岸田内閣の「愚策」は止まらない~相次ぐバラマキは円安を加速させる 国民よ早く政策の失敗に気づけ

現代ビジネスに10月16日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/101080

あっさり1ドル145円

円安に歯止めがかからない。10月14日の外国為替市場では1ドル=148円台後半まで付け、1ドル=150円が視野に入ってきた。

9月22日に政府・日銀が24年ぶりに為替介入した際には145円台から一時的に140円台にまで戻したものの、円安の流れは止まらなかった。介入によって政府・日銀は1ドル=145円台を「抵抗ライン」としているのではないかとの見方から再度の介入を警戒する声もあったが、そのラインをあっさり超えたことで「歯止め」が亡くなった格好だ。

為替は短期的には「金利差」が影響する。米国がインフレ退治に向けた利上げを繰り返す一方で、日本が「ゼロ金利量的緩和」を継続していることから、「日米金利差」が拡大し、ドルの価値が上昇、円安が進んでいる。

一方で、多くの為替アナリストは「円安ドル高はどこかの時点で反転する」と語る。米国の相次ぐ利上げの結果、米国景気が後退すれば、今度は利下げに転じるので、日米の金利差は「縮小」に向かうから、今度は円高方向に動くというわけだ。金利差に注目するオーソドックスな相場観とも言えるだろう。

中長期的に見ると、物価水準の違いを調整する形で為替が動く面もある。いわゆる「購買力平価」をベースにした考え方だ。為替レートは長期的には一物一価が成り立つように決まるという説である。米国の物価が大幅に上昇している中で、同じものを購入した場合の日米の価格差はどんどん広がっている。

この考え方に従えば、インフレ(物価上昇)というのは通貨価値の下落なので、インフレが進む米国のドルは、インフレ率の低い円よりも弱くなるはずで、円高に振れるはずだということになる。実際、2021年の購買力平価は1ドル=100.4円で、円は売られすぎだということになる。

もちろん、日本でも物価の上昇が始まっている。日本の消費者物価指数は4月以降8月まで、前年同月比2%を上回る上昇が続き、3%超えも確実視されている。それでも米国の9月の消費者物価上昇率8.2%に比べるとまだまだ低い。

しかし、日本も企業の間で取引するモノの価格である「企業物価指数」は9月に前年度月比9.7%の上昇となり過去最高を更新。いずれそれが価格転嫁されて消費者物価に跳ね返ってくることが確実視されている。何せ、企業がモノを輸入する際の価格である「輸入物価指数」が9月は48%も上昇しているのだ。円安が物価上昇に結びつきつつあるわけだ。

何でもかんでも補助金

この円安による物価上昇を何とか食い止めようと岸田文雄内閣は必死である。10月末までに「総合経済対策」をまとめることを表明。電気料金について「家計・企業の電力料金負担の増加を直接的に緩和する、前例のない、思い切った対策を講じます」(10月3日の国会での所信表明演説)と大見えを切った。

岸田内閣は1月以来、ガソリン代の高騰対策として、石油元売会社に補助金を出してガソリンなどの小売り価格を抑える政策を実施、さらに小麦粉の価格を抑えるための製粉会社への売り渡し価格の維持などを行ってきた。

それに加えて、電気料金とガス料金も上昇を抑えるために補助金を出すという。石油元売会社への補助金は「時限措置」「激変緩和措置」という建前だったが、いったん導入したら止められず、1月以降も継続する方向だ。

電気代については、電力自由化の結果、家庭が契約する電気会社が膨大な数にのぼり、しかも料金体系がバラバラなことから、公平な助成の組みの導入が難しいという声が上がっているが、「毎月の請求書に直接反映するような形」の制度にすると首相は語っている。しかも1月にも前倒しで実施するとしている。

岸田内閣の支持率は10月10日から13日に行われた時事通信の調査で、27.4%にまで下落。菅義偉内閣で最低だった29%も下回った。国民の意見を二分した故安倍晋三首相の国葬問題や、自民党議員に広がっている旧統一教会問題などが支持率低下の要因だが、そこに「経済対策への不備」が加わりつつある。

世界各国の例を見るまでもなく、大幅な物価上昇は政権の足元を大きく揺るがす。輸入物価が国民生活を直撃した発展途上国では、反政府デモや暴動まで起きている。電気料金対策を「来年春」から「1月にも」に前倒ししたのも岸田内閣の「焦り」が表れている。

この政策は長続きしないのに

物価抑制のために補助金を出すことについて、大半の国民は「歓迎」する。給与が増えない中で物価が上昇してはたまらない、と考えるからだ。庶民の党を標榜する公明党が、与党の一翼を担う立場から電気代支援などを強く要望しているのも庶民の声の反映と言える。「国が負担してくれるのは助かる」というわけだ。

だが、この政策は長続きしないことが明らかだ。膨大な財政支出が必要になるからだ。

財務省が10月8日に公表した「予算執行調査」によると、すでに7246億円が使われている。今年度予算は1兆1655億円で今後補正予算で増額される可能性もある。電気料金やガス料金の抑制に今後、兆円単位の予算が必要になってくる可能性が高い。

しかも、調査では、補助金分がすべて価格抑制に回っているかどうか疑問であることも判明している。ガソリンスタンド事業者へのアンケートでは、回答した155の2割で「補助金全額分抑制できていない」とし3割で「補助金全額分抑制できているか分からない」と答えている。近隣店舗との価格競争で販売額を決めているため、政府が示す“公定価格”で必ずしも販売していないためだ。市場経済の中で、政府が価格をコントロールしようとしても、いかに難しいかと言うことだ。

そんな調査が出ているにもかかわらず、業者への補助金を大盤振る舞いしようとしているわけだ。

そこで、為替の問題に戻る。政府は膨大な財政支出の増加をどうやって賄うか。いわゆる「財源」である。岸田首相は消費増税は行わないと表明しているし、物価上昇で消費が落ち込みかねない中で増税はできない。結局、国債の増発で賄わざるを得ないだろう。このところ大幅に引き下げてきた法人税率を引き上げる手もあるが、政府は防衛予算を大幅に引き上げることを検討しており、法人増税はその財源として有力視されている。

為替は長期的には「国力」が反映されることになる。財政赤字が限界を超えれば、通貨価値は暴落しかねない。つまり、財政赤字の拡大を前提にしたバラマキ政策の結果、円安が一段と進む可能性が強まってくるわけだ。円安が進めば、輸入に依存しているエネルギーや小麦などの円建て価格はさらに上昇する。補助金を出すことが逆に価格上昇を止まらなくする可能性があるわけだ。

もちろん、政府がバラマケば、多くの国民からは「よくやっている」と見られる。為替が円安に進んでいるのが「政策の失敗」だと考える国民は少ないから、政府の“愚策”は今後も続いていくことになるだろう。