東京で最もオシャレな「コミュニティ・スペース」を作れる男

 4月27日のNewsPicks「ミリオンズ ~100万人に1人の人材への挑戦~」に掲載された記事です。オリジナルページ→

https://newspicks.com/news/3725396/body/

 

「#01 水代優(グッドモーニングス代表取締役)」

当たり前のことをきちんとやる
「『地域おこし』をやるなら神社の掃除は当たり前だと思うんですけどね」——。
地域おこしの仕掛け人として大手デベロッパーなどから引っ張りだこの水代優(40)はそう言って首をひねる。
水代が立ち上げた会社「good mornings(グッドモーニングス)」には、「地域おこし」や「場づくり」がやりたいと言って入社してくる若者が後を絶たない。
だが、「掃除」を命じると、決まって「私がやりたかったのは、そんな仕事ではありません」という反応が返ってくる。つい先ごろも地域にある神社の掃除が不満で、若手がひとり辞めていった。
グッドモーニングスは今、東京に直営の拠点を3カ所持つ。2015年末に東京・浅草に不動産大手の楽天地が建てた複合商業施設「まるごとにっぽん」では、そのプロデュースを手伝い、3階に「Café M/N」という全国の生産者と消費者をつなぐ「場」を作った。

2017年には安田不動産と共に東京・浜町の再開発に参画、「Hama House(ハマハウス)」と名付けた自社ビルを建て、ブックカフェやコミュニティ・スペース、スモールオフィスを運営する。

 

全国から書店が消えていく中で、壁一面を書架にしたカフェで、次々に本が売れていく。著者や書評家を招いたトークイベントなども開く。
さらに、昨年、2018年5月には三菱地所との共同企画として丸の内の仲通りに「Marunouchi Happ. Stand & Gallery (丸の内ハップ・スタンドアンドギャラリー)を開設した。ビジネスの中心街にあるカフェ兼コミュニティ・スペースである。
いずれも単なる飲食店ではない。生産者が自身の農産物を持ち込んでオリジナル料理を提供するイベントを開いたり、オフィス街で働く女性向けに趣味や文化的な講座を開いたりする。コミュニティを構築する「場づくり」が水代の得意とするところだ。
モノではなくソフトを売っている、と言っても良い。今や水代は、東京で最もオシャレなコミュニティ・スペースを作れる男のひとりなのである。
 
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株式市場を10日間も閉める「日本の常識」をいますぐ見直せ

5月2日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64418

河岸の心意気で豊洲は開くが

天皇陛下のお代替わりの祝日が加わり、ゴールデンウィークが初めての10連休となった。数十年に1度の国を挙げてのお祝いなので、祝日となることは当然とも言える。

だが、東京証券取引所をはじめ、日本国内の金融市場を一斉に閉場としてのは、「世界の常識」からあまりにも乖離している。今年の10連休を機に、日本の会社員や役人の「休み方」も再検討すべきだろう。

カレンダー上は10連休となったものの、現実にはなかなか休めない人も多い。特にサービス業に従事している人たちは、10連休は「稼ぎ時」になるため、店を閉めるどころか、日頃よりも忙しく働いている。

また、自営で飲食や小売店を営む人たちからすれば、10日間も店を閉めれば、月収の3分の1が吹き飛ぶことになりかねず、天皇陛下のご退位日である4月30日と新天皇陛下のご即位日である5月1日だけ閉める、という対応を取っている店も多い。

飲食店、特に寿司店や和食のお店で、30日、1日と連休にしたところが多く見られたが、これには別の理由もあった。魚市場である東京・豊洲市場が30日と1日を連休にしたからだ。

そう、実は、豊洲市場は10連休中も全て休場とはせず、27日(土)、29日(月・祝)、2日(木・祝)、3日(金・祝)、6日(月・祝)は平常通り市場を開いたのである。

通常は祝日以外では、日曜日と水曜日が休みなので、今年のGWで祝日扱いとして余分に休んだのは30日(火)と4日(土)の2日間だけだったということになる。

「河岸(かし)を閉めたら、国民生活に影響が出る」というのが休み中も市場を開いた理由だとしている。

取引所長期閉場はリスクそのもの

ところが、同じ「市場」にもかかわらず、10連休中すべて閉場としたところがある。日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所など金融市場だ。

魚河岸が国民生活への影響を考えているのと対照的に、株式市場を閉め続けても、国民生活には影響がない、と言っているに等しい。

世界の取引所では、10日間も続けて市場を閉めるというのは「非常識」極まりない事だ。

10日の間に世界的な経済変動や事件が起きれば、当然、市場は大きく反応する。投資家は保有している株式や債券を売買できなければ大きなリスクを背負うので、市場が閉まるという事はそれ自体が大きなリスクなのだ。

