株主提案、最多の90社~もはや「シャンシャン」では乗り切れないガチンコ株主総会 モノ言う株主が日本企業を変える

現代ビジネスに6月23日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/112220

トヨタのヒヤヒヤ

株主総会が佳境を迎えている。今年はファンドなどからの株主提案が過去最多になったことに加え、取締役選任に反対する動きも広がっている。企業経営者にとっては予想外の事が起きかねない「勝負」の場になってきた。

中でも今年、注目されたのがトヨタ自動車株主総会。他の企業よりもひと足早く6月14日に行われた。このトヨタの総会には海外株主からの議案提案が出されていた。いわゆる「株主提案」で、同社に株主提案が出されるのは18年ぶりのことだ。

海外ファンドの関係者が語る。

トヨタへの株主提案は一種のタブーでした。日本のトップ企業であるトヨタにケンカを売ると別のどこかでマイナスの影響を受けかねない。だから皆恐れてきたのです。そんなトヨタに株主提案が出されたのは画期的です」

トヨタには今回、欧州の年金運用3社が、気候変動関連の情報開示が不十分だとして、関連の渉外活動についての年次報告書を作成するよう定款に規定するよう求めた。

この株主提案は大方の予想通り否決されたが、それでも15.06%の賛成票を集めた。

トヨタの総会ではもうひとつ注目された議案があった。豊田章男会長の取締役再任議案だ。海外の機関投資家から「取締役会の独立性が不十分」だとして豊田会長ら取締役候補者への反対を表明するところが出たのだ。これに米議決権行使助言会社のグラスルイスも加勢、豊田会長の選任に反対を推奨していた。また、米国最大の公的年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金が、豊田会長再任に反対票を投じたと公表している。

この取締役選任議案も会社提案通りに可決されたのだが、豊田会長の取締役再任への賛成率は84.57%と昨年の95.58%から10ポイント以上も低下した。大トヨタといえども「モノ言う株主」の主張を無碍にはできなくなってきたことを示している。

女性役員比率というツッコミどころ

今年3月には12月決算のsearch キヤノンが開いた株主総会で、同社の会長社長を務める御手洗冨士夫氏の取締役再任議案への賛成が50.59%でギリギリ可決されるという前代未聞の事態が起きた。

機関投資家は取締役候補に女性がいないことを問題視しており、そうした場合、トップの選任議案に反対する動きが強まっている。これを見た3月決算の日本企業でも新たに女性取締役候補を立てた企業が出てきている。つまり海外機関投資家の要求がジワジワと日本企業を動かしているのだ。

岸田文雄内閣はここへきて、女性役員の比率を「2030年までに3割にする」と表明した。海外投資家の方針に追随する姿勢を示したことになる。今後、取締役の過半数社外取締役にするという流れと共に、女性役員3割を目指して少なくとも複数の女性取締役を候補にするというのが日本企業の課題になってくるのは間違いない。今年はその前哨戦というわけだ。

海外ファンドを中心とする「モノ言う株主」からの提案は、ここへきて急増している。3年前、2020年の6月総会に出された株主提案は55社212議案だった。2021年はコロナの影響で若干減ったものの、2022年は77社292議案に増加していたが、今年はさらに増え、90社344議案となった。もちろん過去最多である。

しかも、前述のように、日本国内の機関投資家でも反対できない「正論」が議案にされるケースが増えている。かつてならば国内投資かなど「安定株主」によって否決すれば良い、と高を括っていられたが、最近はそうはいかないのだ。会社側の提案に賛成してくれる個人投資家などのファンを作ろうと企業側は必死になっている。

それが表れているのが、株主総会開催日の分散である。

株主総会開催日分散化の意味

3月期決算企業の場合、6月末までに総会を開いて決算を確定させる必要がある。かつては最終金曜日などに大半の会社が集中して開いていたが、この10年ほどは分散化が進み、今年は過去最低水準の集中率になった。

日本取引所グループのまとめによると、今年の集中日は6月29日で、2277社の26.1%に当たる595社が開催する。1995年には96.2%の会社が1日に集中していたが、その後、ほぼ一貫して低下している。2008年に50%を割り、2021年には30%を下回った。昨年2022年は26.0%だった。

今年の6月29日は法定の日程ギリギリのタイミングで、ある程度この日に集中すると見られていた。次いで6月23日金曜日の17.0%、6月28日水曜日の16.4%、6月27日火曜日の15.0%となっており、この4日に全体の4分3の企業が開催する。関係者の間からは、「作業日程を考えるとこれ以上の分散は難しいのではないか」という声が聞かれる。

かつて1日に集中していたのは「総会屋」が跋扈していたことが大きい。総会で不祥事などを執拗に追及する総会屋を封じ込めるために、1日に集中させることで、総会への物理的な参加を難しくしていた。その後、罰則強化によって総会屋がほぼ壊滅したことから特定日に集中させる意味が薄れた。

一方、分散化を進めることで個人投資家が総会に参加しやすくして、ファンになってもらうことを目指す企業が増えたわけだ。会社側提案をすんなり可決するには、少しでも会社側提案への賛成票を確保したいという思いが強まっている。

経営者の方針を丁寧に説明することで理解者を増やしたいと言う「株主との対話」を重視する企業も着実に増えてきた。一方的な議事運営で30分で終わらせる「シャンシャン総会」では、本当の味方を作ることができないことにようやく気が付いたと言うことだろう。

日本企業のガバナンス体制も一歩一歩向上している。