自民党「裏金」問題はパーティー券を「買う側」の問題に行きつく。問われる財界の姿勢 経団連は「何が問題なのか」

現代ビジネスに2月15日に掲載された拙稿です。ぜひご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.media/articles/-/124305

国民は納得していない

政治資金パーティーを巡る「裏金」問題への自民党の対応への批判が強まっている。自民党は2月5日に党所属の全国会議員に「派閥による政治資金パーティーに関する全議員調査」と題したアンケートを配布したが、質問は政治資金収支報告書の「記載漏れ」に関する2問だけ。岸田文雄首相は国会で「実態把握」すると繰り返し述べてきたが、実態を把握する姿勢に乏しく、形だけの調査でお茶を濁すつもりではないか、といった声が噴出している。

裏金問題を受けて自民党は「党政治刷新本部(本部長・岸田総裁)」を設置、1月25日に「中間とりまとめ」を総務会で了承、公表した。当初、盛り込むとみられていた全派閥の解散については踏み込まず、派閥を「カネと人事」から切り離すとするにとどまった。その後の国会審議で、解散を拒否している麻生派などへの対応について聞かれた首相は、カネと人事から切り離したことで、従来の派閥は無くなったとする「珍解釈」を展開。そこでも改革に向けた本気度が疑われる結果になった。

NHKが行った世論調査でも、政治刷新本部の中間とりまとめについて、「大いに評価する」とした回答はわずか4%、「ある程度評価する」も32%で、「あまり評価しない」(29%)、「まったく評価しない」(28%)と6割近くが否定的な反応だった。「政治資金問題への岸田首相の対応」についても、「大いに評価する」(1%)、「ある程度評価する」(22%)と評価する声は少数にとどまり、「まったく評価しない」(33%)、「あまり評価しない」(36%)という声が7割近くに達した。自民党の自浄能力に疑問が呈されていると言っていいだろう。

出し手が記載していない金を

派閥からキックバックされたカネを政治資金収支報告書に記載していなかった議員も一様に口をつぐんでいる。不記載が4355万円にのぼり略式起訴された谷川弥一衆議院議員自民党を離党後、議員辞職し、4800万円不記載の池田佳隆衆院議員は逮捕された。安倍派の幹部なども軒並み1000万円を超える不記載が表面化したが、離党や議員辞職は頑なに拒んでいる。

そのカネを何に使ったのかもまったく説明されていない。「政治活動」といった曖昧な説明を繰り返している。首相自身も不記載について「事務的なミス」と言い、誰ひとり「道義的責任」を取る政治家も出てこない。時が過ぎて人々が忘れるのを待っているかのようだ。

NHK世論調査では、「不記載議員の説明責任」について、「果たしていない」という声が88%に達した。もはや議員本人から説明責任を果させるのは無理ということなのだろう。

「出し手(派閥)が記載していないものを議員が記載するわけにはいかないんです」と党政治刷新本部の主要メンバーのひとりは言う。つまり、カネの出し手が名前や金額を伏せているものを、もらった側が記載できるはずはない、というのだ。結局、事務的なミスでも何でもなく、構造的な問題であることを正直に吐露している。

逆に言えば、裏金の使い道を明確に言えないのは、言えば、その金をもらった側の問題に波及するからだろう。すでに指摘が出ているように、議員の「領収書のいらない金」は、県議会議員や市議会議員などにわたり、選挙などの資金として使われてきた。河井克行元法相夫妻の買収事件でもその一端が現れた。モノいえば唇寒し。下手をすれば買収疑惑が浮上することになりかねない。政治評論家が解説するような、秘書給与に必要だといった類の話ではない。

つまり「出し手」側がきちんと記載すれば、受け取った側は自ら収支報告書に記載せざるを得なくなる。これはパーティー券の構造も同じだ。

財界は政策を金で買っている

パーティー券は20万円までならば買ってくれた企業名や個人名を記載しなくて良いことになっている。相場は1枚2万円なので10枚までならば名前が表に出ない。しかも1回のパーティーあたり20万円なので、年に何回もパーティーを開けば匿名で寄付ができる。企業も「交際費」や「寄付金」として経費処理ができる。結局、この仕組みが企業などの政治献金の「裏ルート」になっているのだ。

パーティー券の購入者名を開示せよ、ということになるが、出し手がどう処理しているか分からない金を、もらっている政治家の側が公表することなどできるはずもない。この問題を解決する簡単な方法は、企業や個人の側に政治資金を出した場合の公表義務を課すことだ。

経団連の十倉雅和会長は記者会見で「あってはならないこと。検証を徹底的に」と語っているが、本気で経済界が今の政治と金の問題を徹底的にきれいにしようとしているとは思えない。金の出し手である財界が本気になれば、政治と金の問題は一気に透明化できるはずだ。

なぜ、経団連は傘下の企業にパーティー券の購入を止めよと号令を発しないのだろうか。あるいは政治資金の「出し手」の開示ルールを強化しようと提案しないのか。

昨年の十倉会長の記者会見を報じた東京新聞は、「企業団体献金が税制優遇に結び付くなど政策をゆがめているとの指摘に対しては『世界各国で同様のことが行われている。何が問題なのか』」と発言したと報じられた。

2009年に民主党政権が誕生すると同党に「企業献金は受けない」と拒絶されたのを機に経団連は、会員企業に声をかけて政治献金を取りまとめることをやめた。自民党が政権に復帰すると2014年に企業献金を再開。その後、経団連の主張してきた法人税率の引き下げなどが実現している。結局、財界は政治を金で買っているのではないか、という疑惑が付き纏っている。

政治と金の問題の解決を、金の受け手である政治家に期待するのは無理がある。金の出し手である財界が、政治とカネの問題を国民が納得する形で解決しない限り、政治献金を辞めると言えば、この問題は一気に解決するだろう。