【オンラインセミナー】新型コロナ大恐慌を回避できるか? 魔の12月「経済危機第2波」を防げ

新潮社フォーサイト開催したオンラインセミナー(11月5日)で「新型コロナ大恐慌を回避できるか?」をテーマに、経済危機の「第2波」に備えるにはどうしたらいいのか、現状を分析・解説したものを、文字に起こして頂きました。是非ご一読ください。

オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/47544

 

 ジャーナリストの磯山友幸と申します。フォーサイトとのお付き合いは『日本経済新聞』に勤めていた時代からで、かれこれ20年近くになります。2011年3月末に『日経新聞』を辞めたのですが、なんと翌日の4月1日付でフォーサイトのウェブ版に記事を載せていただいたという、私にとっては非常に大事なメディアです。今日はお話をいただいたので、とりもなおさず準備をしました。読者の皆さん、潜在的な読者の皆さんに私のお話をしたいと思います。

99.9%減

 今日は「新型コロナ大恐慌を回避できるか?」というテーマをいただいています。実はフォーサイトでは、新型コロナと経済の問題について、だいぶ早い段階から原稿を書いてきました。最初に書いたのは3月3日付の原稿(『「新型肺炎」経済対策「何でもあり」で「消費減税」の可能性』)で、次は3月18日に『「新型コロナ」蔓延であなたの「給与」はどうなる?』、4月30日には『90年前「世界大恐慌」から学べる「教訓」』など、早くからかなり厳しめの原稿を書いています。8月6日には、『「巨額赤字」続出は序の口これから始まる「リストラ」「給与削減」「倒産」』という記事を書いて、これは非常にたくさんの方に、なおかつ長期にわかって読んでいただきました。

 今日は数字、経済統計データを冷静に見ながら、現状をしっかり分析し、それが今後どうなっていくのか、また政府の経済対策がうまくいっているのかを検証して、今のタイミングでこういう対策をとれ、とるべきだ、というようなお話が結論でできるといいなと思っています。

 

 現状、数字を見ると、インバウンドが消えたと言われていますが、左のグラフにあるように、日本にやってくる外国人は4~7月は99.9%減と完全にストップして、1つの国から1日1人も来ないというような状況が続きました。

 あまり注目されませんが、右側のグラフは出国した日本人の数ですが、これも4月以降99.9%減が続いており、完全に人の動きが消えたということがこれでわかります。


 

 「モノの動き」については、月間の貿易額の輸出と輸入を合わせたものをグラフにしています。ピークには月間で15兆円あった貿易額が、コロナが蔓延した直後の4~5月では9兆円近くまで落ち込みました。ここへ来て戻ってきていますが、ピークから比べるとまだまだ戻りが鈍い。右側は中国向けの日本からの輸出と、アメリカ向けの日本の輸出をグラフにしています。これを見ると歴然ですが、中国向けの輸出は早い時期、1~2月の段階で底をつけてV字に回復しているのに対して、アメリカ向けはむしろ5~6月にかけてマイナスが大きくなり、中国に出遅れているのがわかります。

 ちなみに日本との年間貿易額ではアメリカがずっとトップで、一昨年には中国が1度トップに立ったことはあるものの、今年は断トツで中国との貿易額がアメリカを上回り、日本にとっては今後も中国の存在感がさらに大きく増してくると思います。

「その割に危機感が薄い」

 

 経済規模はGDP国内総生産)で測りますが、先日、7-9月期のGDPが発表されました。「急回復している」という見出しで、アメリカのGDPも年率換算で33.4%増と急回復しています。しかし日本、アメリカともにGDPの数字は見るのに注意が必要で、7-9月期というのは、あくまで4-6月期に比べてどれだけ伸びたかのかというデータです。日本の7-9月期は4.3%増、年率では18.4%増となっていても(セミナー後の11月16日発表では、7-9月期は5.0%増、年率では21.4%増)、実は前年同期で見ると、4-6月期はマイナス9.9%で、7-9月期は7.7%のマイナスになる(11月16日発表では、4-6月期はマイナス10.2%、7-9月期はマイナス5.8%)。ですから、「急回復」のイメージと我々の肌感覚には大きな差があります。「このグラフで示している4-6月期よりはマシだけど、7-9月期もまだまだ厳しいよね」という方が、我々の肌感覚に近いものがあるでしょう。


 

 このグラフは企業の最終損益の推移を年別に見たもので、もっとも低い2009年というのはリーマンショック直後で大赤字の企業が相次いだときです。東証1部上場企業をトータルすると、かろうじて黒字ではあったものの、ほぼ利益がゼロに落ち込みました。

 2020年3月期は、20兆円の最終利益が東証1部上場企業で出ていますが、これが2021年3月期にどこまで落ちるか、1つの焦点です。10月30日現在の数字で中間決算が出ており、純利益は43.6%の減少になっています。おそらく、これから発表される企業の方が決算内容は悪いところが多いので、この数字はもう少し厳しいものになるのではないかと思います。