リーマン・ショック世界大恐慌、あるいは大地震などに際して、数日売買が止まったことはあっても、10日間にわたって市場を閉めた例はほとんどない。

つまり、もし世界で株価を動かすような大事件が起きたとしても、日本の投資家はゴールデンウィーク明けの5月7日まで、日本の市場で株式を売却することができないわけだ。

また、10日間の海外の相場変動は日本の株価に反映されないので、5月7日に一気に10日間の価格変動分が反映されることになる。

JPXもホームページなどで10連休について、こんな「注意喚起」を行っている。

「投資家をはじめとする市場関係者の皆様につきましては、10連休に関連したニュース等を十分ご確認いただきますよう、お願い申し上げます。当取引所といたしましても、これまでにない長期の連休となることから、10連休前後においては市場の動向を注視するとともに、売買監視を徹底するなど、市場の信頼性確保に向けて努めてまいります」

前述の通り、天皇陛下のお代替わりは数十年に1度の慶事だから、国を挙げての祝日とすることに異論はない。だが、豊洲市場と同様、市場を休みにするかどうかは市場関係者が決めるべきことだろう。

世界とは反対の方向へ

日本は今後も祝日が増えて行く可能性が高く、ゴールデンウィークも来年以降も続く。国が定めた休日は、すべて株式市場も休みにするという発想では、世界の常識からどんどんかけ離れていく。今年の10連休に市場の混乱が起きなかったからといって、来年のゴールデンウィークをのんびり休場にして良いということにはならない。

欧米の取引所は土曜と日曜以外の「休場日」は非常に少ない。経済がグローバル化し、海外の経済変動が国内市場に直接影響を与えるため、むしろ休場日を減らし、世界に合わせていく方向に進んできた。

米国の場合の休場日は、2018年も2019年も9日。年末年始の休みは元日だけ。クリスマスも25日だけだ。ドイツは10日間で、連休になるのは、復活祭の金曜日から月曜日までの4日間というのが最長である。

これに対して、日本の休場日は2019年にはなんと22日と欧米の2倍以上もあるのだ。しかも、10連休のほか、年末年始の12月31日から1月3日までも休みとなるなど、長い連休閉場が少なくない。つまり、日本だけ、閉場リスクがどんどん高まっているのである。

これは、日本の休みが「お上主導」だからだろう。民間の組織であるはずの証券取引所まで、お上が言うのだから休むのが当然と思っているに違いない。

戦後長い間、証券取引所は大蔵省(現財務省)の大物官僚が理事長に天下り、国の機関の一部のような位置付けが続いていた。今や民間の株式会社になって株式も上場されているにもかかわらず、お上意識が抜けないのだろう。実際、今だに財務省金融庁からの天下りが続いているから、国民(投資家)の利益やリスクよりも、お上の都合が優先するのだろう。

株の売買はカブ(野菜)の売買よりも、国民生活にとって位置付けが低いと、本気で考えているのだとすれば、日本の株式市場が世界に伍していく存在に復活することなど夢のまた夢というところだろう。

GWは日本企業を守る「障壁」か 再考すべき市場の長期閉鎖リスク

4月24日付けのフジサンケイビジネスアイ「高論卓説」に掲載された拙稿です。オリジナル→https://www.sankeibiz.jp/business/news/190424/bsm1904240500002-n1.htm

 

 今年のゴールデンウイーク(GW)は今上天皇の退位と新天皇の即位が重なり、10連休となる。国を挙げての慶事として、祝日とするのはこれまでの慣行から見ても当然のことだろう。10連休になる公務員や会社員もかつてない長期のGW休暇を楽しむことになる。

 だが、金融市場となると話がやや違ってくる。世界の市場が動いている中で、日本だけが10日にわたって市場を閉めることは、投資家にとって間違いなく大きなリスクになる。特に完全に休みになる東京証券取引所でしか売買ができない多くの個人投資家は、世界で大きな経済変動などが起きても、株式を売却する術(すべ)を失う。

 仮に何も起きなくても、10日間に起きた事象を5月7日に一度に吸収しなければならないわけで、GWを挟んで相場が大きく変動するリスクもある。東証は「市場の動向を注視するとともに、相場操縦などの不公正行為に係る監視を徹底する」とする異例の注意喚起を発している。つまり、10日間のブランクを利用した売買が横行する可能性があるとみているわけだ。

