お家騒動のLIXIL、新体制は「社外取締役だらけ」で大丈夫なの?

6月27日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65520

お家騒動の顛末

瀬戸欣哉前CEO(最高経営責任者)の突然の解任劇で始まったLIXILグループの経営権を巡る騒動は、6月25日に開いた株主総会での投票の結果、瀬戸氏がCEOに復帰することで落着した。

もっとも、取締役候補者について、会社側提案名簿、株主側提案名簿をそれぞれ一括して賛否を問うのではなく、名簿に登載された候補者一人ひとりについて投票する仕組みになったため、株主提案側候補8人、会社側提案候補6人の合計14人が取締役に選ばれるという「呉越同舟」状態になった。

会社側提案で候補者だった福原賢一・ベネッセホールディングス代表取締役副会長と、元財務官僚の竹内洋氏は選任されなかった。両氏の就任が否決されたのは、議決権行使助言会社が反対を推奨していたことが大きいとみられる。

株主側候補の全員、会社側候補の大半がともに選任されたのは、創業家など大株主の票が割れ、最後まで拮抗していたとみられること。機関投資家の中には、両方の候補者に賛成票を投じたケースがあったことなどが理由とみられる。

会社側提案はLIXILグループ執行役副社長の大坪一彦氏だけが社内取締役で、他はすべて社外取締役で固めた。社外取締役が過半を占め、一見、コーポレートガバナンス上、優れているため、機関投資家が反対しにくい候補者名簿とみられた。もっとも、運用のされ方によっては、唯一の社内取締役である大坪氏任せになりかねないという見方もあった。大坪氏の背後には総会前に辞任した潮田洋一郎氏がおり、潮田氏の影響力が残るという見方もあった。

潮田氏はLIXILの前身の1社である旧トステム創業家。昨年10月末に、当時取締役会議長だった潮田氏が、突然、瀬戸氏をCEOから解任し、自らCEOに就任したが、その解任劇が不透明だったとして海外機関投資家を中心に反発の声が上がった。そうした声に押される格好で、瀬戸氏が復帰を目指して攻勢を強めていた。

潮田氏は形成不利と見たのか、株主総会前にCEOを自ら辞任、取締役候補にもならないことで、何とか影響力を残そうと試みたとみられる。

結果、大半が社外取締役

株主総会に出された株主提案の取締役候補者は、瀬戸氏のほか、LIXIL前身のINAX創業家である伊奈啓一郎・LIXILグループ取締役らが名を連ね、潮田派との対決姿勢を鮮明にした。候補8人のうち社内取締役4人、社外取締役4人という構成だった。社外取締役が半数で、会社側提案に比べ、社内色が強い候補者名簿だった。

株主総会で選ばれた「新体制」は図らずも、14人中9人が社外取締役になった。社内取締役5人中、株主提案側が4人を占めたものの、社外取締役9人中5人は会社側提案の人物になった。

しかも株主提案側社外取締役候補の4人のうち2人(鬼丸かおる・前最高裁判所判事と鈴木輝夫・元あずさ監査法人副理事長)は、会社側候補者としても提案されていた(両氏はそれを承諾していなかった)。つまり、社外取締役は会社側が「多数」を占めたのである。

株主総会後の取締役会でCEOに選ばれて復帰した瀬戸氏や瀬戸氏派の社内取締役が主導権を握ったとしても、社外取締役の十分な理解と支持を得なければ事が進まない状態になったわけだ。

しかも、取締役会議長は会社側提案の社外取締役候補だった松崎正年・コニカミノルタ取締役が就いた。

焦点は、社外取締役が今後、どれだけ「本来の機能」を果たしていくかだろう。

本来の機能とは、株主の利益を守ることである。特に、瀬戸氏復帰の原動力になった海外機関投資家の理解を得られるかどうかが重要になる。

総会後に開いた記者会見で松崎氏は、機関投資家との対話について、「主な役割は瀬戸氏が担うが、必要に応じてわれわれ社外取締役機関投資家との対話は厭わない」と発言していた。

今度こそ機能するのか

日本では社外取締役制度が広がって日が浅いこともあり、まだまだ社外取締役が機能しているとは言い難い。会長社長やCEOといった社内の実力者が実質的に社外取締役を選んでいるケースも多く、社外取締役側も「社長の相談係」程度の意識しかない人も少なくない。

まして、過半数社外取締役が占めるケースはごく稀で、社外取締役がどれだけ経営の方向性を示すなどの重要な役割を担うのか、実証例はほとんどない。

偶然の産物として生まれたLIXIL新体制の社外取締役は9人中5人が経営者で、1人が機関投資家、1人が大物公認会計士で、いずれも経営に関わるプロと言える。

日本の社外取締役選考で多い「お目付役」的な存在は、最高裁判事を務めた鬼丸氏と、元米国務省アジア太平洋担当国務次官補のカート・キャンベル氏である。経営のプロが中心で、法曹関係者と外国人という「外部の目」が入る体制は理想的とも見える。

CEOについた瀬戸氏は、会社側提案で唯一の社内候補だった大坪氏について「優秀で一緒にやっていける」とし、事業会社LIXILの社長として留任させることを表明した。

また、執行役についても大きな入れ替えは行わなかった。「ワンリクシル」を目指していく姿勢を強調した。

果たして雨降って地固まるとなるか。LIXIL新体制は、社外取締役過半数を占めるという新しいガバナンスの日本におけるモデルとなれるのかどうか。瀬戸氏の力量だけでなく、社外取締役の力量が大いに注目されることになる。