震災から10年経って、福島の「経済停滞」が深刻になってきた グランドデザインなき復興のツケ

現代ビジネスに3月11日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/81049

10年後の格差

東日本大震災から10年が経った。地震と巨大津波によって多くの人命が失われたほか、経済的にも甚大な被害があった。

さらに福島第一原子力発電所の事故では、原発周辺を中心に帰宅困難なまま避難生活を余儀なくされている。被害を受けなかった国民には10年前の出来事だが、被災地の人たちにとっては今も闘いが続いている。

果たして、震災での経済的なダメージから、どれぐらい立ち直ったのだろうか。各県が発表した「県民経済計算」を中心に経済データから見てみたい。

なんと言っても影響が大きかったのは福島県だ。2011年度には県民所得が前年度比6.5%も落ち込んだ。福島第一原発事故の影響で経済活動が大幅に制限されたことや、県外に避難した県民が多かったことが響いた。

同じ被災地でも宮城県岩手県の2011年度の県民所得はかろうじてプラスを維持した。地震による被害は大きかったものの、すぐに復興に着手できたことから、経済活動が活発になったという面もある。その復興需要の恩恵は東北の中心都市仙台を抱える宮城県が真っ先に受けた。宮城県の県民所得は2012年に8.4%も増加した。

福島県に復興需要の効果が出るのは宮城県よりやや遅れたが、それでも2012年度の県民所得は5.1%増、2013年度は7.9%増と大きく増加した。

問題は震災から5年が過ぎた2016年度以降である。福島県の県民所得の伸び率は2015年度以降低下を続け、最新数値である2018年度はついに前年度比マイナスに沈んだ。明らかに岩手や宮城に比べて経済が良くないのだ。

2020年12月に発表された福島県の「県民経済計算」の表紙には「経済成長率」のグラフが描かれているが、これが福島県の現状を象徴している。震災直後の数年間は大きくプラスになったものの、今ではすっかり伸びが止まってしまっている。

取り残された福島

10年を迎えた福島の人たちのインタビューで、「取り残されている」という感覚を訴える県民が多く見受けられたが、経済データで見ると、まさに「取り残された」地域になりつつあるのだ。

もちろん、2010年度を100とした県民所得の水準を見ると、2017年度は113で、全国合計の111を上回る。ところが前述のようにここ数年伸びが大きく鈍化しており、2018年度は7年ぶりのマイナスとなり、111の水準に低下した。

全県のデータが出揃っていないため全国合計の数値はまだ分からないが、おそらく、福島は全国を下回ることになりそうだ。1人当たり県民所得の全国比は92である。

震災前後で、福島の経済活動はどう変わったのか。県民経済計算の資料にある「経済活動別構成比(生産側・名目)」には、震災前の2010年度と2018年度の比較が書かれている。

それによると、「製造業」が26.1%から24.5%に減少したほか、「電気・ガス・水道・廃棄物処理業」が8.8%から5.8%に減少している。製造業の拠点などが減ったことや、生活する人が減って電気やガスなどの使用量が減ったことが窺われる。一方で、「建設業」が4.7%から9.4%に大幅に増えている。復興需要に関連した建設工事が多いことが分かる。

福島県の2月1日現在の推計人口は約182万人。震災前、2011年2月1日は202万人だったので、20万人以上減少した。率にすると10.2%の減少である。一方で65歳以上の人口は50万人(25%)から58万人(32%)に大幅に増えた。人口減少と高齢化が全国以上に進み、経済活動を停滞させているのだ。

ハコ物を持ってきても

「福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なし。引き続き政府の最重要課題として取り組む必要がある」

菅義偉首相は、3月9日、新しい復興の基本方針を閣議決定したことを受けて、こう語った。2021年度から25年度を「第2期復興・創生期間」と位置づけ、他地域に避難している被災者の帰還を進めるほか、被災地の外からの移住を促すとしている。

福島については21年度予算で避難指示が出た12市町村に単身で移住した場合、最大120万円を付与する支援策を導入するという。また、人を集める方策として、「国際教育研究拠点」を新設するという。ロボットや新エネルギーの研究開発を行う拠点にする方針だという。

もちろん、こうした支援策は必要だろう。だが、すでに10年がたってから打ち出す政策なのだろうか。後手後手に回っているという批判は免れないだろう。

「国際研究拠点」といっても、東京大学はじめ日本の大学全体の国際的な地盤沈下が指摘されている中で、福島県の「浜通り」にどうやって人材を集めるのか。ハコモノを作れば人が集まるという単純な話ではない。

福島第一原発廃炉作業も進まず、汚染水処理の方法も決められない中で、将来にわたって日本の中で福島をどう位置づけ、東北全体の経済をどう成長させていくのか、残念ながらグランドデザインが描けていない。さらに10年後の福島が、今以上に地盤沈下しないことを祈るばかりだ。