 今まで発表したうちの5社に1社、20.9%が赤字決算をしており、JR東日本が2643億円、ANAが1884億円、JALが1612億円の赤字で、JR東日本ANAも年間5000億円ぐらいの赤字になるのではという見通しが出ています。

 ちなみに、最大の赤字が出そうな日産自動車ですが、11月12日に中間決算が発表されます(発表数字は3299億円の最終赤字)。いずれにしてもこれから巨額の赤字決算を発表する企業というのは、続々と出てくるでしょう。


 

 「その割には危機感が薄いのではないか」というのは、永田町や霞が関を取材して歩いている私の印象です。安倍晋三前首相が6月の記者会見の段階で、

 「230兆円の世界最大の対策を講じているので、それによって雇用と暮らし、日本経済を守り抜いていく」

 と話し、実際に2回補正予算を組み、膨大なお金を市中にばらまくことで、経済が底割れしないのではないかと見ている人たちがいます。特に霞が関の人たちには、「やれることはやっている」というムードが強く、230兆円はGDPの4割に相当しますから、先ほどの見通しで出ていた5%のGDPのマイナスを230兆円という数字の経済対策で補っているので、穴埋めは十分にできるというのが、霞が関の官僚たちの机上の計算だと言えます。
ただ、机上の空論だけとは言いません。実際に効果が出ている部分もあります。特に特別定額給付金は一定の効果をあげています。1人に10万円を配ったことによって、家電量販店などは中間決算で過去最高益をあげているところが続々と出ていますし、非常に物が売れている。ニトリなども、非常に良い決算となっています。

 右側のグラフを見るとわかりますが、茶色い線は2人以上の世帯の消費支出で、3月以降、4月から7月までずっと大きな消費のマイナスが続いています。緑色の線は勤労者世帯の実収入で、5~6月は15%のプラスを記録しました。これは1人あたり10万円を配った効果です。定額給付金が入ってくる一方で消費を絞っているわけですから、失業していない一般的なサラリーマンにとっては、消費は小さくなり、手元にお金が残っているというのが、このグラフからわかります。家電量販店などでのプチ贅沢消費のほか、増えた貯蓄が株式市場にまわって、株高を演出している一因になっているというふうに見ることもできます。

 そのほかにも持続化給付金や家賃補償、雇用調整助成金で、底割れを防ぐという政策は、とりあえず効果があったようです。4~5月は経済が完全に止まったに等しかったわけですが、6~7月にかけて、それで経済が壊れるというのはなんとか回避したというのが現状だと思います。

コロナ倒産が増える?

 

 新型コロナで企業が倒産して大変だと話題ですが、左側の帝国データバンクのグラフでは、8~9月は伸び率が鈍化しています。

 右の飲食店の倒産のグラフを見ると、6~7月は非常に倒産が増え、8月から減ってきたのですが、また増加に転じています。これは最大200万円が支給される持続化給付金を手にした人たちが、お客さんが増えてくることを期待してお店を再開したけれど、今になって手元の資金が限界にきている、あるいはお客さんが戻って来ないので、やる気をなくしてお店を閉めるという人が出てきているのではないでしょうか。

 (11月5日当時)東京は今、感染爆発ということにはなってはいませんが、北海道は現在、第3波とみられ、飲食店は大変なことになっています。再び営業自粛になれば、年末に向けて営業をギブアップするところがおそらく出てくるのではないかなと思います。ですから、政府のいろんな対策でとりあえず伸びが鈍化していたコロナ倒産が、これから年末に向けて大きく増えてくるではないでしょうか。


 

 もう1つ大きな動きは「雇用」で、有効求人倍率が急減しています。東京、神奈川、大阪は7月にすでに1倍を割っています。つまり仕事を求めている人の方が、働き手を求めている企業よりも件数が多い状態になっているということです。この有効求人倍率はこれから急激に悪化していくでしょう。リーマンショックのときは0.4倍あたりまで落ち込みました。1990年代後半のバブル崩壊後も0.4倍ほどだったので、今回はどのあたりまで落ち込むか、大きな着目点です。

 右側のグラフは雇用者数の対年同月の伸びを示しています。緑色の線が全体を表していますが、それに着目すると今年の4月にマイナスに転じて、その後もマイナスが続いています。今回の特徴は、青の線の正規雇用は4月以降、毎月増え続けていますが、赤の線の非正規雇用、特にパートやアルバイト、とりわけ女性の失業が大幅に増えています。倒産している業種に飲食店のほか小売店やアパレル、宿泊業というところが多いので、そこで働いていたパート、アルバイトが雇い止めにあっているのが、このグラフに表れてきているのでしょう。ちなみにフォーサイトの原稿(『「女性自殺者急増」は「非正規雇用雇い止め」が原因か』10月21日参照)に書いたのですが、8~9月と自殺をする方がすごく増えていて、なかでも女性の自殺が増えている、それはもしかすると雇用不安に陥っていることが1つの原因になっているかもしれないと見ています。自殺と経済は非常に因果関係があり、これ以上経済が悪化して、自殺者が増えないことを祈るばかりです。

