台湾と日本のNPOが連携、「国会監視」のネットワークはアジアに広がるか 実は脆弱、日本の民主主義意識

現代ビジネスに7月1日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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台湾側の強い意気込み

日本で国会議員の活動状況などを調べて表彰する「三ツ星議員表彰」を運営しているNPO法人「万年野党」と、台湾で議会の監視活動を行う「公民監督国会連盟(公督盟)」が相互に協力していくことで合意し、6月19日に台北で覚書を交わした。民主主義社会の根幹である「議会」の活性化と透明性の確保は、日本でも台湾でも重要性が増している。

万年野党の理事を務める原英史・政策工房社長は「今回の提携を第一歩としてアジア各国の議会監視の団体との連携を進め、アジアの民主主義の底上げを図りたい」と話す。筆者も理事のひとりとして調印式に参加したが、専制主義国家の圧力が強まる中で、議会の機能強化を進めようとする台湾のNPOの意気込みを強く感じた。

台湾の国会である「立法院」の「立法委員」が完全に選挙で選ばれるようになったのは1991年の民主化以降。それ以前は、国民党政府が任命した任期なしの「万年議員」を中心とする形ばかりの議会だった。2008年には小選挙区比例代表並立制が導入され、小規模政党からも議員が選ばれるようになった。議員数は現在113人。

台湾議会について、公督盟の常務理事を務める吳鯤魯(ウー・クンルー)銘傳大學准教授は「台湾の議会制度はまだまだ歴史が浅く、市民が闘って要求しなければ民主主義は守れない」と公督盟の活動の意義を強調していた。

マンパワーの確保が課題

公督盟は議員の評価を行っているが、評価項目は定量的な基礎評価が80%、市民による質問内容への評価が20%となっている。基礎評価のうち、議会や委員会への出席10%、質問20%、予算・法案審議20%、法案提出15%、予算削減等15%のウエートで評点を付けている。また、市民による質問評価では、委員会などの議題に即した質問をしていか、十分に準備しているか、論理的な質問かどうかを、ボランティアが集まって評点を付けている。

公督盟のこうした議員評価の結果、議員の議会出席率が上昇したほか、質問の仕方などにも変化がみられるという。一方で、法案に対して、どんな対案を出したか、それは合理的だったか、といった点を細かくボランティアの評価委員が点数化するため、作業が膨大で大きな負担になっているという。

一方、日本国内で万年野党が行っている議員評価は、「国会での質問回数・時間」や、議員が国会開会中に提出する権利がある「質問主意書」の提出件数、「議員立法」に参加した件数を定量評価して星を付け、「3ツ星議員」を選んでいる。また、政治家や一般から「優れた国会質問を行った議員」をアンケート調査し、「特別表彰」も行っている。ちなみに6月に閉幕した211国会のアンケートを7月まで実施中。 誰でも投票ができる。

万年野党による日本の議員表彰は現在のところ「定量評価」が中心で、「質問内容などを評価するアンケートはまだまだ改善余地がある」(原氏)という。台湾の公督盟の質的評価は緻密だが、それだけマンパワーが必要になっていてボランティアを集めるのに苦労している。また、専従の職員を抱えており、資金集めも課題だという。

一方で、万年野党は衆議院参議院のホームページから質問時間などを自動で収集するシステムを開発、2023年表彰分から採用した。それまでの学生がデータをエクセルファイルに手入力して集計していたものに比べ大幅に労力を減らしたが、内容の正確性の確認などには人手がかかっているという。台湾の公督盟はこの万年野党のシステムに関心を示しており、今後、日本と台湾での評価方法の統一化なども検討課題になるとしている。

透明性をいかに増していくか

台湾の議員を巡る問題には日本と共通するものが多い。議員とカネを巡る問題もそのひとつ。「政党や議員に対する企業の不透明な資金提供がしばしば問題になる」(甘順基・公督盟副執行長)。

一方で、情報公開は不十分な点が少なくないという。

最近問題になっているのは公設秘書の氏名が公開されていないこと。議員を通じて政府の機密に触れる可能性があるにもかかわらず、どういったバックグラウンドの人物が秘書になっているか分からないことを公督盟では問題視している。議員の一族が公設秘書を占めていて独立性が疑われることのほか、中国大陸の影響力が大きい人物が秘書に入り込んでいるのではないかという疑惑もあるという。

専制主義と民主主義の対立が激しさを増す中で、民主主義の基本ともいえる議会の機能を強化し、透明性を増すことが一段と重要になっている。市民の力によって民主主義を得た台湾の取り組みをみていると、戦後、上から与えられた民主主義を当たり前と思ってきた日本の脆弱さを感じる。

アジアの国々の中でも民主主義の形は様々で、議会監視のネットワークが今後どんな形で進んでいくのか、興味深い。