最終赤字6700億円でも「手元資金は十分」とうそぶく日産 問われる内田社長のリーダーシップ

ITmediaビジネスオンラインに連載中の『滅びる企業 生き残る企業』に6月23日に掲載されました。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2006/23/news020.html

 巨額の赤字に陥った日産自動車は再起できるのか。

 5月28日に発表した2020年3月期決算は、最終損益が6712億円の赤字になった。最終赤字はリーマンショック後の2009年3月期(2337億円の赤字)以来。赤字額としてはカルロス・ゴーン元会長が着任して改革に乗り出した2000年3月期の6843億円に次ぐ規模となった。

 20年前の決算では、日本の製造業としては過去最大の赤字を出す一方で、日産が保有していた持ち合い株式や工場跡地など資産を一気に売り払い、翌年度からV字回復を遂げた。ゴーン・マジックとも呼ばれたが、会計学者などからは「ビッグバスだ」と言った批判も出た。ビッグバスとは文字通り「大きな風呂」の意味で、過去の負の遺産を一気に洗い流すことで、翌期以降の回復を演出する手法で、巨額赤字は実態以上の過度なものだったと指摘された。

 

「販売台数激減」の理由は固有の事情

 では、今回も同様に、巨額の損失は「ビッグバス」なのだろうか。

 決算発表で日産は、販売活動の悪化が2291億円の利益減少要因となったとした。実際に全世界での販売台数は10.6%減と大きく落ち込んだ。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)で1月から3月にかけて世界の自動車需要が大きく落ち込んだが、日産の台数減少は新型コロナが主因ではない。中国での販売台数は1.1%減になっているが、これは19年12月までの数字が連結対象になっており、新型コロナの影響が出た2月3月の数字は入っていない。日本での販売台数も10.3%減になったが、新型コロナの影響が大きくなったのは4月以降。つまり、日産固有の問題として販売台数が激減しているという面が強い。

 

 そうした本業の悪化に加えて、最終赤字の多くは、「減損」によるものだと説明している。事業用資産の減損4634億円と固定資産の減損586億円の合計5220億円が赤字の主因だとした。

 固定資産の帳簿価格を引き下げる「減損」を行えば、翌期以降の減価償却費が軽くなる。もっともこれは事業を継続していた場合の話で、例えば工場閉鎖などに伴う減損ならば、将来は利益が上がらず、V字回復はおぼつかない。

 

 普通の会社ならば、これだけ巨額の損失を出せば、手元資金が枯渇し、倒産しかねない。だが、内田誠社長兼CEO(最高経営責任者)は「現時点では十分な資金が確保できている」と述べ、資金繰りに不安はないことを強調した。もちろん、減損は基本的にキャッシュ・アウトしない、つまり資金が流出しないので手元資金には影響しない。自動車事業の手元資金だけでも期末に1兆4946億円に達し、さらに4月から5月にかけて7126億円の資金を調達したことを示し、「十分」だとしたのだ。さらに金融機関との間で結んでいるコミットメントライン(融資枠)もまだ1兆3000億円が未使用だとした。

 問題は、今後、どれぐらい自動車事業など本業でキャッシュを稼げるかにかかっているが、2020年3月期は営業キャッシュフローが2124億円の赤字(流出)、設備投資などの投資キャッシュフローが4518億円の赤字(流出)で、いわゆるフリーキャッシュフローFCC)は6410億円の赤字(流出)になっている。これが販売悪化でさらに拡大していけば、資金繰りは一気に厳しさを増す。ゴーン改革の時と違い、売却できる土地や有価証券はほとんどない。今回の巨額赤字は、ゴーン改革時の余裕がある「ビッグバス」とはだいぶ様相を異にしているのだ。

「人材が宝」と繰り返すも苦しい内田社長の心中

 内田社長はFCCの黒字化時期について、「2021年度下期」としており、最低でもあと1年半は資金流出が止まらない。新型コロナの蔓延が長期化すれば、さらにFCCの黒字化は遠のく。