ANAショック」

 

 またここに来て、「ANAショック」とでも言ってもいい状況が起こっています。(ANAは)冬のボーナスをゼロにすると組合に提示しました。4~5月にほとんどお客がいないという状況では、おそらくボーナスは出ないだろうと見られていました。それでも実際にボーナスゼロを提示され、年収が3割減になることを知ると、他人事ではないと感じる人が多いのではないかと思います。特にANAの場合は本給の削減や、希望退職を募集するという段階に来ています。

 冬のボーナスでいうと、JTBもゼロに、オリエンタルランドは7割減になります。ネットの調査でも、今年の冬のボーナスは支給されるかどうかわからない、支給されないだろうという人が調査対象の46%に上っています。特に飲食店やホテル、旅館といった宿泊系は非常に厳しい給与情勢になるであろうと思われます。

 ここで所得が減少し、雇用の先行きに不安を感じることで、さらに消費が落ち込めば、12月の年末商戦は今までになかったような寂しいものになってしまうのではないでしょうか。本来なら、政治が年末商戦に向けて経済対策を打たなければならなかったのですが、首相が交代したこともあって、対策がかなり後手後手にまわっていると感じています。


 

 一方、大学生は就職が大変です。今、2021年春の卒業生は内定が出ていますが、内定を出している人は採るけれども、それ以外は採用活動を途中でやめるという企業が航空会社やJTBではありました。2022年春卒業の現3年生は、企業回りをしていて大苦戦をしています。10月1日時点の就職内定率は、ここ数年75%を超えて最高と言われていたのが、おそらく下がるだろう(11月17日発表で、69.8%に急落)し、次に就職活動を控えている3年生も非常に厳しい採用状況になるのではないかと思います。

 ただ、中長期的に見れば日本の人手不足は変わらないと思いますので、2年か3年かわかりませんが、世界を襲った感染症はいずれ消えてなくなると歴史が証明していますので、そのときに企業活動をするには人手が必要ですから、体力のあるところは採用を続けていくべきだと思います。


 

 これまで説明しましたように、「第1波」の資金繰り手当は非常にうまくいったと思います。とりあえずは景気の底割れは防いだ。問題は今、発表されている中間決算で大幅な赤字になって、年末の賞与を削るとかなくすとか、あるいは人を減らすリストラなどが行われ、それによって年末に向けての消費の落ち込みがさらに大きくなってしまうことが、経済危機の「第2波」だと思います。このまま行くと、「第2波」は避けられないところまで来てしまっているのではないでしょうか。

世界大恐慌の再来になるか

 

 少し話を変えますが、過去を振り返ると、時代が大きく変化したときに経済的な大混乱がやってくることは、1つの教訓、パターンでした。

 産業革命という大変革が起きたあとはラッダイト運動と言われる機械を打ち壊す動きが起き、社会が大混乱しました。真ん中は、世界大恐慌のときの銀行への取り付けの写真ですが、大恐慌の前には近代化を進めてT型フォードといった自動車が一気に普及するという一種のバブルが起きていました。そのあとの1929年、株式の大暴落が起きたのです。

 今、我々がいる時代もIT(情報技術)バブルが起きて、その後リーマンショックを体験しています。さらに、リーマンショックは実は積み残した課題が多く、水面下で眠っているものがたくさんあると言われていました。そこに新型コロナが蔓延し、まさしく90年前、1929年の大恐慌と同じような経済情勢になってしまうのではないかという危機に直面しているのではないかと思っています。


 

 本当にこの新型コロナの経済危機は、世界大恐慌の再来になってしまうのではないでしょうか。
世界大恐慌の簡単なおさらいですが、1929年に株価の大暴落が始まりまして、その後の取り付けで続々と銀行が破綻、それが原因で経済のデフレ、経済の大収縮が起きました。アメリカの労働者の25%が失業したと言われていますが、実はそれは1933年のことでした。我々は「世界大恐慌は1929年」と習うわけですが、実際の経済の大底は1933年だったんです。

 この頃、借金をして農業機械を買っていた人たちが農地を追われ、あるいは賃金労働者が失業してアパートを追われ、住む家を失った人がたくさん出ました。右側の下の写真はフーヴァーヴィルと当時呼ばれた掘っ立て小屋ですが、アメリカ国内のいたるところにできました。写真はセントラルパークにできたフーヴァーヴィルです。当時のアメリカ大統領は(ハーバード・)フーヴァーでヴィルは日本でいう邸宅ですので、皮肉をこめてこういわれたのです。こうした掘っ立て小屋に住むような人が次々と生まれるということが起きました。右上は、