 市場が無事にこの10連休を乗り切ることを祈るばかりだが、そもそもGWに市場を閉めることの是非について、そろそろ議論すべきではないか。毎年この時期に日本の市場だけが閉まるというリスクを負っているのだ。海外投資家と話していて、「GWの休場は日本企業を守るための障壁なのではないか」という疑問をぶつけられた。というのも、アクティビストと呼ばれる物言う投資ファンドなどが、日本企業の株式を大量に買って、株主提案しようとした場合、会社法の規定で株主総会開催日の8週間前までに会社に提案書を届ける必要がある。

 日本企業の多くは3月期決算で、株主総会は6月末に集中している。その株主総会で株主提案する場合、ちょうどGWに当たるのだ。GWの期間中、会社は休みになるから、大株主として会社に問い合わせることも難しくなる。

 GW前に株主提案しようと思うと、3月期決算企業の場合、決算発表もしていない会社が数多くある。投資家からすると、決算を見て株主総会に提案するという当たり前の権利がGWによって事実上封じられている、というのである。

 日本政府はコーポレートガバナンス企業統治)の強化を打ち出し、株主との対話の促進などを企業に求めている。その一方で、GW期間中の市場を閉じることで、企業のIR(投資家向け広報)窓口も閉鎖を許している。これは日本株を買っている海外投資家に対する「目に見えない障壁だ」というのだ。

 取引所もかねて、株主総会を分散解散するよう求めている。また、有価証券報告書の提出期限を遅くし、株主総会を7月以降でも認めるようにしようという声もある。だが、現実には6月末の総会集中は今年も続いている。

 会社経営者にとって、取締役会の意見と違う株主提案を外国人投資家に出されるのは、正直うるさいと感じるかもしれない。だが、GWという「障壁」に隠れて外国人投資家の声をシャットアウトすれば、いずれ外国人投資家はあきれて、日本株投資から手を引いていくに違いない。

 働く人個人にとっては大型連休はありがたいが、それが金融界や企業のあり方をゆがめていないか。もう一度原点に返って議論する必要がありそうだ。

消費増税は予定通りでも「地獄」、先送りしても「地獄」なワケ

現代ビジネスに4月25日にアップされた拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64324

「やはり」で広がる波紋

消費増税の先送りはあるのか。安倍晋三首相の側近のひとりである萩生田光一幹事長代行の発言が波紋を広げている。

インターネット番組に出演した萩生田氏が、10月の税率引き上げについて、「6月の日銀短観全国企業短期経済観測調査)の数字をよく見て『この先危ないぞ』と見えてきたら、崖に向かい皆を連れていくわけにいかない。違う展開はある」と発言した。

自民党幹部から相次いで批判の声が上がり、萩生田氏は「政治家としての私個人の見解を申し上げた」と釈明せざるを得なくなった。

政府与党幹部の火消しにもかかわらず、萩生田氏の発言を聞いた関係者の多くは、やはり首相周辺では増税に危機感を持っている人たちが多くいるのだと感じている。それぐらい、足元の消費が弱いのだ。

日本百貨店協会が4月23日に発表した3月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)は前年同月比0.1%増となり、2カ月連続でプラスになった。

宝石や高級時計といった「美術・宝飾・貴金属」部門が6.7%増だったことが全体を引き上げたが、衣料品は1.4%減、家庭用品は6.6%減と全体として消費が盛り上がっているわけではない。

駆け込みはどこに行った

予定されている消費増税まで半年となり、本来なら駆け込み需要が盛り上がるタイミングだ。

「美術・宝飾・貴金属」部門は、前回の消費増税前には2ケタの伸びが続き、増税直前の2014年3月には113.7%を記録した。つまり前年同月の2倍の売れ行きを示したのだ。ちなみに増税半年前は15.7%増だった。それに比べると今回は「駆け込み」がほとんど起きていないと言っても良いだろう。

前回の消費増税前は、アベノミクスへの期待が高く、株価も上昇していた。今回は安倍首相が繰り返し述べていた「経済好循環」による所得増の効果に疑問符が付いているタイミングで、むしろ先行きの世界経済の減速すら懸念されている。株価も一進一退といった状況だ。

3月の百貨店売上高がプラスになったのも、国内居住者の消費が伸びているというよりも、相変わらずインバウンド消費、つまり観光などでやってくる訪日外国人による買い物が好調だったことが大きい。

