「ふるさと納税」1兆円に迫る。総務省の抵抗にもかかわらず3年連続最高を記録 国民は圧倒的に支持、寄付文化定着へ

現代ビジネスに8月3日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

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泉佐野市は最高裁で勝訴

毎年夏のこの時期になると、「返礼品競争が激化」といった「ふるさと納税」を巡る批判記事がマスコミに登場し始める。地方を応援するという本来の目的を逸脱して返礼品目当ての寄付(納税)が増えている、税金一部が個人の利益になるのはおかしい、といったものだ。また、ふるさと納税のせいで本来の税収が減ってしまっていると批判する東京都23区や政令市などの嘆き節の記事も定番だ。

総務省詰めの記者が書いたと思われるそうした記事を横目に「ふるさと納税」は伸び続けている。毎年7月から8月にかけて総務省が前年度の実績をまとめた「ふるさと納税に関する現況調査結果」を発表するが、今年も8月1日に2022年度のまとめが公表された。

それによると、2022年度のふるさと納税の受入額は全国合計で9654億1000万円と、前の年度に比べて16%増え、3年連続で過去最高を更新した。2023年度の1兆円突破は確実な情勢になっている。

利用額を見ても国民に圧倒的に支持されているふるさと納税制度だが、総務省の中には制度当初から根強い反対論がある。返礼品目当てで、税金から自分の利益につながるモノをもらうのはけしからん、というのが制度スタート当初からの批判論の中心で、返礼品は目の敵にされ、規制が繰り返し強化されてきた。

2017年と2018年には返礼品を「寄付額の3割以下の地場産品」とするよう求める総務大臣通知を出したが、強制力がなかったため、守らない自治体が多く存在した。そんな自治体に苛立った総務省は2018年秋には過度な返礼品を送っている自治体を制度から除外することを表明、2019年6月には法律を改正し、その上で、全国の返礼品を取り揃えて受入額トップに躍り出ていた大阪・泉佐野市など4自治体を制度から除外した。

これに抵抗した泉佐野市は最高裁まで戦って勝訴、制度に復帰したが、規制の強化もあって2019年度の全国合計の寄付額は大きく減少した。何とかふるさと納税の拡大を抑えたい総務官僚にとっては溜飲を下げる結果になったが、それも1年限り。2020年度からは逆に伸び率が大きくなり、受入額も過去最高を毎年更新している。

総務省はそれを許せない

そんな伸びが許せないのだろうか。総務省はさらに規制強化を決めた。2023年10月から返礼品の規制をさらに厳格化、「寄付金受領証の発行や仲介サイトへの手数料、送料を含めて寄付額の5割以下」とすることを求めるという。また、「地場産品」の定義もより厳しくする方向だ。

本来はふるさと納税を推進する立場にいるはずの総務省が、なぜふるさと納税の足を引っ張るような規制強化を行うのか。

総務省は全国の自治体が財政赤字にならないよう、地方交付税交付金を配分する権限を握っている。地方自治体の財政状態を見て、補助金で穴埋めする形になっているのだ。

その総額17兆2594億円。1765の都道府県市町村のうち、この交付税をもらっていない自治体はたったの77。あとはすべて総務省の厄介になっているわけだ。この交付税交付金総務省地方自治体に対する権力の源泉になっているのは言うまでもない。

この交付税交付金に慣れ親しんだ自治体の大半は、財政的に自立する気概をまったく失っている。地方自治とは名ばかりに国への依存を強める役割をになっているのだ。それに風穴を開けつつあるのが「ふるさと納税」なのだ。納税者の意思で税金の配分先を決められるわけだから、総務官僚の権限を奪うことになりかねない。何とかしてふるさと納税の拡大に歯止めをかけたいというのが本音なのだ。

寄付で応援する

ふるさと納税制度ができて日本の寄付文化が変わったと多くの識者が指摘する。長年、「日本には寄付文化は根付かない」と言われてきたが、ふるさと納税をきっかけに、「寄付で応援する」という人々が増えているというのだ。

確かにふるさと納税の受入先上位を見ると、「牛肉」や「蟹」、「米」といった人気商品を特産品として持つ自治体が上位に定着している。たが、一方で、災害があった際の義援金受け入れにふるさと納税制度を使う自治体が増え、実際に納税も増えている。こうした支援では「返礼品」を求めない人も増えている。

ふるさと納税に積極的な自治体のトップに聞くと、ふるさと納税制度ができて、自分の町の特産品を全国にアピールするにはどうすべきかと職員が工夫を凝らすようになった、という。自治体からすれば、産業振興資金を出すよりも、返礼品として人気のある特産品を買い上げることで支援する方がよほど合理的ということになる。

いくら総務省が規制を強化しても、ふるさと納税の伸びはまだまだ止まらないだろう。個人住民税の総額は13兆円を超えるので、その20%がふるさと納税として使われたとして2兆円を大きく超える可能性がある。さらに、住民税の免税額を超えて寄付する人も増えており、ふるさと納税による寄付収入はもはや自治体にとって大きな収入源になっている。自治体は、返礼品だけで競争しているわけではないのだ。

今年もふるさと納税の区切りが来る年末に向けて、各自治体の競争が始まる。