼品を選ぶ際に、「寄付」について思いを巡らすのもひとつの社会貢献と言えるだろう。