消費水準回復せず、これからの「円安値上げ」に家計は耐えられるか 消費抑制で日本経済復活に遅れも

現代ビジネスに2月13日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92379

日本経済を左右する「消費」の先行きに暗雲が漂っている。ガソリンや灯油、あるいは、原材料を輸入品に頼る食品などの、相次ぐ値上げに対して「家計防衛」から消費を抑える動きが鮮明になってきた。

こうした商品の価格上昇が今後も続けば、他の品目の消費にも消費抑制の動きが強まりかねない。ポスト・コロナに向けて世界経済が急回復する中で、消費の減退によって日本経済の回復が大きく遅れる可能性も出てきた。

家計の消費支出、回復せず

総務省が2月8日に発表した家計調査によると、2人以上世帯あたりの2021年の月額消費支出の平均は、27万9024円と、物価変動の影響を除いた実質ベースで2020年に比べて0.7%増加した。

新型コロナウイルスの拡大で経済活動が凍りついた2020年が、前の年に比べて5.3%減の大幅な落ち込みとなっていた反動でプラスに転じたが、2019年の水準(月額平均29万3379円)にはまったく戻っていない。

2021年の月平均でプラスだった費目は教育(1万1905円)の15.7%増、交通・通信(3万9778円)の4.7%増、住居(1万8338円)の3.4%増、保健医療(1万4314円)の0.5%増など。2020年に比べて人の動きが活発化したことで、交通費が増加した。医療費も、新型コロナで高齢者の通院が減っているとされるが、4年連続の増加となった。

一方、減少が目立ったのは、家具・家事用品(1万2101円)の6.4%減、光熱・水道(2万1531円)の2.7%減、被服及び履き物(9063円)の1.6%減など。家計に占めるウエートが大きい食料(7万9401円)も1.0%減った。

家具・家事用品は2020年に消費を下支えした「巣篭もり需要」が一巡したことが大きいとみられる。2020年上期に10万円の定額給付金が支給されたことで夏から秋にかけて家電製品の販売好調などが起きたが、2021年はマイナスに転じた。

光熱・水道のうち電気代は3%減と2年連続で減少した。電気代の引き上げが続いていることもあり、節約ムードが広がり、使用量が落ちたことが主因とみられている。交通・通信の中でも通信料だけに限れば1万3285円と2年連続の減少になった。携帯電話の格安プランの導入が広がったことなどが理由とみられるが、家計消費全体に占める割合は4.8%程度と高止まりしている。

最も家計で大きな支出である食料は、値上げによってパスタの消費が11.3%減、即席麺も4.1%減と需要が一気に減った。また、飲酒代も49.4%減と落ち込んだ。

この上さらに物価上昇が

今後の焦点は、予想される物価の上昇に対して、消費がどう動くか。ガソリン代や電気代、食料品の値上がりが続くのは確実な情勢で、これに対して、消費抑制がどれだけ進むのかが注目される。

倹約しても家計の負担が増えるようだと、その分を他の品目の消費減で補うことになる。野菜などの国産品にも販売不振が広がれば、こちらは価格下落につながり、農家の収入が減って日本の農業が大打撃を受けることになりかねない。

日本経済の回復が遅れれば、さらに円安が進む可能性が高い。そうなると輸入品や、原材料を輸入に頼る品目の値上がりがさらに続く。一方で、消費減退から国産品は値下がりするというチグハグな物価になるだろう。

いずれにせよ消費が盛り上がる材料には乏しく、GDP国内総生産)の6割以上を消費に頼る日本経済の足を引っ張ることになりそうだ。

期待は給付金に賃上げ

唯一、期待が持てるのは家計の実質収入が増えることで、それが消費に回ること。昨年末から始まった子育て世帯への子供ひとり当たり一律10万円給付が今後、消費にどう反映してくるかが注目される。

2020年の定額給付の場合、最も家計消費支出が落ち込んだのが2020年5月で、5月末から6月に給付が実施されたことで、6月に家計の実収入が15%の増加を大きく増えた。その後、消費がプラスに転じたのは人流が戻った4カ月後の10月だった。

今回の子育て給付も確実に実収入の増加に結びつくが、これが何カ月後に消費に回ってくるか。蔓延防止等重点措置などが解除されれば、4月以降の消費増に結び付く可能性がある。

もっとも、今回は子育て世帯への給付ということで、将来の教育費用への充当を考えた貯蓄に回る可能性も十分にある。そうなると、景気刺激策という意味では空振りに終わる可能性もありそうだ。

もうひとつ、注目されるのが「賃上げ」。岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」で「分配が成長につながる」として、財界に賃上げを求めている。この賃上げがどれぐらい消費にプラス効果をもたらすのか。やはり4月以降の消費の動向に影響してきそうだ。

こうした給付金も賃上げも消費に響かないとなると、日本経済の先行きは厳しさを増すことになるだろう。

「分配が成長につながる」という岸田流が空振りに終わった場合に備えて、次の手を考えておかないと、消費マインドが一気に冷え込み、本格的な景気後退を呼び込んでしまう可能性もある。