 「3つの技能を持って、3つの言葉がしゃべれて、オレは3人の子どもがいて、3ヵ月間仕事がない。求めているのはたった1つの仕事なんだ」

 という看板を背負いながら就職活動をして路上を歩いている人の写真です。それぐらい失業が大変深刻な問題になったのです。


 

 今回は金融危機から始まったのではなくて、新型コロナの蔓延によるロックダウンから経済の大収縮が始まりました。川上から川下に影響が来たというのではなく、一気に末端というか現場というか、大規模な失業が真っ先に到来して、川下の一番弱いところに影響が及びました。

 1929年の世界大恐慌の段階では、アメリカはまだ金本位制ですので、金融政策が取れないし、失業も救済するすべがなかった。私はアメリカが過去をよく勉強していると思うのですが、今回、一気に失業保険の申請が増えたアメリカでは、それを1カ月ちょっとという短期間で4000万件の失業保険を給付して救いました。これで経済が早期に回復すれば、危機を回避できたと言えるのかもしれません。

倒産させるアメリカ型の政策

 

 アメリカのGDPは、4-6月期が32.9%のマイナスで、7-9月期は33.1%の急激なプラスに転じています。ドナルド・トランプ大統領は過去最高の経済になっていると言っていましたが、実は前年同期で比べると2.9%のマイナスで、コロナ前の水準には戻っていません。中国は、7-9月期は4.9%のプラスだったのですが、これは前の3カ月と比較しているのではなく、前年同期で数字を出しているので、伸びていることは間違いありません。アメリカのマイナス2.9%対中国のプラス4.9%で、圧倒的に格差が出ています。


 

 

 アメリカは景気が悪くなると、チャプターイレブン(米連邦破産法11条)を使って、企業をどんどん破綻させるという国です。5月からここに出ているような有名な企業がチャプターイレブンを申請しています。日本でもよく知られているような企業もありますね。1~9月だけで5529件も申請されていて、これが同じ期間の1年前に比べると、1.3倍になっていると報道されています。


 

 これはアメリカの失業保険の新規申請件数です。3月以降、1週間で600万件以上というのが2週続くなど、実はリーマンショック後は1週間に66万件の申請が出たのが一番大きかったのですが、3~5月で4266万件とリーマンショックを大きく超える件数が申請されています。このことから、アメリカの企業は早い段階で人を切ることによって、復活を遂げよう、耐え忍ぼうとするのがわかります。アメリカは倒産をうまく使って、企業を早期に再生させ、経済活動を元に戻して、雇用を生み出そうとする仕組みなのです。


 

 右のグラフはアメリカの失業率ですが、3~4月にかけて4%から14%超えに飛び跳ねました。しかしその後、さらに悪化するのではないかと見られていましたが、じりじりと失業率は下がり、9月はついに8%を割る7.9%というところまできています。もしかすると早期に企業を楽にして、経済活動を元に戻すという、失業者を増やすアメリカ型の政策は意外と功を奏して、アメリカは早く立ち直る可能性もあると言えます。

「日本型雇用」は限界

 

 一方の日本は、企業に雇用を抱えさせる仕組みで長年やってきました。「雇用調整助成金」が典型的な例ですが、企業は不要になった、抱えていられない従業員を抱え続けた場合、国が代わって雇用調整助成金を支給します。

 今回は申請の仕方を簡単にしたり、金額の上限を上げたりといった特例措置を取りました。企業に雇用調整助成金を使ってもらおうと、すでに167万件の支給が決まっていて、その累計は4月以降で2兆円を超えています。経済がまだよかった2019年度の法人税は10兆円あまりありますが、その5分の1から6分の1を企業に戻すことになります。


 

 安倍内閣は「働き方改革」を、本来何のために行ったのか。日本の生産性を劇的に上げることが目的でした。なぜそうしなければならなかったか。労働投入量と生産性の掛け算が経済成長ですが、労働投入量を増やせない状況になったからです。なぜかというと、人口は2008年をピークに減少しているので、外国人の移民を本格的に受け入れない限りは、労働力の「数」は増えない。ですから、1人当たり


 

の生み出す付加価値(生産性)を改善するしか方法はありません。

 「働き方改革」は労働時間を短くするとか、休みを多くするとかアメの政策で、働き方改革ではなく休み方改革ではないか、という人もいました。労働者にプラスの対策を取っていくという、今まで労働組合が要求してきたような政策にかなりシフトしていきました。「生産性を上げる」ということが非常に大事な政策でありました。


 

 ところが結果的には、労働投入量をさらに増やすことになりました。どこから働き手を引っ張り出したか。それは60代以上の高齢者と女性です。

 左のグラフは年間平均なので、65歳以上の就労者数は現在、八百数十万人以上になっていることがわかります。瞬間的には900万人を超えていました。1980年代に比べると、3倍以上の人が働いています。