百貨店で免税手続きをして買われた商品の総売上高は332億8000万円と前年同月に比べて14.9%も増え、過去最高を記録した。手続きをした客の数は45万2000人に上る。購買客数は2013年2月以降、74カ月連続の前年同月比プラスが続いており、日本の百貨店のインバウンド依存が高まっている。

インバウンドによる免税売上高を引いた「実質国内消費」で見ると、マイナスが続いており、国内の消費は百貨店で見る限り、弱さが際立っているのだ。

百貨店売り上げが全体の消費動向を示していないのではないか、という見方もあるだろう。財務省が発表している「租税及び印紙収入、収入額調」によると、2月分の消費税の税収は前年同月比1.1%減となっている。

消費のタイミングと納税の時期が必ずしも一致していないので、正確にはわからないが、思うほど消費が伸びていない可能性はある。年度始めから2月までの累計の消費税収は2.7%増となっているが、法人税の8.5%増などに比べると伸びは低い。

危惧だけが高まっていく

問題は、果たして、このまま増税に踏み切って、日本の消費は大丈夫なのか、という点だ。

当初の目論見では、「経済好循環」によって、企業業績の好調さが給与増などによる所得増につながり、2019年は消費が底堅い状態になることが期待されていた。駆け込み需要も盛り上がることから、夏にかけては、消費の足取りはしっかりしたものになるとみられていた。

政府が気にしていたのは、むしろ10月の消費増税後の反動減で、これによって日本経済の底が抜けないよう、プレミアム商品券などさまざまな反動減対策を打ち出した。2014年4月の増税後の反動減が大きかったため、その轍は踏まないという強い意志が働いていた。

反動減を小さく抑えれば、2020年の東京オリンピックパラリンピックがやってくる。年間4000万人の外国人観光客が日本に押し寄せれば、インバウンド消費の「特需」が起きることは間違いない。つまり、消費増税をするとすれば、2019年10月をおいて他にはないというのが、首相官邸財務省の読みだったのだ。

ところがである。増税まで半年に迫っても、なかなか駆け込み需要が盛り上がらないどころか、足元の景気が弱いままなのである。そこへ増税などしたら、本当に経済の腰が抜けかねない。

本来ならば駆け込み需要によって、7月の参院選に向けて景気がじわじわ良くなり、株価も上昇するので、政権与党にとっては追い風になる、という読みもあったはずだ。それが、追い風どころか、経済が選挙の足を引っ張りかねない状況担っているのだ。

この機を逃したら

萩生田氏の発言は、そんな焦りの表れとも言えるし、選挙に向けたパフォーマンスのひとつと見ることもできる。

というのも、消費増税を見送る場合には、国民の信を問う必要がある、という話になっているからだ。参議院選挙前に衆議院を解散して、衆参ダブル選挙を行うのではないか、という見方が永田町には一気に広がっている。

もっとも、実際に、消費増税を延期することは難しいだろう。

システム改築などの準備が民間でも進んでいることもあるが、延期した場合、いつ増税するのか、という問題が出てくる。2020年の東京オリンピックパラリンピック後に先送りしたとすれば、オリンピック特需が終わり、景気全体が減速する中で増税することになりかねない。そうすれば、経済への影響はさらに甚大になるだろう。

そうなれば、また長期にわたって消費増税ができなくなる可能性が大きくなってくるわけだ。

中国28年ぶりの低成長でも高級時計需要は底堅い

隔月刊の時計専門雑誌「クロノス日本版」に連載しているコラムです。時計の動向などから景気を読むユニークな記事です。3月号(2月1日発売)に書いた原稿です。WEB版ページ→

https://www.webchronos.net/features/28631/

 2018年も世界の高級時計需要は比較的好調に推移した。スイスの全世界向け時計輸出額は、2017年に続いて2年連続で増加した模様だ。スイス時計協会の統計によると、2018年1月から11月までの累計輸出額は195億3940万スイスフラン(約2兆1460億円)で、前年の同期間を7.1%上回っており、年間では200億スイスフランの大台に3年ぶりに乗せる見通しだ。本誌が読者のお手元に届くころには同協会が昨年の統計結果を発表しているはずである。

 2017年の年間輸出額は199億2380万スイスフランで、2016年比2.7%の増加だったから、2018年はこの伸び率を上回ったと見られる。13.1%増という高い伸びを示した2012年以来の「上出来」の年だったということになるだろう。

 スイスの時計輸出は2014年の222億スイスフランがピークで、その後、2年続けて大きく減少、2016年には194億スイスフランにまで落ち込んだ。それを底に2017年は上昇に転じたのである。

