「ビッグモーターの不正体質は社長交代では絶対に消えない」残り続ける"大株主"という根本問題 本当の意味で経営陣を刷新するしかない

プレジデントオンラインに8月3日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/72381

6000人の従業員を抱える社会的責任は大きい

次から次へと表面化する不正疑惑で、ビッグモーターの経営はどうなっていくのか。非上場企業とはいえ、6000人の従業員を抱える社会的責任は大きい。元社員らの証言が相次いで報道され、世の中の関心が高まったことで、ついに監督権限を持つ省庁も調査に乗り出した。

国土交通省は7月26日に社長に就任したばかりの和泉伸二氏から事情聴取を行ったものの、実態把握が必要と判断し、7月28日に全国24都道府県の34事業場へ一斉に立ち入り検査した。また、金融庁も同日、関東財務局を通じてビッグモーター役員に保険代理店業務について任意の聴取を実施。7月31日にはビッグモーターと損害保険ジャパンなど損保会社7社に対して、保険業法に基づく報告徴求命令を出した。

国交省の立ち入り検査は、整備料金の不当請求などを禁じる道路運送車両法に基づいたもので、自動車整備工場への立ち入り検査としては過去に例を見ない規模で行われた。今回の立ち入り先だけでなく、ビッグモーターの整備関係135事業場すべてについて、法令違反がないか自ら調べて報告するようビッグモーターに指示したという。

損保会社の「関与」にも調査対象が広がっている

疑われているように、修理の際に故意に傷を付けたり、車検の際に不必要な部品交換をするなど悪質な不正が恒常的かつ組織的に行われていたということになると、国交省が民間車検場としての「指定自動車整備事業」の指定取り消しや、車検業務の停止といった行政処分に踏み切る可能性が高い。これまでも個別の整備工場が指定取り消しや業務停止を受けているが、会社全体に処分対象が広がる可能性もある。

また、修理代金の水増しによる保険金の不正請求に関しては、ビッグモーターだけでなく、同社と関係が深かった損害保険ジャパンなど損保会社の「関与」にも調査対象が広がっている。ビッグモーターが保険代理店としての許認可を取り消される可能性があるほか、損保大手にも行政処分が及ぶ可能性がある。事故が起きた際、損保大手はビッグモーターの修理工場を紹介するなどして、修理が必要な事故車両を斡旋、それに応じて自動車損害賠償責任保険自賠責保険)の契約をビッグモーターが割り当てていたとされる。

損保会社の「関与」にも調査対象が広がっている

疑われているように、修理の際に故意に傷を付けたり、車検の際に不必要な部品交換をするなど悪質な不正が恒常的かつ組織的に行われていたということになると、国交省が民間車検場としての「指定自動車整備事業」の指定取り消しや、車検業務の停止といった行政処分に踏み切る可能性が高い。これまでも個別の整備工場が指定取り消しや業務停止を受けているが、会社全体に処分対象が広がる可能性もある。

また、修理代金の水増しによる保険金の不正請求に関しては、ビッグモーターだけでなく、同社と関係が深かった損害保険ジャパンなど損保会社の「関与」にも調査対象が広がっている。ビッグモーターが保険代理店としての許認可を取り消される可能性があるほか、損保大手にも行政処分が及ぶ可能性がある。事故が起きた際、損保大手はビッグモーターの修理工場を紹介するなどして、修理が必要な事故車両を斡旋、それに応じて自動車損害賠償責任保険自賠責保険)の契約をビッグモーターが割り当てていたとされる。

社長・副社長を辞任しても「オーナー」であり続ける

こうした行政処分が行われた場合、ビッグモーターの経営を大きく揺るがすことになりかねない。創業者で社長を辞任した兼重宏行氏が7月25日に会見した際に同席した和泉・現社長が語っていたように、「販売台数、買取台数は、通常に比べて約半減しているのが事実」とすれば、これに行政処分が加わったとすると、経営は厳しさを増すことになる。

最大の問題は、これだけ大々的に報じられて消費者の信頼を大きく損なった中で、ビッグモーターがどうやって経営を立て直していくのか。焦点はこれまで経営を事実上仕切ってきた兼重宏行・前社長、兼重宏一・前副社長の影響力を排除できるかどうかだろう。ビッグモーターの株式は兼重氏の資産管理会社である「ビッグアセット」(本社・東京港区)が100%保有しており、このビッグアセットは、代表取締役に兼重宏行氏、取締役に宏一氏が就いている。つまり、会見でビッグモーターの社長、副社長は辞任したものの、会社を絶対的に支配できるオーナーであることには何ら変わりがないわけだ。