 右側はM字カーブと呼ばれ、このグラフからは女性は20代後半に結婚、出産をするので就業率が落ち、また子どもが育ったころから働き始める、というのがわかります。それが典型的に表れているのが、青い線の1975年。これが日本の雇用の歪みだと言われ、女性が働き続けられる環境にしろと、ずっと指摘されてきました。それが2019年、赤い線ですが、M字がほとんど消滅しました。つまりそれだけ女性で働ける人を増やしたということです。女性と高齢者で働ける人を増やして、何とか景気を良くする、経済を膨らませるという政策が成功していたということです。


 

 そんななかで「日本型雇用」が限界に来ている、というのが最近の流れでした。終身雇用が限界だというのは、コロナ以前の2019年ぐらいから、旧来型の伝統的な企業のトップが正面切って「終身雇用はもたない」と言い出したことからもわかります。

 「みんなで成長していくというのはなかなか難しいというところに来ていた」


 

 と。そこで働き方改革をして、

 「時間や空間にとらわれない働き方が必要」

 「フリーランスとか副業とか時短労働とか、そういうものにシフトしていかないといけない」

 と言っていたのですが、これが新型コロナで一気に加速していると言えると思います。

「企業トリアージ」も必要

 

 もちろん、これから第2波に備えることも必要なのですが、働き方を変えるとか、今後のポストコロナ、コロナが収束した後に、どういう経済社会を作っていくか、真剣に考えなければならないタイミングに来ています。その中で旧来型の日本の働き方というのは、またそこに戻るというものではなく、新しい働き方を生み出して、そこに付加価値を1人1人が生み出すことが重要です。


 

 菅義偉総理もDX(デジタルトランスフォーメーション)と言っていますが、DXの肝はデジタルを使うことではありません。基本的には今までやっていた仕事のやり方を変えることです。霞が関でこれをやるのは至難の業だと思いますが、紙でやっていたことをデジタルに置き換えるというところで止まってしまっていては、政府の非効率なやり方というのは、永遠に変わらないと思います。


 

 これから企業社会、経済社会をポストコロナ後にあわせて変えていかないといけないのですが、赤字の企業がたくさん出ているので、企業を救済してくれという話がいたるところで出ています。特に公益企業系のところは、インフラなので国が救うべきだと言われており、それに乗じてかどうかわかりませんが、例えば郵便局も再国営化すべきだという声が永田町あたりであがっています。

 航空会社、鉄道はもちろん、民営化され始めて50年間やってきた歴史を、もう1回元に戻すべきだと、臆面もなく語っている人たちがいます。企業を救済するスキームはいろいろとできているのですが、どの企業を残すのかという「企業トリアージ」も必要になってきます。コロナ以降に日本の経済成長を支える企業というのを、どうやって残していくのか、世界に伍していけるだけの効率性の高い企業にするにはどうするのか、少ない人口で大きな利益を生む、付加価値の高い企業をどうやって育てていくのか、大きな課題だと思います。


 

 そこで一番心配なのが、政府の実質保有株がどんどん膨らんでいくことで、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のお金がいまや35.5兆円も株式市場に入っています。また日銀がETF(上場投資信託)として買っているものがすでに31兆円ぐらいになっていて、今後も年間3兆円ぐらい買っていくということなので、早晩、日銀のETF保有はGPIFを抜くと見られています。東証時価総額の1割、あるいはそれ以上の15%とか、それぐらいまで実質政府保有株が増えていくのがもう見えている。そういったなかで民間の企業として、どうやって競争状態を守り、コロナ後に生き残っていけるのか、ガバナンスの在り方をもう1回見直すことが重要なんじゃないかなと思っています。

 コロナ禍では、目先の対策をどうしようかということころに終始しがちです。Go Toトラベルも1兆円以上のお金をつぎ込んで、旅行業界の救済をしているわけではありますが、それをやっていて将来が見えるのか、危機の底の部分を支えるということはできても、それでコロナ後の社会に作り変えていくことができるのか、非常に疑問です。

 ここで政府が中途半端に救済のためだけにお金を使うと、それはいずれ税金で回収しなければいけないわけですが、国のお金をつぎ込んだ企業が結局倒産をして不良債権を作ってしまうようでは、税収に結びつかずに回収はできなくなります。ですから成長する産業に、公的な資金を入れるなら入れる、入れるときにはどういう経営体制にするのか、あるいはどういう企業に入れていくのか、もう少し真剣に議論をして決めていくことが大事かと思います。

 いずれにしても政府が関与しない部分において、これから変革していこう、変わっていこうという企業は確実にコロナ後も生き残れるかもしれませんが、コロナを乗り切れば元に戻れると思って昔のやり方を踏襲する、昔のやり方に戻る企業に未来はないと思います。

 長々とありがとうございました。ここで皆さんの質問をいったん受けたいと思います。


内木場重人(フォーサイト編集長) ありがとうございました。データを提示していただくと説得力がありますね。質問がいくつか来ています。

 磯山さんのお話の中で、ANAのボーナスカット、収入3割減とありましたが、それに加えてグループ外への出向、家電量販店や自治体でもANAの社員の出向に手を挙げているところがありますが、こうした動きは他の大手企業にも広がっていくでしょうか。

