日本株の巨大リスク…海外投資家が呆れる「日産・関電・積水ハウス」 いまの「買い」はこのまま続くのか

定期連載の現代ビジネスに12月13日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69176

海外勢は8週連続買い越しだが

海外投資家の資金が日本株に向かっている。日本取引所グループがまとめている投資主体別売買状況(週次、2市場1・2部合計)によると、1月4日から9月27日までの38週のうち、「海外投資家」が買い越していたのは、わずか7週だった。それが、9月30日から11月29日の9週のうち8週が「買い越し」になった。この間の買い越し額は2兆円を超えた。

日経平均株価が2万1000円台から2万3000円台に駆け上がった背景には、こうした海外投資家の日本株への投資姿勢の変化があったわけだ。売買高の過半を海外投資家が占める日本の株式市場では、彼らの動向が相場を決める。

2018年は海外投資家が5兆7400億円を売り越した。売越額としては「ブラックマンデー」の暴落があった1987年以来、31年ぶりの高水準だったと報じられた。

9月末まで、2019年も海外投資家の2年連続の売り越しは必至だとみられていたが、ここへ来て、年間合計で「買い越し」になる可能性も出てきた。2020年の相場を占う上でも、海外投資家の買い姿勢が年末に向けて続くかどうかが大きな焦点になっている。

外部環境からすれば、日本株には追い風が吹いている。米中貿易戦争の余波で米国の年金基金などは中国企業向けの新規投資に二の足を踏んでいる。また、香港での抗議行動の余波で、香港市場から外国人投資マネーが逃げ出しているとされる。そうした資金が出遅れ感の強い日本株に引き続き向いてくる可能性は十分にあるのだ。

「統治なしが日本企業の風土?」

ところが、海外投資家が日本株に目を向けた時、眉をひそめる問題が頻発している。

今、欧米の機関投資家は「ESG投資」を標榜するところが多い。Eは「環境」、Sは「社会」、Gは「コーポレートガバナンス企業統治)」である。そんな中で、企業統治で問題を引き起こす企業の多さが、海外投資家の投資を躊躇させている。特に長期にわたって投資する年金基金などは、日本企業のガバナンス問題に神経をとがらせている。

最も海外の投資家の耳目を集めたのは日産自動車カルロス・ゴーン元会長問題だ。国際的に知名度の高い企業トップがいきなり逮捕拘留されるという衝撃的な事件は、世界の投資家も動揺させた。単に日本の司法制度に疑念が向いただけではなく、「やはり、日本企業は異質だ」という感覚が投資家の間に広がった。

ゴーン追い落としは、日産の権力闘争や、ルノーに完全支配されることを良しとしない政府の意向などが働いている、と海外投資家は見ている。世界の常識のコーポレートガバナンスの仕組みが、日本では通用しないのではないか、という疑念が広がったのだ。

社外取締役が中心になって西川廣人・前社長を辞任に追い込んだ背景にも、海外投資家だけでなく、日本生命保険など内外の機関投資家が西川氏の再任に株主総会で反対したという「事件」があった。ガバナンスを重視する機関投資家の声を無視できなくなっているのだ。

関電のおかげで日本全体が疑われる

日産の問題はまだ収束しておらず、引き続き海外投資家の一段関心事になるだろう。そんな中、世界の投資家を唖然とさせたのが、8月末に報道で発覚した関西電力問題だ。

関電の高浜原発がある福井県高浜町森山栄治元助役(故人)から約3億2000万円の金品を関電幹部が受け取っていたという問題で、八木誠会長や岩根茂樹社長も金品を受け取っていたことが発覚、八木会長が辞任に追い込まれた。

関電は元検事総長但木敬一弁護士を委員長とする「第三者委員会」を設置、年内に報告書を出すとした。その上で、それまでの間、岩根社長の留任を決めたのである。

金品を受領した張本人が社長に居座った上で、調査委員会に「協力する」という呆れた方針に、世界の投資家は耳を疑った。しかも、関電1社の問題にとどまらず、日本企業全体への疑義の目を向けられることになった。

三者委員会は12月15日に会見を開き、「調査状況報告」を行うとしているが、報告書自体は約束の期限を守れず、越年することとなった。岩根社長もそのまま辞めずにとどまるのだろうか。

そんな中、関電は岩根社長の後任人事について内部昇格させる方針を決めたと報じられている。副社長ら6人の取締役の中から選ぶという。

根本的なガバナンスのあり方が問われていて、調査結果も出ないまま、外部からの登用などを「封じる」動きをすること自体、ガバナンスの欠如を物語っている。今後、株主総会機関投資家がどう行動するかが焦点になるが、こうしたガバナンスの欠如が日本企業全体の「投資適格性」を揺るがしている。

隠蔽の積水ハウスへの疑いの目

もう1つ、最近、海外投資家が問題視し始めている案件がある。積水ハウスである。

積水ハウスが架空の土地売買で55億円を騙し取られた「地面師」事件に絡んで、取引を主導した社長らの責任を追及しようとした会長(当時)が逆に解任され、当事者たちが経営陣として残ることになった。事件の詳細を調査した報告書も全文公開しないなど、会社として隠蔽していると、海外投資家が問題視し始めているのだ。

かつて巨額の損失を隠していたオリンパスで、真相を追及しようとしたマイケル・ウッドフォード社長が解任された問題は、社長が英語で発信できる外国人だったこともあり、世界の投資家に大きく注目された。積水ハウスの問題を、オリンパス問題に重ねて見ている海外投資家がいるわけだ。

積水ハウスは1月決算。4月の株主総会に向けて海外機関投資家が何らかの動きに出てくるとみられている。

海外投資家が日本株に再び関心を持つ場合、日本企業のガバナンスを問題として指摘してくる可能性が高い。2020年6月の株主総会に向けて機関投資家が企業に社外取締役の増員や、ガバナンス体制の見直しを要求してくるとみられる。投資する以上、経営に口も出すというのが長期志向の機関投資家にとっては当たり前のスタイルだ。

日産・関電・積水ハウス——。こうした企業が今後、ガバナンスをどう立て直していくのか。日本企業のガバナンスを象徴する問題として、日本株の行方を大きく左右することになりそうだ。