日本大学の「新たなガバナンス体制」が大学改革の「基準」になる? 他は「うちは日大とは違う」と言えるか

現代ビジネスに4月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94400

日大の答申書とは

取引業者から受け取ったリベートなど約1億1800万円を税務申告せず、約5200万円を脱税したとして所得税法違反の罪に問われた日本大学前理事長、田中英寿被告を懲役1年、執行猶予3年、罰金1300万円として東京地裁判決が4月13日、確定した。被告側、検察側も期限までに控訴しなかった。

田中被告側が控訴しなかったのは執行猶予付き判決となり、実刑を免れたからに違いない。現金を受け取った事実関係なども争わなかった。

だが、これで問題が終わったわけではない。大学の理事長が出入り業者からリベートを受け取っていた事実については、田中被告は訴追されていないが、理事長として明らかに職務上の権限を乱用していたことは明らかだ。要はそうした理事長の暴走を許してきた日大のガバナンス体制の問題が残っている。

日大は体制を一新して、田中前理事長らに損害賠償請求するとした報告書を文科省に提出した。体制一新、つまりガバナンス体制の抜本的な見直しについては、大学が設置した「第三者委員会」が3月31日に「元理事及び前理事長による不正事案に係る調査報告書」を大学に提出、同日、大学に置かれた「日本大学再生会議」が加藤直人理事長あてに「答申書」を出した。

答申書では、「一人の者による専横を許さず、民主的に選出されたリーダーの下に遵法精神と品位を持った法人運営を行う」ことを指針とし、具体的なガバナンスの改革方針を示した。

日大の新体制を決める方式

ガバナンスの最大の焦点はどうやって理事長を選ぶ仕組みにするか。その上で、理事長が暴走しないようチェック機能を働かせるか、だ。新体制では、外部有識者過半数を占める「理事長選考委員会」が、理事会に候補者を推薦、理事会はそれを「最大限に尊重」して理事長を選ぶ。選考委員会の委員長には外部有識者が就くとしている。

現在の加藤理事長は辞任が決まっているが、不祥事を受けた今回の後任理事長の選定に当たる「理事長選考委員会」は3分の2を外部有識者とし、選出する新理事長についても「日本大学の出身にこだわらないこと、及び、これまで日本大学の学校運営に何ら関与したことがない学外者から迎える」としている。理事長の任期を1期4年2期までとした。

理事会を構成する理事については、学外の学識経験者7人、卒業生や元教職員3人に加え、理事長1人、学長1人、副学長3人、理事長指名理事2人、学部教員4人、付属校教職員1人、大学職員2人の24人を例示。概ね3分の1を学外者にするとしている。理事の任期については1期4年とした上で、理事長や学長などを除くその他の理事については70歳を定年とする。

また、評議員会については、現在の100人を超える人数を大幅に減らして40−50人とし、3分の1程度以上を学外者にする、としている。また、理事長や学長、副学長、などが評議員を兼務することも認めない。その上で、評議員会に、理事や理事長の解任権限を与える。

この提言に沿って日大は人選に入り、7月1日に新体制を発足させるとしている。

文科省の報告書では「何も変わらない」

実は、日大がこの新しいガバナンス体制を表明する直前、文科省の特別委員会が学校法人のガバナンス制度の見直しに関する報告書をまとめていた。大学など学校法人のガバナンス改革は長年の懸案事項になってきた。

いくつかの会議体を受け、法改正に向けての議論が2021年7月に文科省が立ち上げた「学校法人ガバナンス会議」で始まったが、そのタイミングで日大事件が勃発。2021年12月にまとまった提言では、「他の公益法人と同等のガバナンス」をという閣議決定を受けて、財団法人や社会福祉法人と同様、評議員会を監督機関、理事会を執行機関とするガバナンス改革が提言された。

ところが、評議員会の権限を強めることに一部の私立大学経営者などが猛反発、自民党文教族などを動かした結果、文科省は提言を棚上げして「学校法人制度改革特別委員会」を設置、議論をやり直していた。その報告書が3月に出されたのだ。

その報告書では、理事長は理事会で選ぶべきだとは明記されたが、理事をどうやって選ぶのか、明確に示されなかった。

「理事の選任機関として、評議員会その他の機関(評議員会、理事会のほか、役員選考会議、設立団体、選挙実施機関など任意に置かれる機関を含む。)を寄附行為(=定款)で明確に定めるよう法的に措置すべきである」とされただけだった。

現在でも多くの大学が理事の選任方法などを寄付行為で定めており、「何も変わらない」という結論だった。

俄然注目「日大基準」

そこで、俄然注目されることになったのが「日大のガバナンス体制」だった。前述の通り、理事や評議員のそれぞれ3分の1を学外者にする「日大基準」は今後、大学のガバナンスのデファクト・スタンダードになっていく可能性が高い。また、理事長が不祥事を起こした場合には、日大のように学外者から理事長を選ぶ、ということが公然のルールになるだろう。

学校法人経営者にすれば、「寄付行為」で定めれば良いという話で胸を撫で下ろしていたところに、「日大基準」が出てきて、寄付行為のルール設定が格段に難しくなった。12月の改革会議の提案は法律で評議員会が理事を選定することを求めていたが、どういう理事を選ぶかについては大学の判断に任せる姿勢だった。

経営者たちは寄付行為で決められれば大学の自由度が増すと考えたようだが、実際は逆。寄付行為の内容については文科省が逐次チェックすることになっている。しかも法律で寄付行為の記載内容を定めれば、役所の権限はさらに強くなる。自由なようでいて、文科省の「指導」がモノを言うようになるのだ。

今後、「日大方式」のガバナンス体制が、他の私立大学にも求められていく可能性が強い。3分の1を学外者に、と言うのは大学経営者からすればハードルは高くないが、理事長選考委員会の過半数が外部というのは衝撃的だろう。しかも不祥事を起こせば、外部から理事長がやってくる。文科省が、そこに官僚OBの天下りを夢見ているかどうかは、現段階では分からない。