磯山友幸 広がっていくとは思います。ただそれが本当に良い方法なのかは、考えた方がいい。つまりANAに籍をおきながら他所の会社にいくというのは、今の雇用調整助成金と同じで、出向先の企業に雇用を抱えさせる政策です。アメリカだったら絶対そんなことをしないで、一時帰休をしたり、あるいは完全に解雇したりすることで、その人たちが自分の力で余力のある企業に移っていくようにさせる。それがいいと思います。

 余力があってANAの人たちを受け入れることができるのであれば、そこが採用すればいいだけの話で、会社が音頭を取って出向させるというのは、短期間のうちに終息して元に戻るという前提で行っていることだと思うのですが、本当に航空会社はコロナ前の経営状態に戻るのか、仮に1~2年でコロナが終息したとしても、航空業界は激変しているのではないかと思うので。我々も会議のためだけに出張するのは不要だと、この半年間でわかってしまったわけですから、今までの企業のあり方と、コロナ後というのは全然違うはずです。

 それに合わせた人の採用、人の雇用を考えるというのが、本来やるべきことで、そのように進めた企業が生き残るでしょう。現状維持を狙って、一種の弥縫策に終始したところは、非常に苦しんでいくことになるのではないかと見ています。

内木場 なるほど、ありがとうございます。今の話に関連した質問がきていまして、これも最後におっしゃっていましたが、菅政権の打ち出しているDXで経済効率はあがるのでしょうか。特に公益セクターなどの分野では本当に効果があるのでしょうか。

磯山 まだ菅さんのDXは、誰がどこまで何をやるかというのがまったく見えてないので、今の段階で評価するのは難しいのですが、ただDXに着眼したというのはいいことだと思います。

 DXは単純にデジタル化することではなく、今までの仕事の仕方、役割のあり方を根底から全部、もう1回ゼロベースで考えなおすことです。ですから、今までだったらヒエラルキーがあって、ヒラの職員から課長補佐、課長、審議官、局長を経ないと物事が決まらない形になっていたものを、フラット化してそこの責任者が決め、あとは局長なり事務次官が最終的に決算すれば済む。フラット化した役所の社会に変わっていければ、効率化が進むということです。

 ただ霞が関をまわっていると、「ペーパーレスが進みました」と言っていても、実はペーパーで提出されたものをエクセルに入力して、それをプリントアウトしてハンコを押しているみたいなことを未だにやっているのです。それでは、まったく意味がない。

 フラット化が進むかどうかというのは、ひとえに、誰にどういう権限を与えて、今までの仕事の仕方をぶち壊すか、それを政治家ができるのか、逆に言えば政治家がそこまで業務の流れを把握できるか、業務を把握したうえでデジタルを使うことで効率化できるか、それをわかるか、それをやる力があるか――と、本当の効果を得るためには、何段階かのハードルがあるように思います。

内木場 10万円給付のときにも、ネットで申し込んだけど、それをすべて印刷して手作業で確認していたということもあったようでした。ああいう状況を見ると、DXなどの掛け声をかけても改革が進むのかというのは不安な感じはありますよね。

磯山 本当は今の政府のほかに、新しい政府をもう1つ作って、そちらに新しい仕組みを少しずつ移してくということをした方が、もしかしたら早いかもしれませんし、もしくは地方分権で、都道府県に一気に権限を降ろして、すべてそこでやらせた方がデジタル化は一気に進むかもしれません。

内木場 ほかにも関連した質問がいくつかあります。日本企業の生産性を上げるにはどのような政策、対策が必要でしょうか。これは菅政権がどのような対策を打つべきか、それが果たして期待できるのかどうか、につながると思うのですが、これはいかがでしょうか。

磯山 菅さんが言っていた最低賃金を上げるというのは、もしかすると逆転の発想ではあるのですが、効率化をしていくための大きなファクターになるかもしれません。

 日本企業の生産性は、製造業を中心に議論をしてきたので、同じ時間のなかで1人の人が、今まで100個作っていた部品を120個作れるようになると生産性が20%上がったとされるのですが、今求められている生産性はそうではなく、生み出す付加価値、つまり高い値段で売れるかどうかがすごく大きいと思います。

 それは1万円だった宿泊費を1万5000円にしても客が来てくれるというような業務・商品改革です。それを企業にやらせるためには人件費を無理やり上げると、その人を雇えるための利益を上げなければならないので、生産性を改善せざるを得ない、生産性を改善しない企業はつぶれるということになるかもしれない。逆転の発想というか、ルートとしては逆ですが、それができれば、もしかしたら一番パワーがあるやり方ではないかなと思います。

内木場 幸いにも日本は新型コロナの流行が欧米に比べて抑え込まれており、経済活動の制約が少ないですけれども、第2波、第3波があるアメリカや再びロックダウンを取らざるを得なかったヨーロッパと比べると、相対的に日本の競争力を引き上げることになるのでしょうか。短期的な話かもしれませんが、磯山さんの見解をお伺いしたいです。

