「新自由主義的政策の転換」の名の下に「規制改革」が消える  岸田・甘利政策で日本は復活できるか

現代ビジネスに10月8日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/88085

「規制改革」が消える?

「新しい資本主義」を掲げ「新自由主義的な政策を転換する」という岸田文雄内閣が発足した。いったい「新しい資本主義」とは何なのか、岸田首相が言うように、「分配優先」で日本経済が復活するのか、経済人の中には訝しむ声も上がっている。

内閣発足早々、岸田首相の言う「新自由主義の転換」を窺わせる動きが出ている。報道によると、これまで改革を担って来た「規制改革会議」が「デジタル臨時行政調査会(仮称)」に衣替えするという。

「デジタルと規制改革・行政改革を一体で担当する体制ができる」と前向きに評価する声もあるが、一方で、「規制改革」という名前が消えることに「危うさ」を感じる向きもある。

規制改革推進会議は、橋本龍太郎内閣時代の1998年1月に誕生した「規制緩和委員会」の流れをくみ、その後、「規制改革委員会」(1999年〜2001年)、「総合規制改革会議」(2001年〜2004年)、「規制改革・民間解放推進会議」(2004年〜2007年)、「規制改革会議」(2007年〜2010年)と受け継がれて来た。

民主党政権時代は「行政刷新会議」の下部組織となって一旦姿を消したが、安倍晋三内閣誕生直後の2013年1月に復活。2016年に「規制改革推進会議」となっていた。当初から2006年までオリックス宮内義彦氏が委員長や議長などのトップを務め、その後、草刈隆郎氏(日本郵船)、岡素之氏(住友商事)、大田弘子氏(政策研究大学院大学)、小林喜光氏(三菱ケミカル・ホールディングス)が引き継いできた。

臨調以来の役割

首相がトップを務める「経済財政諮問会議」と連携して、諮問会議が出す「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」と共に、この規制改革推進会議が出す「規制改革実施計画」が毎年6月に閣議決定され、夏休み明けから新体制で動き出す霞が関全体の動きを規定していた。これらが、歴代の内閣が改革を進める際の車の両輪になって来たわけだ。

報道ベースだと、まだ「仮称」だが、このまま行くと四半世紀ぶり政府の改革の司令塔から「規制改革」の名前が消える。「臨時行政調査会」いわゆる「臨調」と銘打っているのは、1981年に鈴木善幸内閣が掲げた「増税なき財政再建」を目指して審議した「第二次臨時行政調査会」に倣うということだろう。

第二臨調は会長だった土光敏夫氏(元・経団連会長)の名前から「土光臨調」と呼ばれた。土光氏は歳出削減のほか、「三公社五現業」と呼ばれた日本電信電話(現・NTTグループ)や国鉄(現・JRグループ)の分割民営化を推進するなど、思い切った行政の構造改革を実施した。

政府から独立した経営者など民間人が主体となって改革案をまとめた臨調の役割は、実質的に経済財政諮問会議や規制改革推進会議に引き継がれ、「臨時」ではない恒常的な組織として活動して来た。規制改革推進会議の後継組織が、まさか「臨時」になることはないと思うが、少なくとも、役割が大きく変わりそうな気配だ。

デジタル化を通じて行政改革に取り組むという方向になり、規制改革が中心議題でなくなる可能性がありそうだ。

岸田氏の言う「現場のためにならないこと」

岸田氏は首相に就任する前の自民党総裁選最中の9月24日、福島県内のJA関係者と国会内で会談したが、その際、「『(農家の)現場のためにならないことが真の改革といえるのかと問題意識を持ってきた。規制改革を現場目線で検証する』と述べ、政府の規制改革会議の改組などに意欲を示した」と産経新聞に報じられている。

日本の農業を「家業」から「産業」に脱皮させるとして、参入障壁だった様々な規制を改革したが、全国農業協同組合連合会中央会(JA全中)の解体などを主導したのは規制改革推進会議と当時の菅義偉官房長官だった。

そうしたこれまでの改革を岸田氏は「現場のためにならない改革」と言っているように聞こえる。おそらく、宮内氏らが主導してきた「規制改革」が、岸田氏の言う「新自由主義的な政策」ということなのだろう。そういう意味で、名前から「規制改革」を“消す”ことは、象徴的な意味を持つとみるべきだろう。

「既得権保護政策」なのか

岸田内閣の経済政策は、岸田氏というよりも、自民党幹事長になった甘利明氏主導で進んでいると言われる。甘利氏に長年仕えた経済官庁の幹部は、「良くも悪くも足して2で割る政治家」だと評する。要はバランスを重視するというのだ。甘利氏が「反改革」で凝り固まっているわけではなく、これまでの改革の流れを修正する動きに出ているというのだ。

だが、こうした岸田・甘利政権の「新しい資本主義」に猛烈に反発する声もある。楽天グループ会長兼社長の三木谷浩史氏は自身のツイッターで、「単なるポピュリズム社会主義にしか聞こえないのは僕だけではないと思う」と投稿している。

10月6日付けの日本経済新聞も藤井彰夫論説委員長が1面で、岸田首相が掲げる新自由主義からの転換の中身は不明だが、としたうえで、「これが既得権を打破する規制改革や、自由貿易の推進に背を向ける政策になるならば問題がある」「『新しい資本主義』も、官主導の昭和型産業政策への先祖返りであってはならない」と厳しい論調で指摘している。

新型コロナウイルスの蔓延による経済的な打撃からどう立ち直るか。世界がポストコロナを見据えてビジネスモデルや産業構造を大きく転換させている中で、日本が既得権を守る政策に逆戻りするようだと、日本だけが世界の回復・成長から置いていかれることになりかねない。