株式・不動産は絶好の買い場、「安い日本」へ外国人買いは殺到するか 日本企業の経営力と不祥事リスクは?

現代ビジネスに11月29日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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10月以降、海外投資家買越しへ

世界的にインフレが進む中で、物価上昇率が相対的に低いうえに、通貨安が進んでいる日本の「安さ」が際立っている。日本の株式や不動産といった資産を買おうとする外国マネーにとっては絶好の「買い場」のはずだが、いったい海外投資家はどう動こうとしているのか。一方向に進んできた円安が一服したことで、本格的な外国人買いが始まりそうな気配だ。

日本株は相対的に安くなっているので買うタイミングを見ています」と米系ファンドの日本人マネジャーは言う。円安が進んだことで、絶好の買い場が到来しているというのだ。

日本取引所グループが発表している投資部門別売買状況によると、2022年の年初から10月まで「海外投資家」は累計3兆3600億円あまり「売り越し」た。米国や欧州の中央銀行がインフレ退治に向けた金利引き上げ姿勢に転換したことで、株式からマネーマーケットへと資金が移動する流れに押された。1−6月だけで日本株は2兆3000億円あまり売り越された。7月は「海外投資家」は若干の買い越しとなったものの、8月、9月と再び「売り越し」に転じた。

この間、日本株を買い支えたのはもっぱら「事業法人」で、1月から10月までで4兆1000億円あまりを買い越している。中心は企業の「自社株買い」と見られ、好調な企業業績を背景に、下落したタイミングで自社株を購入するケースが増えている模様だ。

海外投資家にとって、円安が進めば、ドル建て価格がその分下落するので、絶好の買い場であることは間違いない。しかし、購入した後も円安が進行すれば、株価がその分上がらない限り、ドル建ての資産価値は目減りしてしまう。それだけに、急激な円安が一服し、さらなる円安リスクが小さくなった段階で買いを入れようと考えている。日銀による為替市場への介入などをきっかけに、機が熟したと見る海外投資家が増えている。

10月の「海外投資家」は6191億円を買い越したが、11月に入っても第3週までの累計で8900億円あまりの買い越しになっている。この傾向が年内いっぱい続くかどうかが注目される。世界全体の投資動向からすれば、まだまだ金利上昇傾向が続くと見られ、株式投資のウェートを下げる方向に動くことになる。一方で、日本株はここ数年、ポートフォリオの中でのウェートが大きく下がっていただけに「底値」とみれば本格的な買いが入ってくる可能性は十分にある。

経営力の欠如と不祥事のリスク

その際、ポイントになるのが、日本企業の「経営力」と「不祥事リスク」だという。海外投資家からすれば、いくら「割安」な企業とはいえ、投資後にまったく成長しないのでは株価が上昇する可能性はない。日本企業の多くの収益力が低く、成長性に乏しいのはひとえに「経営力」の欠如にかかっているという見方が強い。

一部のモノ言う株主は、日本企業の経営陣を入れ替えることで成長性を取り戻し、一気に株価を引き上げようと試み始めている。今後、株価が大きく下落すれば、海外投資かに「買収」ターゲットとして狙われる日本企業も増えてきそうだ。

「不祥事リスク」は海外投資家にとって日本企業に投資する際の最大のリスクになっているという。三菱電機のように優良企業と思われてきたところが、長年に及ぶ品質不正を行っていたことが明らかになるなど、日本企業の不正など不祥事が注目されている。東京オリンピックパラリンピック大会にからむ贈収賄事件でも、電通AOKIホールディングスKADOKAWAなどいずれも上場企業の幹部や元幹部が逮捕・起訴されている。

今、世界の投資界ではESG投資が大きなひとつの流れになっており、E=環境、S=社会、G=ガバナンスに問題がある企業への投資が忌避される傾向にある。特に長期投資を行う年金基金などはESGを重視する傾向にある。日本企業の場合、Eの環境問題には積極的に取り組んでいるところが多く、Sの社会課題にも前向きだが、Gのガバナンスには問題を抱えている企業が少なくない。

コンプライアンス重視など長年にわたって言われ続けているものの、不祥事が後を絶たない背景には日本企業の緩いガバナンス体制があると海外投資家からは見られている。

この「不祥事リスク」も経営力に欠陥がある結果だとも言える。ガバナンス重視の経営に日本企業が転換できるかどうかが、今後本格的に海外資金を呼び込めるかにかかっている。

いまこそ「ガバナンス改革」なのだが

「とても大切な政策の一つは、コーポレートガバナンス改革だ」

岸田文雄首相は9月22日、訪問したニューヨーク証券取引所でスピーチしてこう語った。

実は安倍晋三元首相は、世界の投資家に直接改革姿勢をアピールすることで日本の株価の底上げに成功してきた。その前例に倣おうとしたのだろう。当時、安倍首相はコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入で、社外取締役を2人以上置く企業が17%から88%になったことなどを示し、ガバナンス改革の成果を強調した。

国内でもガバナンス改革を訴えていた安倍元首相と違い、岸田首相は国内での演説ではほとんどガバナンスについては触れていなかった。それが、ガバナンスが「大切」と語ったのは、世界の投資家が日本企業に投資する場合、ガバナンスがネックになっていることを聞かされていたからだろう。

だが、残念ながら、それ以上、踏み込んだ具体的な方針は示されなかった。「世界中の投資家から意見を聞く場を設けるなど、日本のコーポレートガバナンス改革を加速化し、更に強化する」とするにとどまった。岸田流の「聞く力」を発揮するということだろう。

円安が一服し、海外投資家が日本に目を向けている今こそ、具体的なガバナンス強化の方針を示すことができれば、海外投資家が本格的に日本株を買ってくるきっかけになるのではないか。