磯山 やはり、何をやるかにかかっていると思うのですが、単純に日本の企業が元のままでいるという決断をすると、今、ヨーロッパの国とかアメリカの企業はロックダウンをしたからといって寝ているわけではなく、猛烈に改革をしているので、1週間会社に行かなくても事業がまわるようなことを実際に行っています。表面上、街から人がいなくなって経済が止まっているように見えても、それなりに企業活動が続いているっていうのが、実は欧米だと思います。

 ですからGDPの落ち込みが大きいとはいえ、日本と比べても、日本の5倍落ち込んでいるのかといえばそうではない。そこはやり方を変えて、生き抜いていくってことを欧米はやっている。いろいろなものへの改革、変革、ポストコロナに向けた企業のあり方っていうのを彼らはむしろ考えています。

 そのなかで日本は影響が少ないからラッキーだったか、というのはむしろ逆で、これで改革が遅れる、ポストコロナをにらんだ企業再編とかが遅れるということになると、蓋を開けたら欧米に比べて圧倒的に生産性の低いまま日本だけが取り残される、ということになってしまうのではないかと思います。

内木場 逆にここで気を引き締めないと、ということですね。

磯山 ポストコロナでどういうふうにマーケットが変わるのか、人々の行動が変わるのか、ニーズが変わるのかを真剣に考えて企業が変わっていかなければなりません。

内木場 コロナの完全な終息はこの1~2年では期待できない状況が続くということになると、去年までインバウンドで潤っていた百貨店やホテル、観光業が、壊滅と言えば言い過ぎかもしれませんが、とんでもない状況になっています。コロナが続くという仮定で、どういう対策を取ったらいいのか、取るべきなのか、あるいは対策を取ろうとしている動きがあるのかどうか、いかがでしょうか。

磯山 昨日、テレビに出演して、その番組の中で取り上げられていましたが、東京の老舗百貨店が御用聞きサービスを始めたのです。今までのデパートのビジネスモデルというのはいろんなイベントをやったり、遊園地や美術館をつくったりして集客し、モノを買ってもらう業態だったわけですよね。しかし、密を回避しなければならない状態では人が集められないので、そのビジネスモデルは終わっている。それでも、お得意様のニーズをきちっととらえるお帳場方式とかお得意さん方式のビジネスモデルを復活させることが大事なんですって言っていました。昨日出てきた百貨店はなんと、おばあちゃんたちが百貨店に電話して「今晩すき焼き食べたい」っていうと、売り場のおねえさんがカゴをもって材料を集め、タクシーを使ってそれを運んでくれるという。タクシー代3300円はお客さんの負担というサービスです。それってすごいアナログですよね。

 ただ、3300円も取ったら、ウーバーイーツに勝てません。だから、ITやAI(人工知能)を使ったりして瞬時に何歳の男性と女性何人で、予算いくらで、すき焼きと入力したら、メニューが出てそれが自動的に配送されていくような、そういう新しいことを考えるのが今必要なときだと思います。が、なかなか一歩飛び出すということができなくて、昔ながらのものに戻る。原点回帰は大事だとは思うのですが、それは形を変えた原点回帰でなければならなくて、今の技術、テクノロジーをきちんと使って、人々の生活スタイルが変わったことに合わせるということはどこの企業でもやらないといけないことなのではないかと思います。

内木場 飲食店もお店を開けないから、お客さんに材料を買っておいてもらって料理人が出張して料理をつくるとか、そんなサービスを始めたところもあるみたいですから、百貨店も飲食店とコラボして新しい事業、サービスを始めるとか、そんなことを考えていく必要があるのかもしれません。

磯山 ニッセイ基礎研究所のチーフエコノミストの矢嶋康次さんが言っていたのですが、これからはITを使って人々やすべてのものがつながるということがキーワードになる、と。中国ではそれが実際に起きているのですが、たとえば、キーワードを入力するだけで料理人まで派遣してくれるとか、材料だけじゃなくて鍋釜全部持って料理人まで来て、テーブルセッティングをしてくれて、総計でいくらです、とか。注文する側はスマホ上で選んでいくだけで、すべてができてしまう。または予算を入れるだけで、AIが好みを把握してくれるという時代に変わっているのに、日本企業はサービスラインがぶつぶつに切れていて、横につながっていない。それが日本企業の弱さだというふうに彼は分析していました。

 それを企業経営者にいくら説明しても、全然わかってくれないんです、ようやくコロナで皆さんがわかってくれるようになったんじゃないかな、と。だからこのコロナをチャンスに変えて、企業の変革にしていかないとダメなんじゃないかなと思います。

内木場 中国は数字だけ見ると、急激な回復をしている、これはいち早く感染流行の抑え込みに成功したという以外に、何か要因があるんでしょうか。今の磯山さんの話のなかにヒントがあるのかもしれませんが。何か経済の構造改革とか、日本が見習うべきものがあるのでしょうか。

