自民党・政治刷新の数少ない目玉が派閥へのナンチャッて「外部監査」、本当に政治資金は透明になるのか

現代ビジネスに1月26日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/123365

企業への外部監査とはまったく別なもの

パーティー券収入など政治資金の不透明な扱いに揺れる自民党は、党政治刷新本部(本部長・岸田文雄総裁)が中間報告をまとめた。

派閥の解散を党として打ち出すことはできず、政策集団としての存続を容認する煮え切らない内容になった。政策集団によるパーティー開催を認めないことや、人事とポストから切り離すことなどが盛り込まれたが、どう実効性を保つのか不透明な点が多い。

政治資金収支報告書への不記載などの場合に会計責任者だけでなく政治家の責任も問う「連座制」も検討されているが、これは国会での政治資金規正法見直しが必要になり、どう決着するかは見通せない。

そんな中ですんなり盛り込まれたのが、政策グループの政治資金に「外部監査」を導入するという点。これまで国会議員の資金管理団体などは「外部監査」が義務付けられていたのに、派閥は対象外だったので、その対象に加える、というわけだ。

外部監査を入れるというと、資金の流れが外部の目で厳しくチェックされるようになると感じるだろう。だが、政治資金の世界で言う「外部監査」は、上場企業などで行われている「外部監査」とはまったく別もの。日本公認会計士協会の幹部ですら、「あれはナンチャッて監査ですから」と言う代物なのだ。

会計士協会の中には「政治監査禁止」の声も

まず、監査を行うことができる人の「専門性」と「独立性」がまったく違う。上場企業では会計専門家である公認会計士しか監査を行うことができず、それも個人ではなく、専門家集団である監査法人が監査を行う。監査法人は監査対象の企業とは利害関係のない独立性が求められる。

ところが政治の世界で言う「外部監査」は、監査法人でなくても、会計士個人や税理士、弁護士なども行うことができる。現在義務付けられている資金管理団体で、監査法人が監査を担当しているところはほとんどない。しかも、政治家の後援会に所属している税理士が担当するなど独立性が疑われるケースも少なくない。党に入った政党助成金から資金が流れることから外部監査が導入されたが、とても国民の血税が正しく使われているかを厳正にチェックする体制からはほど遠いのだ。

 

会計士協会の幹部などが集まる会合では、「いっそのこと政治資金がらみの監査からは手を引いた方がいいのではないか」と協会会長OBからも意見が出たという。金融庁などから「監査の質」を常に問われている会計士協会としては、「ナンチャッて監査」を会計士が引き受けることを禁止した方が良い、というわけだ。だが一方で、「そんなことをしたら、税理士に監査を取られる」という反対論が根強いという。

実は、会計士と税理士は長期にわたって職域論争を展開している。会計士は監査業務のほか税務も行うことができるが、税理士は税務だけで監査を行うことができない。税理士会は会計士協会に比べて政治家とのパイプが太く、選挙協力も行うため、政治力が圧倒的に強いとされる。過去にも税理士会が政治に働きかけて会計監査を税理士にも認めるよう求めてきた経緯がある。政治資金監査を手離したら税理士会の思うツボだというわけだ。

資金管理団体で行われている監査を仮に政策集団の資金団体にも義務付けたとしても、今回のような不記載はまったく防げない。上場企業でも経営者が意図して売り上げを隠したり、架空計上する「粉飾決算」を行なった場合、なかなか監査で見抜くことは難しい。銀行口座の残高証明や通帳の記録などをチェックしたり、取引先とのモノやお金の動きを調べることで粉飾決算を防いでいる。ところが政治資金監査の場合、領収書と帳簿の付き合わせぐらいしか行う権限がなく、今回の政治資金パーティー収入の不記載などを調べる方法がない。会計士幹部が「ナンチャッて監査」と言う所以だ。

こんな慣行はもうやめるべき

政治資金は政党助成金という国民のお金が政党を通じて政治家の資金団体などに流れているほか、課税が免除されるなど高い公益性を持つ。それは、上場企業の比ではない。それだけに、外部による厳しいチェックを入れるのが当然だろう。上場企業に義務付けている監査法人による厳密な意味での「監査」を導入するのが当然と言えるだろう。「外部監査を導入する」という言葉を鵜呑みにするのではなく、本物の監査を通じて透明性を図るべきだ。

今後、国会では政治資金規正法の改正が議論になる。日本の政治で資金集めの大きな手段になっているパーティー券の扱いを変えるべきだろう。1回20万円以下ならば購入者の名前を明らかにしなくて良いという「抜け穴」が最大の問題だ。企業からみても「交際費」や「寄附金」として経費処理でき、しかも名前が出ないことで株主などの批判をかわすことができるため、便利な仕組みとして定着してきた。だが、そろそろそうした「慣行」は止める時だろう。手っ取り早いのは、上場企業に政治家や政党、政治資金団体などへの支出はすべて情報開示させることだろう。

今回の「裏金」問題が発覚したのも資金の出と入りが一致していないことが明らかになったのがきっかけだった。政治資金の出し手つまり個人や企業側の情報開示を徹底すれば、受け手である政治資金団体は不記載ができなくなる。

岸田首相に近い政治家は「出し手が記載していない以上、受け手が記載するわけには行かなかった」と語っていた。受け手の不記載を防ぐ手立てを考えるよりも、出し手の情報開示を進めることが重要である。