 2018年が好調だったのは、スイス時計の最大の輸出先である「香港」が大きく伸びたこと。1月から11月までの累計で21.0%増となっている。2017年の年間の伸び率は6.0%だったので、それを大きく上回るのは確実だ。

 また、輸出先3位の「中国(本土)」向けも2018年11月までで14.2%の伸びになっている。2017年の年間伸び率は18.8%だったので、それに比べれば鈍化は避けられないが、依然として2桁の伸びである。「中国GDP、28年ぶり低い伸び」──。2019年1月21日、中国当局の発表を受けて、メディアは一斉にこう伝えた。2018年1年間の中国のGDP伸び率は6.6%で、天安門事件の翌年、1990年以来の低い伸びだとしている。

 確かに「鈍化」には違いないが、今や中国は米国に次ぐ世界2位の経済大国。日本を追い抜いて久しい。その大経済が6.6%も成長するのだから凄まじい。しかも、生産拠点としての「輸出立国」から、国内消費による成長を目指す「消費大国」へとシフトしている。そんな消費力が、スイス時計の輸出増に結びついていると見るべきだろう。

 生産から消費へという経済構造の中で、中国での高級時計の潜在需要はまだまだ大きいと考えるべきだろう。もちろん、中国経済の影響を大きく受ける香港での時計需要もそう簡単には落ちないと見ていいのではないか。

 もうひとつの消費大国である米国向けはスイスの時計輸出先としては世界2位の市場だが、こちらも好調だ。米国向け輸出は2015年をピークに2年連続で減少していたが、2018年はプラスになることが確実になった。11月までの累計では伸び率は8.1%に達する。完全に米国消費も底入れしている、と見ていい。

 また、日本も消費低迷が言われながらも、11月までは10.1%増と好調を維持している。スイス時計の輸出先としては、2017年は5位だったが、2018年は英国向けの失速によって4位に浮上することがほぼ確定的だ。

 では、2019年の高級時計市場はどうなるのだろうか。米中貿易戦争や英国の欧州連合EU)からの離脱問題など、不透明要素が多い。それでも、香港向けや中国大陸向け、米国向けなどは引き続き底堅いのではないか。伸び率が鈍化したとしても、世界の高級品消費では中国の存在感が引き続き大きいと思われる。年間を通して見れば、やはり中国の成長に依存する格好になるに違いない。

 日本は10月に消費税の増税が予定されている。増税を見越して百貨店などでは前倒しでセールを行うなど、駆け込み需要に拍車がかかると見られている。年間の統計を考慮した場合、増税の影響を受けるのは約3カ月分だけなので、むしろ駆け込み需要分は上乗せされる可能性がある。

 一方、失速が明らかに懸念されるのは英国だ。EU離脱の条件交渉がまとまらず、合意がないままに離脱する「ハード・ブレグジット」になれば、物流などに大きな支障が出て、英国経済は大打撃を受けると思われる。金融を中心に企業の欧州大陸への人員シフトなども起きており、そのマイナスも大きい。イタリアやスペインなど南欧州の経済不安も引き続き懸念される。

 先行きの不透明感は強まるものの、消費は割と底堅い年になるのではないか。

 

クロノス日本版 2019年 03 月号 [雑誌]

クロノス日本版 2019年 03 月号 [雑誌]

 

 

本格的な「移民受け入れ」議論を避ければ、日本がもたない可能性

4月19日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/64210

地方ほど深刻な人手不足

2019年4月1日から出入国管理法が改正され、働く外国人のための新しい在留資格である「特定技能1号」「特定技能2号」がスタートした。

これまで正式に労働者としては在留が認められなかった農業や漁業、宿泊、外食産業などで外国人が働けるようになる。すでに介護や宿泊などの分野で資格を取得するための試験が始まっており、新資格によって日本で働く外国人が入ってくるのも時間の問題だ。

これまで「単純労働」だとして労働ビザを出さなかった宿泊や外食で、一気に解禁につき進んだのは、深刻な人出不足による。ホテルのルームメイドや旅館の客室係の人手不足は著しく、部屋があっても人手が足らないために客を断る例も出ている。インバウンド旅行客の増加というせっかくのチャンスを逃しているのだ。

このままでは人手不足が原因で営業ができなくなるという業界団体などからの悲鳴が上がったことから、地方選出の議員も解禁に向けて動いた。これまで外国人労働者の受け入れに根強く反対をしてきた自民党議員が一気に受け入れ止むなしへと転換したことが大きい。