磯山 おそらく中国の方が科学的というか、データに基づいて対応しようと、最初からしていたような感じがします。感染者をデジタル的に把握して、どこにどういう人がいるのかわかるとか、ビッグデータというかビッグになる前の個別データと思いますが、それを1カ所で管理し、個人の行動を把握することで対策をした。

 民主主義とかプライバシーの問題とかが壁になっているから日本はできないという意見もありますが、僕らが思っている以上に中国の方が新しいテクノロジーを使って、分析をしたうえで対策をとっているのではないかと。政府が民主主義的でないからそういうことができると言いがちなのですが、もう少し冷静に見てみると、中国はそういうところが進んできているのではないかと思います。

内木場 個人的にも気になるんですけれども、また、磯山さんに伺うのもどうかというのもありますが、経済にも関係するので……。オリンピックは来年開催されるのでしょうか。磯山さんにお答えいただきたいのですが……。

磯山 菅さんは「絶対やる」という方針ですね。すでに3兆円ほどお金を使ってしまっていますので、これでオリンピックをやらないということになると、いろんなところで責任問題とか、そのあとのお金の処理をどうするだとか、議論が沸き起こるでしょう。東京都に本来、赤字分を負担させるはずでしたが、都もお金がなくなっていますので、どのぐらいの効果があるのか別にしても、とりあえずやらないと収まりがつかないことを政府はよくわかっています。

 特に官房長官だった菅さんは、なにがなんでもやると、8月ぐらいからずっと言い続けています。国際オリンピック委員会IOC)が無理だと言い出さない限りは、感染対策をやったうえで仮に無観客になったとしてもやる……。例えば観客は厳重にチェックしないと国内に入れないなどの対策を取りながら、オリンピックをやるっていうのが、可能性としては一番高いと思いますね。

 ただ、ひとえに日本ではこれ以上、感染が爆発して死者が増えるとか、医療崩壊が起きないという前提です。1~2月のインフルエンザ流行のピークのときを、今ぐらいの感じの患者数で乗り切ることができれば、大丈夫だと思うんですけど、感染者が東京で1日400~500人になって死者が毎日2桁になるような状況が続いてしまうと、ムードが一変すると思いますので。

内木場 他の世界の参加国、特にヨーロッパは、冬になると第3波に襲われるのではと言われていますよね。無観客にしても、参加したくてもできない国、選手を送り込めない国っていうのが出てくるとIOCがどう判断するのかなという。

磯山 IOCも逆に言うと、やらないと絶対的に損失を回収できなくなってしまうので、やりたいという方向は一致していると思います。

 ただ、この間アメリカから帰ってきた日本人ジャーナリストが言っていたのですが、帰国したときには2週間自主隔離を求められたんだけど、日本からアメリカに行ったときにはフリーパスだったと言うんですよね。ということは、アメリカの中では日本はもう汚染地帯じゃないというぐらいの判断をされているのではないかと、言っていました。日本がこのままの水準で推移すれば、外国人の選手も日本に来ることに抵抗がないということはあるかもしれません。

 それは感染の広がり具合というか……、日本は運が良くてこうなっているのか、ちゃんとコントロールできてこうなっているのかというのは、非常に議論の余地があると思いますが。

内木場 最後にもう1つだけ。テクノロジーでできることの知識が、今の経営者では少ないのではないか、経営陣全体が同じような経歴なので、発想の転換ができにくい、発想に限界があるように感じます。こうした状況を踏まえると、菅政権が言っているようにDXを進めるにあたって、経営陣の多様性は欠かせないと思うのですが、ポストコロナで経営のあり方は変わっていくのでしょうか。

磯山 例えばコーポレートガバナンスコードというのがありますが、モデルとしての目標みたいなものなので、経営者のポートフォリオみたいなもの、バラエティ、多様性みたいなものをこういうふうにすべきですとすれば、日本企業はもしかすると変わってくるかもしれませんね。

 たとえばIT系の企業は、20~30代で役員のポストにつけるなど、やらなければ回らないわけです。60歳のおじいちゃんが、私も60歳に近いですけれど、ITの開発の担当になったって、過去の知識では追いつかないわけですよね。ですから若い人たちや女性など多様な人材を登用する、ダイバーシティと言われていますが、何のためのダイバーシティなのか、今問われている。つまりまともに経営をしていこうと思ったら、ダイバーシティがあるべきだ、じゃなくて、ダイバーシティをしていないと対応できないのです。ポストコロナに対応した、変革を進めていく企業というのは、放っておいてもダイバーシティになって、若い能力の高い人たちをどんどん取締役に入れていくということが、普通に起きるというふうに思います。またそういう企業が生き残っていくので、必然的に社会全体として見れば変わっていくというふうに、私は楽観的に見ています。

内木場 長い時間、どうもありがとうございました。