上場企業の資格なし「空港施設」で前代未聞の社長再任否決に続き社外監査役が辞任 国交省以上に問題な天下り体質とは

現代ビジネスに7月6日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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経営権の争奪戦もなかったのに

6月29日に開かれた東証プライムに上場する「空港施設」の株主総会で前代未聞の事態が起きた。現役社長だった乗田俊明氏の取締役再任議案が否決されたのだ。ファンドなどによる経営権の争奪戦などで取締役が再任拒否されるケースは増えているが、そうした対立もないのに当日の総会でいきなり現職社長がクビになったのだから、世の中には驚きを持って受け取られた。

現職社長の“更迭”という異例の事態は、普通ならば安定株主として会社側提案に賛成する大株主が反旗を翻したため。同社は日本航空JAL)とANAホールディングスがそれぞれ発行済み株式数の21.02%を保有。さらに政府系金融機関日本政策投資銀行(政投銀)が13.82%を持っている。合計すると過半数を握っており、この3社が合意すれば総会での普通決議の議案の賛否を決することができるわけだ。上場企業としては極めていびつな構成と言える。

その3社のうち、少なくともANAJALが反対に回ったことで乗田氏が社長の座を追われることになったわけだ。ANAは反対票を投じたことを公言、JALは口をつぐんでいるが、近く公表される議案への賛否の割合を見れば予想がつく。1年前の総会で乗田氏は99.35%の賛成を得て取締役に再任されていたから、今回、50%をどれぐらい割り込んだかが公表されれば、3社の行動はほぼ明らかになる。いずれにせよJALが議案に賛成していれば、乗田氏がクビになることはなかったのは明らかだ。

つまり、ANAJALがそろって乗田氏にバツを付けたわけだが、いったいなぜなのか。

国交省OBとのバトル

乗田氏は天下りを巡って国交省OBと激しいバトルを繰り広げていた。今年3月30日に朝日新聞が「国交省元次官、『OBを社長に』要求 空港関連会社の人事に介入か」と報じて大問題に発展した。

国交省の元次官で東京メトロの会長を務める本田勝氏が2022年12月に空港施設を訪問、「方針が固まった」「国交省の出身者を社長にさせていただきたい」などと述べ、やはり国交省OBで空港施設の副社長だった山口勝弘氏を今年6月の株主総会で社長に昇格させるよう求めていた。

その際、本田氏は、自身の立場を「有力なOBの名代」と説明し、先輩の元次官の実名を挙げて、元次官も同様の考えだと伝えた。そのうえで「国交省としてあらゆる形でサポートする」と述べていたことが分かっている。要は、国交省の意向を汲んだかのような説明をしてOBが人事介入していたことが判明したわけだ。

国家公務員法では現役官僚が民間企業への天下り斡旋などを行うことを禁じているが、OBにはその規制が及ばないことから、事実上「抜け道」になっている。もっとも、現役官僚とOBが一体となって天下りを斡旋していたとなれば大問題になる。当初から国交省は「現役官僚は一切関係していない」とシラを切り続けた。

というのも、2017年に発覚した文部科学省天下り斡旋では、現役の関与が明らかになって「組織的な斡旋」だったとされ、当時の現役次官が辞任。歴代次官8人を含む37人が大量処分される事態に発展した。

この処分によってその後の同省の人事が長年に歪んだとされるほど役所に大打撃を及ぼした。その二の舞にはなりたくないというのが国交省の本音だろう。早々に本田氏が東京メトロの会長を辞職、山口副社長も辞表を出した。

ANAJAL国交省への忖度

2022年6月の総会で選ばれた9人の取締役は、会長がANA出身、社長がJAL出身の乗田氏で、山口副社長ら2人の国交省OB、2人のプロパー、それに3人の社外取締役という構成だった。今年6月の総会で乗田氏ら会社側が作成した取締役候補者はJALの乗田氏とプロパーの田村滋朗常務、3人の社外取締役が残留、4人を「新任候補」としたが、ANAJAL、政投銀、プロパーを候補とし、国交省OBの名前はひとりもなかった。「国交省」を意図的に排除したことは誰の目にも明かだった。

こうした「会社提案」を主導したのが乗田氏であることは明らかで、その乗田氏にANAJALが反対票を投じたのは、「国交省への忖度」が働いたと見られている。国交省に弓を引いたのは乗田氏であってANAJALではない、ということを行動で示したというわけだ。ANAが早々に反対したと認めた背景には、会社提案でいけばANA出身1人に対してJAL出身が2人と、バランスが崩れることを懸念した面もあるだろう。

今回の問題では国交省天下りに批判が集中しているが、空港施設に関する限り、大株主のANAJAL天下り体質にも問題がある。特にこの会社は国から借りた土地に空港の施設を建ててそれを賃貸する事業が中心だが、ANAJALは主要テナントでもあり、売上高の42.7%を両社に依存している。その両社からの天下りが経営執行に当たっている。

当然、空港施設の経営者と、客である両社は「利益相反」関係にある。ANAJAL天下りが、空港施設の経営執行を担えば、空港施設の利益を第一に考えることなどできないわけだ。つまり、両社の天下りが社長や副社長に就くのは本来、不適格なわけだ。

国から土地を借りている空港施設が、許認可権を握る国交省を排除したのは上場企業としての第一歩ではある。だからといって、ANAJALの支配権が強まるのであれば、話は違う。

顧客の株主権行使はいびつ

こうした大株主が支配している企業については、大株主以外の「少数株主」の利益を考えることがコーポレートガバナンス・コードなどで求められている。本来、こうした会社の取締役選定は社外取締役だけで行うべきだが、社外取締役がどれだけ機能しているのか今ひとつ見えてこない。

そうした中で、7月3日になって、社外監査役だった弁護士の芝昭彦氏が「一身上の都合」で辞任した。総会では2人の監査役が辞任して新任2人が選ばれたばかりで、このタイミングで辞任するのは極めて異例だ。今回の乗田社長の再任拒否を問題視した辞任なのではないかと憶測を呼んでいる。

空港施設は、日本を代表する企業が選ばれた「プライム市場」に上昇している。だが、その内容はコーポレート・ガバナンスの観点から見れば極めて異例でいびつなものだ。ANAJALが顧客として株主権を行使するのであれば、取締役会に天下って経営に関与するべきではない。

様々な許認可権を持つ、国交省が経営トップに就任することも問題が大きい。ANAJALは空港施設の持ち株比率を大きく引き下げるべきだろう。それができないのならば、さっさと株式市場から退出すべきだろう。