 では、どうやって営業キャッシュフローを黒字にしていくのか。

 決算発表と同時に打ち出した「事業構造改革計画」に盛り込まれたのは「スリム化」だった。現状720万台の生産体制を通常シフトで540万台にまで20%削減するという。そのために、インドネシア工場の閉鎖を正式に決めたほか、スペインのバルセロナ工場の閉鎖方針も明らかにした。インドネシア工場の閉鎖後はタイ工場に集約する。また、バルセロナ工場を閉鎖する一方で、EU欧州連合)から離脱した英国のサンダーランド工場については維持する方針を明らかにした。

 

 車種も2023年までに69から55に20%削減、新型車の投入を増やし、商品ライフサイクルを短縮、車齢を4年以下にするという。

 

 もちろん、工場を閉めたからと言って、すぐに固定費が減るわけではない。「固定費を3000億円減らす」としているものの、具体策は出ていない。通常こうした構造改革には人員削減が不可欠だが、内田社長は「リストラではない」として、全世界で13万8993人(2019年3月末)いる人員数の削減計画については口をつぐんだ。欧米企業で事業規模を縮小する公表をしながら、人員計画を明らかにしないケースは極めて異例だ。

 バルセロナ工場では早速、閉鎖反対を訴えて従業員がタイヤに火をつけ煙を上げるなどデモ行動が発生した。バルセロナの閉鎖には今後、政府や組合との交渉が必要で、退職手当など人員整理のための巨額の費用がかかる見通しだ。全体で2割生産量を減らせば、世界で2万人以上の解雇が必要になる可能性もある。

 そうした「厳しい現実」を示せずにいるのだ。

 内田社長は「優秀な人材が日産の宝だ」と繰り返した。その一方でリストラで人員を切るとは言えなかったのだろう。内部がなかなか一枚岩にならない中で、求心力を得ていないという不安があるのかもしれない。

 社長候補とみられながら副COO(最高執行責任者)にとどまったことで日産を辞め、日本電産に転身した関潤氏は4月1日に同社の社長に就任した。それに続いて、6月1日には日産の上級幹部だった3人が、日本電産執行役員に就任したことが明らかになった。縮小均衡を目指した途端、日産の求心力が失われ、ボロボロと人が辞めていっているわけだ。

     

社員の反発を恐れた「内向き思考」

 かつてカルロス・ゴーン改革の時には、「ゲンバ(現場)は強い」と言い続けたが、一方で役員一歩手前の部長など日産的な中間管理職はスタスタと切っていった。今、縮小均衡を目指す中で、内田社長が考える「優秀な人材」とは誰を指すのか、幹部社員の多くが見えていない、ということだろう。

 世界最大の自動車グループを目指したルノー三菱自動車とのアライアンスの行方も不透明だ。決算に先立って、それぞれの企業が強みを持つ地域での役割分担を示したが、そうした「緩い連合」でこの先、生き残っていけるのか。

 一時期は日産の経営権の完全掌握に動いたルノーも、新型コロナウイルスの蔓延に伴う欧州での販売激減などで、業績悪化が深刻だ。三菱自動車も苦しいままだ。そんな「弱者連合」で世界の市場で生き残っていけるのか。

 内田社長はまた、「失敗を認める」「内向き文化を改める」と、これまでの拡大路線に走った日産との決別を口にした。だが、今期の赤字額を6712億円にとどめ、ゴーン改革時の6843億円を超えなかったのは、「史上最悪の赤字」と言われたくなかった「意思」の表れではないのか。リストラが不可欠なのにあたかも人員削減をしないで「規模適正化」ができるような説明に終始したのは、社員たちの反発を恐れた「内向き思考」だったのではないか。

 現場の結束が果たせなければ、良い車は生まれないし、販売も伸びない。国内の日産ファンからも「欲しい車がない」といわれて久しい。縮小均衡を目指しながら、どうやって求心力を高めていくか。果たして、この危機を乗り越えられるか。内田社長のリーダーシップが問われている。      

 

働き方に追いついていない労働基準法 耳を傾ける気配見せない「厚労省」

Sankei Bizに連載している『高論卓説』が6月18日に掲載されました。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://www.sankeibiz.jp/workstyle/news/200618/ecd2006180500002-n1.htm