大学などへの留学生をアルバイトとして使える都市部よりも、人口減少が深刻な地方で、外国人労働者を解禁して欲しいという声が大きかった。

それぐらい、日本の人口減少は急ピッチで進んでいるのだ。

総務省が4月12日に発表した2018年10月1日現在の日本の総人口(推計)は1億2644万3000人と、1年前に比べて26万3000人減り、8年連続の減少となった。

高齢者・女性だけでは埋め合わせできない

しかも、人口減少に加え、高齢者の割合が劇的に増えている。65歳以上の人口は全体の28.1%と過去最高を更新した。4人にひとりどころか、そのうち3人にひとりが65歳以上になりそうな勢いだ。

総務省の人口推計で、「現役世代」の割合が過去最低になったことも明らかになった。15歳から64歳のいわゆる「生産年齢人口」のと割合は59.7%と、データが比較できる1950年以降で最低になったというのだ。

15歳から64歳の人口は7545万人と、前年に比べて51万2000人も減っている。こうした「現役世代」の減少が、猛烈な人手不足につながっているのだ。

外国人労働者の受け入れに反対する人たちの間からは、外国人を入れる前に、もっと高齢者や女性を活用すべきだという声が挙がる。だが、現実には安倍内閣が進めてきた「女性活躍促進」、「一億層活躍社会」の推進によって、すでに高齢者と女性で働く人の割合が大きく増えている。

総務省労働力調査によると、自営業なども含めて働いている人の数である「就労者数」、企業などに雇われている「雇用者数」ともに増加を続けており、いずれも過去最多だ。生産年齢人口は減少しているのに、就労者数が増えているのは、働く65歳以上の人が増えていること、そして働く女性が増えていることが背景にある。

すでに65歳以上で働いている人は850万人に達している。もちろん過去最多水準である。また、15歳から64歳の女性のうち、仕事に就いている人の割合、就業率は70.2%に達しているのだ。それでも人手不足は深刻さを極めているのだ。

しかも、働く高齢者が今後も増え続けるわけではない。いわゆる「団塊の世代」が今年全員70歳になり、いよいよ現役を引退する動きが加速すれば、今までのように働く高齢者が増え続ける保証はないのだ。

要は外国人を真正面から受け入れる議論をしなければ、人口減少に追いつかないのである。

移民への抵抗は徐々に低減

前述の人口推計では、減少数は26万人だが、実は「日本人」に限れば人口は43万人も減っている。人口推計には長期在住する外国人も含まれるので、その外国人が16万5000人増えたため、減少数が小さくなったのだ。それでも外国人の増加で日本人の減少を賄えているわけではない。

有効求人倍率はバブル期どころか、高度経済成長期を上回る高さで、「人手不足」が深刻な状況に達していることを示している。

ロボットや人工知能の活用で人手がかからなくなる、という期待はあるものの、技術革新の前に人手不足で社会が壊れかねない。その「崩壊」を阻止するためにも、外国人の受け入れが必要だ。それも、日本に住んで日本社会を支えてくれる外国人を受け入れなければならない。

支持層を意識するのは分かるが…

人手不足が深刻な地方の農家の経営者はこんな事をいっていた。

「働きに来た当初は外国人かもしれないが、村に住んで子どもが生まれれば、その子を日本人として育てれば良い」

つまり、移民を受け入れようというのである。

このまま人口が減少すれば、村の存続すら危ういと感じ始めている人は地方ほど増えている。村の祭りや共同作業ができなくなった、という声は全国あちらこちらで聞く。

にもかかわらず、安倍晋三首相は「いわゆる移民政策は採らない」といい続けている。安倍首相を支持する右派の人たちを意識しているとみられる。

だが、かつては外国人アレルギーが強かった地方の人ほど深刻な人手不足の中で、外国人受け入れに容認に転換している。右派の人たちの中にも、企業などが無秩序に労働力を受け入れて、外国人がなし崩し的に増えていくより、きちんとしたルールに従って受け入れる方が社会に混乱を与えないと言う人たちも出はじめた。

「特定技能1号」の資格は滞在期限5年で、基本的に更新を想定していない。労働力として受け入れ、5年経ったら帰ってもらうという「出稼ぎ」が前提だ。今後も人口減少が続く中で、「出稼ぎ」でつなぐ事がいつまでできるのだろうか。

また、本国に帰ることが前提の「出稼ぎ」では、日本語や日本の習慣を本気で学ぼうとはしないだろう。また、その地域に根付こうという意識も生まれないにちがいない。きちんと定住して、日本人になってもらうために必要な教育を義務付けていくことが本来は必要なのではないか。

