「最優先」と言いながら「具体策は後手後手」の岸田内閣の経済政策 所信表明では見えない最後の望みの綱は

現代ビジネスに10月7日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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危機感が乏しい「国難

「日本経済の再生が最優先の課題です」。10月3日に国会で行われた所信表明演説で、岸田文雄首相はこう述べた。そのうえで、「新しい資本主義の旗印の下で、『物価高・円安への対応』、『構造的な賃上げ』、『成長のための投資と改革』の3つを、重点分野として取り組んでいきます」とした。

首相が挙げた3つが大きな課題であることは、多くの国民が分かっている。問題は、それをどう実現していくか。突っ込んで具体的な政策を語ることもなく、またしても「今後」へと先送りした。「最優先」と言いながら、岸田内閣の経済政策は後手後手に回っている。

岸田首相は演説の冒頭で、「今、日本は、国難とも言える状況に直面しています」とし、その国難を克服するために、「政策を1つひとつ果断に、かつ丁寧に実行していきます」と語った。岸田首相の演説では「国難」といった厳しい言葉を使うものの、どこか危機感に乏しい。「果断に」「丁寧に」といった言葉もなかなか響いてこない。

介入以外に物価対策なし

ではいったい具体的に何をやろうとしているのか。まずは「物価高・円高への対応」。

「先月には、食料品やガソリンの値上がりを抑えるための追加策を取りまとめました。特に家計への影響が大きい低所得世帯向けに、緊急の支援策を講じました」

岸田首相が言う「追加策」とは、政府による食料品やガソリン価格への「介入」だ。ガソリンの小売価格を抑えるために石油元売会社に補助金を出す仕組みで、1月末の導入以来、延長と規模拡大を繰り返してきた。今では1リットルあたり35円を助成するまでになっている。9月末までの時限的な措置のはずだったが、それを年末まで延長した。

似たような「介入」は「小麦」でも始まった。もともと小麦は政府が一括して輸入し製粉会社などに売り渡す「国家貿易」が続いていたが、輸入価格より安い「逆ざや」での売り渡しを始めた。

だが、これが抜本的な「物価対策」になるわけではない。政府が巨額の費用を注ぎ込んで「市場」と戦っても、価格を抑え込むことなどできるはずもなく、付け焼き刃の対症療法に過ぎない。政府内からですら「バラマキ」批判が出ているが、もはや止めるに止められない。補助金を打ち切れば価格が急騰するからだ。まさに「麻薬状態」になっている。

ところが所信表明演説で岸田首相はその「介入」をさらに拡大する方針を打ち出した。

「これから来年春にかけての大きな課題は、急激な値上がりのリスクがある電力料金です。家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」

何と電気まで政府が価格をコントロールするというのだ。しかし自由化が進んでいる電気料金でどう「補助」をするつもりなのか。

それにしても対応が遅い。10月中に総合経済対策を取りまとめるとしているが、物価高は今始まった話ではない。消費者物価指数(総合)は4月以降、前年同月比で2%を超える上昇が続き、8月には遂に3%を超えた。今年1月以降、企業物価指数は9%を超える上昇が続いており、いずれ消費者物価に跳ね返ってくるのは分かりきっていた。企業物価指数の上昇率は高止まりしており、消費者物価はさらに上がる可能性が高い。だが現状では、岸田首相は抜本的な物価対策は打ち出せていない。

インバウンドでは円安効果も

円安対策も同様だ。9月26日に政府・日銀は24年ぶりとなる為替介入を実施、2兆8000億円を使って円買いドル売りを行った。1ドル=145円を超えていた為替は介入によって一時140円台にまで円高に振れたが、効果は数日しかもたなかった。

岸田首相は円安対策について、「円安のメリットを最大限引き出して、国民に還元する政策対応を力強く進めます」と円安を活用する姿勢を見せた。その柱が、インバウンド観光の復活。これまで外国人旅行者の入国を制限していたものを、10月11日から「ビザなし渡航」や個人旅行を再開する。

世界の主要国が入国制限を解除する中で、日本だけが外国人観光客の受け入れに制限を設けてきた。ようやくそれを解禁すると言うのだ。政府の空振りの政策が多い中で間違いなく効果が出るだろう。門戸を開くだけで、外国人観光客は大挙してやってくるに違いない。

実際、円安で日本への旅行は世界的に見て格安になっている。日本旅行を待ちかねていた外国人は多く、一気にインバウンドブームがやってくるのは間違いない。岸田首相もインバウンド消費で5兆円のプラスを目指すと意気込む。

ただ、ひとつ気になるのは、新型コロナ前のインバウンドを支えた中国人観光客の動向だ。中国の景気後退は深刻で、国内消費の落ち込みが大きい。新型コロナ前のインバウンドは、中国人旅行者の「爆買い」が目立ったが、もしかするとその規模は思ったほど大きくならないかもしれない。要は「安さ」だけを売りにしてインバウンド観光客を呼んでも、かつてのような国内消費に結びつかないかもしれないのだ。

ではどうするか。逆説的だが、価格を引き上げる事だろう。「良いものを高く売る」経済構造に変えることだ。そうすれば、岸田首相が掲げる2番目の課題、「賃上げ」にも結び付いたいくだろう。当面は、日本にやっていくる富裕層からがっちり稼ぐことができるかどうかが、日本復活の鍵になりそうだ。