広島サミット成功で解散近い?…野党第一党・立憲民主党が掲げる150議席奪取には経済政策など独自の柱が必要

現代ビジネスに5月25日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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内閣支持率大きく回復

広島で行われた主要7ヵ国首脳会議(G7サミット)は岸田文雄首相にとって大きな得点を稼ぐ場になった。

G7の首脳らに次いでインドやブラジル、韓国の首脳や国連事務総長がそろって原爆慰霊碑に花を捧げた「歴史的な光景」を実現した意義は大きい。これだけのメンバーが集まっていればこそ、ウクライナのゼレンスキー大統領も対面での参加を強く望んだのは当然だろう。首脳たちが原爆資料館を訪れて、原爆の悲惨さを目にした事も、すぐに変化を起こさせるものではないにせよ、大きな意味を持つはずだ。広島が持つ「メッセージ性」をフルに生かしたサミットだったと言えよう。

これで岸田内閣の支持率は大きく回復するのは間違いない。サミット中の5月20日、21日に読売新聞が行った全国世論調査では、早速、前回の47%の支持率が56%に跳ね上がった。「G7サミットで首相が指導力をはっきしていると思うか」という設問に、53%が「思う」と答え、「核兵器のない世界に向けて国際的な機運が高まる」と「思う」という回答も57%に達した。

読売に比べて政権に厳し目の結果が出る傾向にある毎日新聞の5月20、21日の世論調査でも、内閣支持率は4月の36%から45%に跳ね上がった。上昇幅は9ポイントと読売と同じだ。岸田首相は支持率回復の手応えを着実に感じているに違いない。

「年内解散」の根拠

永田町では、サミット前から、「サミットを跳躍台にして6月21日の通常国会会期末までに衆議院を解散、7月投票で総選挙に打って出る」という見立てが広く語られていた。もっとも、前回からまだ2年経っておらず、任期4年の折り返し点にも至っていないことから、秋の臨時国会後の年末にずれ込むという見方もあった。いずれにせよ、来年ではなく年内に解散総選挙がある、というわけだ。

なぜか。来年9月に岸田首相は自民党総裁としての任期を迎える。岸田首相は以前、防衛費増額の財源として増税する前に総選挙で国民に信を問い、それから2期目に入るべきだと示唆する発言をしている。その総裁選前に支持率を上げるようなイベントとなると、今回のG7サミットくらいしかない。そして、期待以上の成功をサミットで納めた以上、解散総選挙が近いというのだ。

もうひとつ、来年への先延ばしがマイナスになる懸念材料がある。経済だ。金融引き締めによって、今年後半から米国の景気後退が鮮明になるとの見方が多い。米国景気の後退は、日本経済にも大きな影響を及ぼす。そうでなくても経済の舵取りが難しさを増す中で、来年の選挙はリスクが大きいというのだ。国民の関心時は何と言っても生活に直結する物価上昇などの経済問題だ。

他にもある。最大の要因と言ってもいいのが、野党の選挙体制が整っていないこと。統一地方選挙日本維新の会が躍進し、次の総選挙では野党第1党を狙う姿勢を打ち出している。ところがこれによって現在の野党第1党である立憲民主党との間に亀裂が入り、進むかに見えた共闘関係は瓦解した。

立憲の泉健太代表は、次の衆議院議員選挙で150議席を獲得することを「必達目標」だとし、獲得できなければ代表を辞任する考えを示した。その心意気やよし、とも言えるが、現在の97議席を1.5倍にしなければならない。そもそも150人の候補者を立てられるかどうかも容易ではない。自民党からすれば、その準備が整わないうちに解散総選挙に臨めば圧勝できる、と考えているわけだ。

野党第一党「立民」の立ち位置とは

第1党を争うことになる日本維新の会について、泉代表は「立ち位置の違いをはっきりさせて戦う」としている。だが問題は、立憲の立ち位置自体が今ひとつよく分からないことだ。

特に国民の関心が今後一段と高まる経済問題でのスタンスで、自民との違いを打ち出せていない。「身を切る改革」をぶち上げた小泉純一郎内閣や、アベノミクスを掲げた第2次以降の安倍晋三内閣は、構造改革で既得権層に切り込んだ事もあり、左派野党としてはスタンスの違いを打ち出し易かった。

ところが岸田首相はそうした改革路線を否定、本来は立憲などの専売特許であるはずの「分配」に軸足を移している。つまり、立憲が経済問題で独自色をなかなか打ち出せないのだ。岸田内閣が左にシフトした結果、空くことになった改革路線を、維新が強調するようになったことで、そうした改革支持層の票を維新が獲得している面が強い。

岸田内閣は物価高騰に対して巨額の財政支出を行い、ガソリンや小麦価格、電力価格の上昇抑制に取り組んでいる。こうした市場価格を国家がコントロールしようとする政策は市場原理への挑戦とも言え、本来ならば左派政党が主張する社会主義的政策とも言える。児童手当の所得制限撤廃にしても、もとは旧民主党が行っていた政策を自民党が変えて所得制限を設けていたもので、それを自民党自身が撤廃することで野党との「争点」が消滅するという政治的効果があった。立憲からすれば責める材料に乏しくなっているのだ。

旧民主党自民党から政権を奪取した当時、「コンクリートから人へ」「官僚依存からの脱却」といった自民党の構造を批判する政策の柱を立て、それが多くの国民に支持された。それゆえ、政権を奪還した安倍首相は「古い自民党には戻らない」と宣言せざるを得なくなった。立憲も150議席を獲得して政権交代を視野に入れるには、もう一度国民に響く政策の柱を早急に立て直す必要がありそうだ。