ライドシェア全面解禁の最大抵抗勢力は公明党 国交相ポスト長く、業界と親密化か

現代ビジネスに5月31日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/130923

国土交通大臣の反対姿勢

「ライドシェア解禁への最大の抵抗勢力公明党になっています」と語るのは規制改革会議に関係する民間経営者。4月に始まった「日本版ライドシェア」はタクシー会社にしか参入を認めていないが、これをタクシー会社以外にも広く「解禁」するかどうかの議論が佳境を迎えている。「全面解禁」に向けて法制度の検討を進めるよう主張する河野太郎・規制改革担当相に対して、斉藤鉄夫・国土交通相は「早急に結論を出すべきではない」として反対姿勢を鮮明にしているのだ。

ライドシェアの解禁を巡っては、議論する前の「検証」という位置付けで、4月からタクシー会社にのみ解禁された。「日本型ライドシェア」と呼ばれているものの、実際には欧米で普及しているライドシェアとはまったく別物。ドライバーは普通免許でOKだが、原則、タクシー会社との雇用契約が必要で、運行管理や事故対応などもタクシー会社が行うことになっている。一方で、運行できるのは、決められた地域の特定の時間帯で台数も限られている。要はタクシー会社の人手不足を補う非正規労働という色彩が強い。気軽に空いた時間をライドシェア・ドライバーとして稼ぐという世界のモデルからはかけ離れている。

5月27日に斉藤大臣は、河野大臣と面会。その後記者団の取材に応じた。そこで「何十年もかけて培ってきた公共交通の適正な事業運営や、運転者の労働環境に大きな影響が生じる」としたうえで、「導入しないで済むことがベストであると申し上げてきた」と、解禁議論に待ったをかけた。

一方、5月29日には、自民党小泉進次郎環境相が会長を務め、立憲民主党馬淵澄夫国交相などが名を連ねる超党派の「ライドシェア勉強会」メンバーが国交省に斉藤大臣を訪ね、ライドシェアの法整備について、年内にも結論を出すよう求める提言を手渡した。自民党にはタクシー・ハイヤー議員連盟もあり、その所属議員らはライドシェアに強く反対。意見が対立している。また、野党の中にも、タクシー運転手らの労働組合とのつながりが深い議員はライドシェア解禁には反対に回っている。自民党も野党も、意見を一本化できない状態が続いているわけだ。

6月には、今後の改革方針を示す「骨太の方針」の閣議決定が控えているうえ、規制改革の方針などもデジタル行財政改革会議などで打ち出される。ここでライドシェアの全面解禁に向けた方向性がどう示されるかが大きな焦点になっている。自民党の場合は、推進派反対派双方が折り合う様子はなく、最終的には岸田文雄首相の決断いかんによると見られている。

タクシー業界の反対

そんな中で国交相を擁する公明党はライドシェア解禁には慎重姿勢を貫いている。前出の民間経営者は「連立与党となって、長年、国交相ポストが公明党の指定席になる中で、タクシー業界などの既得権層とのつながりが深くなり、彼らを敵に回すような改革には及び腰になっている」と解説する。特定の政党が同じポストを独占し続けてきた弊害が出ているというわけだ。

ライドシェア解禁は、圧倒的にタクシーが足らない状況を改善する切り札として期待が高まっていた。首都圏の駅などでタクシー乗り場に長蛇の列ができることも珍しくなくなり、「足」の確保が大きな社会課題になっている。また、過疎地では高齢者が通院などに出かける際の「足」がないことが深刻な問題になり、一般運転手によるライドシェア解禁を求める声も多い。

タクシー会社からすれば、競争が激しくなれば運転手の賃金が減少するなどして、ますます運転手のなり手確保が難しくなるとの危機感がある。二種免許を必要としない一般ドライバーによる運送業務参入には「白タク」だと強い調子で反対を続けている。

既得権を守るのか

だが、こうした状況は、まさに「ガラパゴス」だ。欧米のみならずアジア諸国でも、スマートフォンアプリを使ってタクシーや一般車を手配し、自動決済するサービスなどが広く普及している。このためアジアなどから日本に来たインバウンド旅行客が、ライドシェア後進国の日本に対して驚きを隠さない光景が目につくようになった。

タクシー事業者が反対するということは、ライドシェアが消費者に支持され競争力を奪われると見ていることの裏返しと見ることもできる。ライドシェア解禁に反対する政治家は、生活者の利便性よりも業界利益を重視していると見られかねない。パーティー券収入の不記載など政治とカネの問題に揺れる自民党に対しては、立憲民主党などから、「パーティー券を買ってくれる企業に有利な政策を行っているのではないか」といった指摘も出ている。

そんな中、支持率低下に苦しむ岸田首相としては、既得権層の利益を優先していると見られることに抵抗感がある可能性もある。ライドシェア問題で法制度の整備に向けた議論を開始するといった改革に前向きの姿勢を打ち出すことで、支持率底入れを模索する可能性もある。