時間や場所に制約されないのが普通に

 自民党行政改革本部で「ポストコロナ」時代を見据えた労働法制の見直し議論が進んでいる。新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に伴う自粛などで、テレワークが一気に世の中に広がったが、これと同時に、人々の「働き方」も劇的に変化している。いわゆる「時間や空間に制約されない働き方」を求める人々が増えているのだ。

 ところが、現在の労働基準法は100年以上前にできた「工場法」が源流で、決められた時間に決められた場所で働くことが前提になっている。朝9時から夕方6時など「定時」に週40時間の「法定労働時間」働くのが「基準」でそれを超えたら残業代という割増賃金を支払う。夜10時以降は「深夜労働」ということになる。事業所の外で働くのも「例外」という扱いだ。つまり、現在の法体系が、人々が求める働き方に追いついていないのである。

 行革本部長は厚生労働大臣を務めた塩崎恭久衆議院議員。大臣時代に「働き方の未来2035」という懇談会を立ち上げた。金丸恭文・フューチャー会長を座長、柳川範之東京大学教授を事務局長に、働き方の未来像とそのための制度設計が提言された。「時間や空間に制約されない自律的な働き方」という未来像には、当時の連合は強く反発し、経団連など経済団体もいまひとつ乗り気ではなかった。

 それが、4年たった今、読み返すと、世の中の声と遜色なくなりつつある。新型コロナで世の中が一気に変わったことも大きい。

 ならば、法律やルールの見直しを行うべきだろう、というのが行革本部で議論が始まったきっかけだ。座長に指名された鷲尾英一郎衆議院議員民主党に所属していた経験も持ち、連合など労働団体とも太いパイプを持つ。党本部では既に各界から13回に及ぶヒアリングを実施。テレワークが「当たり前」になった現状に合う労働規制や労働者保護のあり方が議論されている。

 副業ならぬ“複業”が増え始め、フリーランスなどとして働く人が急増する中で、時間管理を前提にした労働基準法一本で働く人たちを保護することは難しくなっている。放っておけば、法律上「労働者」とは扱われない「請負事業者」が増え、労働者としての保護対象からどんどん外れていく。そうした自由な働き方をする人たちを守る新しい法律が必要だ。雇用保険などのセーフティーネットも法律上の「労働者」だけが対象だ。

 だが、厚労省はそうした声に耳を傾ける気配を見せない。労働基準法の例外規定などを広げることで、世の中で広がるテレワークに対応できるというのだ。つまり、あくまで「時間と場所」の管理を前提に「労働」を位置づける「前提」を崩そうとはしないのだ。

 もちろん、工場の生産ラインや小売業の店頭、飲食店での労働など、「場所と時間」での管理に適した労働も少なからずある。これらは従来の労働基準法で保護する方が合理的だろう。だが、一方で、IT技術者や創造性が求められる業務では、時間で管理することの不合理さが長年指摘されてきた。そうした仕事の領域が増え、テレワークが普通になる中で、労働基準法一本で「労働者」を守ることは難しくなっている。新たな法体系が不可欠になっている。

 

衝撃、新型コロナショックで世界経済が「大収縮」を迎えていた…! 輸出企業の業績悪化が明らかに

現代ビジネスに6月18日に掲載されました。ぜひご一読ください。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73391

リーマンショック以来

新型コロナウイルスの蔓延による経済活動の停滞で、貿易量が激減している。

財務省が6月17日に発表した5月の貿易統計によると、日本から世界への輸出額は4兆1847億円と前年同月比28.3%も減少、輸入額も5兆181億円と26.2%減った。

新型コロナの感染者や死者が増え続けている米国との貿易が激減したほか、最大の貿易相手国である中国も再びマイナスに転落した。また、関係が悪化している韓国との貿易総額も大幅に減少した。

6月に入って経済活動が徐々に再開されているものの、世界での新型コロナ蔓延はまだ終息に至っていない。こうした中で、大幅に減った貿易量はそう簡単には戻らない見通しで、今後、輸出企業を中心に大幅な業績の悪化などが表面化してくることになりそうだ。