2017年1年間に生まれた子どもは94万4000人と2年連続で100万人を下回った。出生数が反転しなければ、人口減少は止まらない。社会の仕組みを守っていくためにも、そろそろ本格的な移民政策について議論すべきだろう。

このタイミングで新紙幣発表"本当の狙い"

4月19日のプレジデントオンラインにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/28472

有数の「現金大国」である日本

元号「令和」の発表とほぼ同じタイミングで、新紙幣への切り替えが発表された。1万円札に近代日本経済の父、渋沢栄一、5千円札には女子教育に力を注いだ津田梅子、千円札には細菌学者の北里柴三郎が選ばれ、5年後をメドに新しい「日本の顔」として流通が始まる。

一方で、政府は、「キャッシュレス・ビジョン」をまとめるなど、決済の非現金化に旗を振っている。10月に予定される消費税率の引き上げでもキャッシュレス決済を行った場合には5%分をポイント還元する計画が進んでいる。キャッシュレス化を進める一方で、新紙幣を新たに発行するというのは、一見矛盾するようにも感じるが、いったいこれは、どうしたことなのだろうか。

日本は有数の「現金大国」である。2018年末現在の「通貨流通高」、つまり家庭や企業、銀行などに出回っていた紙幣とコインの残高は115兆円にのぼる。名目国内総生産GDP)は548兆円なので、その比率は21%に達する。国際的にもダントツの高さだ。

比較が可能な2015年のデータでは、日本は19%で、5~10%が多い先進主要国と比べて突出している。

なぜ高齢者は「タンス預金」という危険を冒すのか

現金比率が高いのは日本の治安が良いからだとしばしば語られる。強盗や窃盗が少ないから安心して現金を持ち歩いたり、自宅に置いておいたりする、というわけである。

確かにそれも一因かもしれないが、実際は、低金利と銀行不信が主因ではないか。低金利によって銀行に預けても金利がほとんど付かないから、預金するインセンティブがなくなって久しい。

一方、1990年代後半の銀行破綻の記憶を持つ高齢者層がまだまだ多く、銀行に預金を置いておく不安をいまだに何となく感じているのではないか。銀行に預けるリスクに見合ったリターン(金利)がないのだから、「タンス預金」に回すのは合理的な選択ともいえる。

もちろん、安全性を考えれば、現金でのやり取りが危険極まりないのは分かりきっている。高齢者が「オレオレ詐欺」に引っかかり、多額の現金を自宅に来た見も知らない人物に渡してしまうのも、現金でのやり取りが普通だからだ。

一定金額以上は小切手や振り込みで決済するのが当たり前だった欧米諸国では、こうした犯罪は考えにくい。

税務署に資産を把握されたくない人は多い

それでも現金を自宅に置いておくのは、税務当局に資産を把握されるのが嫌だという国民感情が底流にあるのではないか。マイナンバー制度の導入で、税務当局による所得の把握は進みつつあるが、相続で調査対象にでもならない限り、正確な資産把握はされにくい。

かつて、無記名の債券を買って金庫に入れていた大物政治家が摘発されたことがあるが、究極の無記名金融商品はキャッシュだとも言える。統計上、個人金融資産は1800兆円だと言われるが、それ以外にも退蔵されている紙幣はかなりの金額にのぼるはずだ。だからこそ、通貨流通高が極めて大きいとも言えるのである。

キャッシュレス化に旗を振る政府に対しても、懐疑的に見ている「資産家」が少なくない。財務省は当初、軽減税率分をマイナンバーと紐付けて返金する案を考えた。そうなれば、すべての消費を税務当局が捕捉することになるというのは誰の目にも明らかだった。

マイナンバーの導入以降、金融資産の捕捉は着実に進んでいる。例えば、銀行口座や証券口座の保有者はすべてマイナンバーの提出を求められるようになった。また、ひと昔前は本人が申告しなければ分からなかった金塊の売買も、200万円以上の取引は店側が税務署に記録を提出することになった。実際には200万円未満の売買でも本人確認などがされている。金融機関をいったん通せば、税務当局に資産を捕捉される可能性が高くなっているわけだ。

新紙幣に切り替えれば「地下経済」を捕捉できる

また、海外に資産を「逃避」させておくことも極めて難しくなった。日本国内から海外に株式などの資産を移す場合にも課税される仕組みが出来上がった。また、海外資産も日本の税務当局に届け出ることが義務付けられている。生活拠点をシンガポールやスイスなど相続税のない国に移す資産家もいたが、今ではそうした租税回避とみられる行動も簡単ではなくなった。