ビッグモーターは今でも兼重氏の会社

会見では兼重前社長は「今後、経営に影響力を与える行動は取るつもりはありません」と語っていたが、これは詭弁きべんだ。非上場のビッグモーターの代表取締役を決めるのも、事業譲渡を決めるのも、すべて100%株式を保有するビッグアセットの意向次第。その代表取締役を務める兼重・前社長がすべての決定権限を握っているのだ。仮に1株も持っていない和泉新社長が、兼重氏の影響力を排除するために手を打とうとしても、何もできないのである。つまり、ビッグモーターは今でも兼重氏の会社であり続けているわけだ。

そんな中で和泉新社長は、ビッグモーターの経営を「これまで通り」に運営していくことはできるだろうが、それを変えることは難しい。変えようと思えば、オーナーの兼重氏の意向を聞かねばならないからだ。「経営そのものに大きな問題があったのは間違いない」(経済同友会新浪剛史代表幹事)と経済界からも批判される中で、経営スタイルを変えることは難しいのだ。

「社風」を一掃できない限り不正は繰り返される

今、ビッグモーターに向けられている消費者の不信感は「経営スタイル」そのものだ。業績を上げるためには顧客を騙すようなやり方も許される、経営トップが直接「不正をやれ」と指示したわけではないかもしれないが、数字を上げるためには不正も許される、数字を作らねば罵詈ばり雑言を浴び、降格され、会社を追われる、という「社風」、「空気」が蔓延していたのだろう。そうした「社風」を一掃できない限り、同じような不正が繰り返され、世の中の信頼を根本から失うことになる。

店舗の前の街路樹に除草剤をまいて枯らせていたのではないか、という疑惑も広がっている。これは顧客を巻き込んだ不正とは次元の違う事件だが、明らかにビッグモーターの「社風」を示している。店舗前に「雑草」があれば怒鳴られ、減点され、降格される。店長にとっては街路樹も「雑草」に見えてくるのだろう。「除草剤をまけば雑草はなくなる」という“知恵”が店長たちの間に広がり、それが犯罪行為だという感性を麻痺させたのだろう。

「悪しき社風」は簡単には消えてなくならない

経営者は「除草剤をまけと言ったことはない」と言うだろう。おそらくそれは嘘ではない。だが、結果的に除草剤をまくのが当たり前になっていった。それがビッグモーターに巣食った「悪しき社風」である。そうした犯罪行為も厭わなくなる会社の空気は、粉飾決算や様々な検査不正が発覚した日本の有名企業にも共通していた。その「社風」や「空気」を完全に払拭するのは、実は至難の業である。一度根付いた「悪しき社風」は経営者が口で言っても簡単には消えてなくならない。多少の数字合わせや不正は許されるというカルチャーが残ってしまうのだ。

ビッグモーターはどうやってそれを一掃していくのか。6000人を抱える巨大企業に育てた兼重氏の手腕は評価すべきものがあったのだろう。だが、その成長を達成するために、本来は許されないはずの不正を許す風土が生じた。かつて「向う傷は問わない」と言った銀行経営者がいたが、まさに同じである。

経営陣を「本当の意味」で刷新するしかない

その空気を一掃するには、兼重氏がビッグモーターの株式の過半を手離し、ビッグモーターの株主構成を大きく変え、経営陣を本当の意味で刷新する以外に方法はないだろう。おそらく投資ファンドなどはすでに兼重氏への接触を始めている。あるいは、行政処分が下ったどん底のところで、兼重氏から株式を買い取ることになるのかもしれない。その後は、新経営陣が社会性の高い企業として上場を目指すことになるのだろうか。

兼重氏が、ビッグモーターは自分の会社だ、と固執し続けた場合はどうなるか。消費者の信頼は回復せず、業績はジリ貧となり、それを補うために事業を切り売りせざるを得なくなる。それでも信頼回復は簡単ではないだろう。消費者は忘れやすいので、ビッグモーターにも客が戻ってくる、と兼重氏や今の経営者が高を括っているのだとすれば、後者に陥る可能性が高いだろう。自分が作った会社なので自分と末路も同じでいい、と無意識に思う創業オーナーは多いが、多くの社員とその家族がいることを考えれば、それは最悪の選択ということになる。