中国の新型コロナ蔓延「都市封鎖」で、世界の「高級品市場」は激変する スイス時計輸出先として急速な鈍化

現代ビジネスに4月9日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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ポストコロナ旗手の躓き

中国で新型コロナウイルスの感染が拡大、上海市で実施されている外出制限が解除される見通しが立たなくなっている。感染者は過去最多を更新し続けており、都市封鎖によって経済活動が事実上ストップしている。上海の工場からの部品出荷が止まった影響で、日本国内の工場の操業が止まる例も出始めている。

これまでポストコロナの経済回復を主導してきた中国の躓きは、ウクライナ戦争の影響を受けている世界経済にも大きく影を落としている。

鈍化が言われてきたとはいえ、経済成長が続いていた中国の購買力は大きい。新型コロナは2019年秋に中国・武漢で確認され、急速に広がったが、中国は政府の徹底した封じ込め策によって、世界での蔓延拡大を横目に2020年夏には経済活動が再び活発化していた。

感染者が確認されるとその地域を徹底して封じ込める中国政府の「ゼロ・コロナ」政策が奏功してきたと見られていた。ところが、ここへきてオミクロン株が急拡大。上海のみならず中国各地で感染爆発が起きているもようだ。中国政府は引き続き「ゼロ・コロナ」政策を堅持し、都市封鎖などに踏み切っているが、感染は一向に収まらない.

そんな中で、懸念されているのが中国経済の失速だ。特に世界の高級ブランド品などの一大需要地として急成長してきただけに、その失速による高級ブランドメーカーのダメージは計り知れない。

2年前の首位、今や米国に引き離される

その典型がスイス製の高級時計だ。スイス時計協会の輸出統計によると、2020年に中国本土が輸出先ナンバーワンに躍り出た。長年、香港がトップだったが、国家安全維持法の施行による民主化の後退で、「自由市場」としての香港の地位が揺らぎ、スイス時計の輸出も激減した。また、世界2位の市場だった米国が新型コロナの蔓延による都市封鎖の影響で高級時計需要が激減したことも大きかった。

2021年は米国経済が新型コロナから急速に立ち直ったことから、スイス時計の輸出先は、中国本土と米国のトップ争いとなった。クリスマス商戦が空前の活況を呈した米国が、わずかながら中国本土を抑えて、世界首位の市場となった。米国向けスイス時計の輸出額は2020年比1.55倍に急拡大、中国本土向けも1.24倍に拡大したものの、米国に首位の座を譲った。

2021年のスイス時計の輸出総額は222億9670万スイスフラン(約2兆9600億円)と2020年31.2%増加、新型コロナ前の2019年の217億1770万スイスフランを上回った。スイス時計輸出の急回復が世界の高級品市場の復活を象徴、2022年は米国と中国がさらに牽引して活況を呈するかに思われた。

ところがである。同じ統計の2022年1-2月の累計を見ると、大きな変化が表れている。米国は前年同期間比35.1%の増加が続いているにもかかわらず、中国は2.6%の増加にとどまっているのだ。世界への輸出額全体では15.7%増えているので、中国の「異変」が目に止まる。中国経済の影響が大きい香港向けも0.3%の増加にとどまっている。

中国向けスイス時計輸出の急速な鈍化は、中国の高級品需要の鈍化を示しているのかもしれない。さらに今回の新型コロナに伴う都市封鎖の影響が加われば、中国での高級品需要は一気に落ち込む可能性もある。

そしてウクライナ侵攻の追い打ち

2月末に始まったウクライナへのロシア侵略戦争の影響はまだスイス時計協会の数字には表れていない。2021年のロシア向けのスイス時計輸出額は17位で、2億6000万スイスフラン(約345億円)に過ぎないが、新型コロナ前の2019年と比べて30.6%も延びるなど、ロシア人富豪は高級品の上得意だった。今年1ー2月の累計でも前年比11%伸びていた。だが、ロシアへの経済制裁によって、おそらくこの需要は消えるだろう。

ウクライナ戦争によって世界経済全体がどんな影響を受けるかはまだ分からないが、戦場になっていない米国は、もしかすると戦時経済に沸くことになるのかもしれない。そうでなくても米国では消費経済が過熱気味で、インフレが進行している。

2022年の高級品市場は中国経済が大きく鈍化する一方で、米国の伸びが続くことになれば、米国市場が首位を維持することになるのだろう。1ー2月のスイス時計の輸出累計でも米国向は35.1%増の高い伸びを続けている。

そんな中で、日本の高級品市場はどうなっていくのか。スイス時計の輸出先としては日本は4位で、2021年は前年比19.1%増えた。

もっとも新型コロナ前の2019年と比べると11.9%少ない水準で、日本の高級品市場は世界と比べて新型コロナからの立ち直りが遅れていることを示している。

問題はウクライナ戦争によってエネルギー価格が急上昇していることで、経済への大打撃が予想されている。その上、為替の大幅な円安が進行している。物価上昇によって消費が落ち込むことに加えて、円安によって輸入高級品の価格が上昇、さらに需要の足を引っ張る可能性がありそうだ。

今や日本製品の輸出先として最大になった中国の経済が鈍化すれば、さらに日本経済が悪化する可能性もある。