そこで、紙幣の切り替えである。新紙幣が発行されたからといって、旧紙幣が使えなくなるわけではない。しかし、切り替えから時間がたてば、自分で使うにせよ、人にあげるにせよ、使い勝手が悪い。今、伊藤博文の千円札や聖徳太子の1万円札を店で出したら、受け取りを拒否する人もいるかもしれない。

そうなると、退蔵されてきた旧紙幣は、金融機関に持ち込まれて、新紙幣に交換される。当然、身元は記録されるし、いったん銀行口座を通れば、その人の資産として改めて捕捉される可能性も出てくる。

政府は概ね20年ごとに紙幣を切り替えるのは、偽造防止の狙いがあると説明している。だが同時に、アングラ経済で流通する紙幣を表に出させ、マネーロンダリングなどを防ぐ狙いもある、という。つまり、新紙幣への切り替えと、キャッシュレス化は矛盾するどころか、国民資産の捕捉という国の狙いに合致していると見るべきなのだ。

消費税が20%近くまで上がると言える理由

では、デジタル化が進めば、国は国民の金融取引をすべて捕捉し、徴税を確実に行う体制が敷けるのだろうか。多かれ少なかれ申告によって金額が変わる所得税法人税に比べ、商取引の全体が把握できれば消費税を完全に徴税することができる、と国が考えているのは間違いない。だからこそ、デジタル化に旗を振っているのだ。

経済産業省が旗振り役を務めることで、金融分野での新事業振興などを狙っているように見えるが、決して、新産業育成だけが狙いではない。むしろ、取引が把握できるようになって消費税が確実に取れることを、霞が関は狙っている。

消費税率は10月に8%から10%に引き上げられるが、それで「打ち止め」ではないのは明らかだ。だからこそ根強い反対論があるにもかかわらず、軽減税率を導入するのだ。今は、10%と8%という小さな差だが、欧米のように消費税率が20%近くになった時、食料品など生活必需品を同率にまで引き上げることは現実的に難しい。欧州だったら、それこそ革命が起きてしまう。

「売買」をしなければ、消費税は取られない

毎年2月に財務省は「国民負担率」という数字を発表しているが、その際は必ず、諸外国との比較データを同時に示している。

実績が出ている2017年度の国民負担率は42.9%と過去最高を更新したが、国際比較では、ルクセンブルグの87.6%をトップに、フランス67.2%、ドイツ53.4%、イギリス46.9%といったグラフを並べ、OECD加盟国34カ国中27位であるとしている。つまり、まだまだ日本の国民負担は低いと強調しているわけだ。

消費税率が10%になれば、またぞろ税率引き上げの声が出てくるのは間違いない。ただし、そうなれば消費税を回避しようという動きも出てくる。それを阻止するためにも把握がしやすい電子データが残るキャッシュレス化を進めようというわけだ。

果たして政府の思惑通りにキャッシュレス化で消費把握が進むのか。日本人はその点、賢いので、政府の思惑の上をゆくに違いない。消費税を取られない最良の方法は「消費」しないことである。消費税は金銭を媒介にして「売買」されることで課税対象になる。つまり、売買しなければ良いのだ。

消費税率20%なら「物々交換」の課税逃れが増える

消費税率が20%近くになれば、おそらく、物々交換サイトが全盛になるだろう。価格を付けずに交換すれば、消費税を課税するのは難しい。

漁師が捕った魚と、農家が作ったダイコンを交換するのだ。写真家が商品の撮影1時間を提供し、その店がお礼に商品を渡すというのも「物々交換だ」

もしかすると交換を媒介する「物」が出てくることも十分にある。今全盛のクーポンやポイントがその役割を果たす可能性もあるが、ポイントが現金と紐付けされていると、ややこしいので、例えば「文鎮」などがベンチマークになるわけだ。この文鎮が通貨化するわけだが、実際に文鎮をやり取りする必要はなく、一種の仮想通貨のままで良い。

今でも地方の集落に行けばそうだが、もともと日本は物々交換による非金銭経済が分厚い国だった。コミュニティはそうした助け合いで成り立っていたとも言える。コミュニティの再興が言われる中で、助け合いを仲介する「地域通貨」なども広がっている。キャッシュレス化がそうした動きをむしろ後押しする可能性もある。

政府が進めるキャッシュレス化は、金銭経済をより精緻にし、徴税にプラスに働くのか。それとも、金銭経済を超越したキャッシュなき社会に突き進むきっかけになるのか。それを推し進める政府にとっては双刃の剣かもしれない。