株式市場を10日間も閉める「日本の常識」をいますぐ見直せ

5月2日の現代ビジネスにアップされた拙稿です。オリジナルページ→

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河岸の心意気で豊洲は開くが

天皇陛下のお代替わりの祝日が加わり、ゴールデンウィークが初めての10連休となった。数十年に1度の国を挙げてのお祝いなので、祝日となることは当然とも言える。

だが、東京証券取引所をはじめ、日本国内の金融市場を一斉に閉場としてのは、「世界の常識」からあまりにも乖離している。今年の10連休を機に、日本の会社員や役人の「休み方」も再検討すべきだろう。

カレンダー上は10連休となったものの、現実にはなかなか休めない人も多い。特にサービス業に従事している人たちは、10連休は「稼ぎ時」になるため、店を閉めるどころか、日頃よりも忙しく働いている。

また、自営で飲食や小売店を営む人たちからすれば、10日間も店を閉めれば、月収の3分の1が吹き飛ぶことになりかねず、天皇陛下のご退位日である4月30日と新天皇陛下のご即位日である5月1日だけ閉める、という対応を取っている店も多い。

飲食店、特に寿司店や和食のお店で、30日、1日と連休にしたところが多く見られたが、これには別の理由もあった。魚市場である東京・豊洲市場が30日と1日を連休にしたからだ。

そう、実は、豊洲市場は10連休中も全て休場とはせず、27日(土)、29日(月・祝)、2日(木・祝)、3日(金・祝)、6日(月・祝)は平常通り市場を開いたのである。

通常は祝日以外では、日曜日と水曜日が休みなので、今年のGWで祝日扱いとして余分に休んだのは30日(火)と4日(土)の2日間だけだったということになる。

「河岸(かし)を閉めたら、国民生活に影響が出る」というのが休み中も市場を開いた理由だとしている。

取引所長期閉場はリスクそのもの

ところが、同じ「市場」にもかかわらず、10連休中すべて閉場としたところがある。日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所など金融市場だ。

魚河岸が国民生活への影響を考えているのと対照的に、株式市場を閉め続けても、国民生活には影響がない、と言っているに等しい。

世界の取引所では、10日間も続けて市場を閉めるというのは「非常識」極まりない事だ。

10日の間に世界的な経済変動や事件が起きれば、当然、市場は大きく反応する。投資家は保有している株式や債券を売買できなければ大きなリスクを背負うので、市場が閉まるという事はそれ自体が大きなリスクなのだ。

リーマン・ショック世界大恐慌、あるいは大地震などに際して、数日売買が止まったことはあっても、10日間にわたって市場を閉めた例はほとんどない。

つまり、もし世界で株価を動かすような大事件が起きたとしても、日本の投資家はゴールデンウィーク明けの5月7日まで、日本の市場で株式を売却することができないわけだ。

また、10日間の海外の相場変動は日本の株価に反映されないので、5月7日に一気に10日間の価格変動分が反映されることになる。

JPXもホームページなどで10連休について、こんな「注意喚起」を行っている。

「投資家をはじめとする市場関係者の皆様につきましては、10連休に関連したニュース等を十分ご確認いただきますよう、お願い申し上げます。当取引所といたしましても、これまでにない長期の連休となることから、10連休前後においては市場の動向を注視するとともに、売買監視を徹底するなど、市場の信頼性確保に向けて努めてまいります」

前述の通り、天皇陛下のお代替わりは数十年に1度の慶事だから、国を挙げての祝日とすることに異論はない。だが、豊洲市場と同様、市場を休みにするかどうかは市場関係者が決めるべきことだろう。

世界とは反対の方向へ

日本は今後も祝日が増えて行く可能性が高く、ゴールデンウィークも来年以降も続く。国が定めた休日は、すべて株式市場も休みにするという発想では、世界の常識からどんどんかけ離れていく。今年の10連休に市場の混乱が起きなかったからといって、来年のゴールデンウィークをのんびり休場にして良いということにはならない。

欧米の取引所は土曜と日曜以外の「休場日」は非常に少ない。経済がグローバル化し、海外の経済変動が国内市場に直接影響を与えるため、むしろ休場日を減らし、世界に合わせていく方向に進んできた。

米国の場合の休場日は、2018年も2019年も9日。年末年始の休みは元日だけ。クリスマスも25日だけだ。ドイツは10日間で、連休になるのは、復活祭の金曜日から月曜日までの4日間というのが最長である。

これに対して、日本の休場日は2019年にはなんと22日と欧米の2倍以上もあるのだ。しかも、10連休のほか、年末年始の12月31日から1月3日までも休みとなるなど、長い連休閉場が少なくない。つまり、日本だけ、閉場リスクがどんどん高まっているのである。

これは、日本の休みが「お上主導」だからだろう。民間の組織であるはずの証券取引所まで、お上が言うのだから休むのが当然と思っているに違いない。

戦後長い間、証券取引所は大蔵省(現財務省)の大物官僚が理事長に天下り、国の機関の一部のような位置付けが続いていた。今や民間の株式会社になって株式も上場されているにもかかわらず、お上意識が抜けないのだろう。実際、今だに財務省金融庁からの天下りが続いているから、国民(投資家)の利益やリスクよりも、お上の都合が優先するのだろう。

株の売買はカブ(野菜)の売買よりも、国民生活にとって位置付けが低いと、本気で考えているのだとすれば、日本の株式市場が世界に伍していく存在に復活することなど夢のまた夢というところだろう。