5月の輸出額と輸入額を合計した貿易総額は9兆2029億円と27.2%も減少した。月の貿易額が10兆円を割るのは、リーマンショック後の2009年11月以来だ。

貿易総額の減少は2019年5月から13カ月連続。新型コロナ前から、米中貿易戦争などの影響で、世界経済が鈍化し始めていた。そこに新型コロナが追い打ちをかけた格好になっている。

対前年同月比の減少率は、1月、3.1%のマイナスだったが、その後、影響が深刻化。2月は7.3%減、3月は8.4%減、5月は27.2%減と減少率は月を追うごとに拡大している。

対米激減

6月に入って欧米諸国で経済再開の動きが広がっているが、新型コロナの封じ込めを狙って経済活動を止めた結果、かつてない収縮が起きている。

完全な終息を待っていては経済が死んでしまう、という判断が活動再開に踏み切った実際の理由だろう。それぐらいに経済収縮が激しいことを、貿易の激減が示している。

4月で目立ったのは米国との貿易の急激な縮小だった。

全米に広がった外出禁止令などによって経済活動が停止、日本から米国への輸出額は50.6%減と半減した。また米国から日本への輸入額も27.5%減った。

輸出品目別では自動車の落ち込みが激しく、金額ベースで78.9%減となった。完成車の輸出台数が79.1%減ったほか、部品トン数も72.4%減少した。

米国市場向け完成車や部品の輸出減少が長引けば、自動車メーカーの業績に甚大な影響を与えることになる。そのほか、「一般機械」が40.9%減、「電気機器」が42.2%減と、輸出企業の経営に大打撃を与えている。

対中は4月に回復

ロックダウン(都市封鎖)が続いたEU欧州連合)との貿易の収縮も著しい。

EU向け輸出は33.8%減少。やはり自動車など「輸送用機器」が55.28%減、「一般機械」が39.0%減、「電気機器」が24.5%と大きく落ち込んだ。

今や最大の貿易相手国となった中国向け輸出は1.9%減、輸入は2.0%減と、全体としては小幅な減少に止まった。

中国の場合新型コロナの影響が最も大きかったのが2月で、貿易総額は25.0%も減少したが、3月に入ると6.4%減にまで持ち直した。さらに4月には生産活動が再開されたことで、マスクや消毒用品などの輸入が急増。貿易総額は1年ぶりに増加した。

5月は自動車など輸送用機器の輸出は16.4%減とマイナスが続いたが、半導体を中心に電気機器が8.5%増となるなど、生産活動が本格的に再開してきたことを示している。

一方、中国からの輸入は、マスク用や医療用防護服用などとみられる「織物用糸・繊維製品」が急増するなど一部の商品で増加が見られたものの、日本国内の景気落ち込みもあって総じて低調に推移している。特に魚介類や野菜類など食料品が19.0%減るなど、外食産業への「自粛」の影響が現れている。

韓国は日韓関係悪化の原因となるほど減

4月の日本国内の実質消費支出は11.1%の減少だったが、今後、日本企業の給与の減少や、失業などが広がれば、消費がさらに落ち込む可能性もある。そうなると食料品や生活雑貨など中国からの輸入がさらに落ち込む可能性もある。今後の先行きに暗雲が広がっていると見ることもできそうだ。

もうひとつ5月で注目されたのが韓国との貿易の落ち込み。日本から韓国への輸出が18.0%、韓国から日本への輸入が27.1%も減少した。

輸出と輸入を合わせた貿易総額の減少率は21.8%に達したが、これは日韓関係が悪化した2019年以降、最も大きい減少率となった。韓国は貿易依存度が極端に高い国で、輸出入の減少は韓国経済に大きな打撃を与える。

文在寅大統領がここへきて、WTO世界貿易機関)への提訴を再開するなど、改めて強硬姿勢を示し始めた背景にも、貿易の縮小に伴う経済悪化があるのかもしれない。

日本は貿易依存度が韓国から比べれば大幅に低いものの、自動車や電気など輸出が大きな割合を占める企業への影響は大きい。

こうした輸出企業のほとんどが「合理的な算定が不可能」として2021年3月期の業績見通しを明らかにしていない。株式市場などは個別企業への打撃の大きさを測りかねているが、貿易統計を見る限り、かつて経験したことがない売上高の減少に見舞われており、業績の大幅悪化は避けられない。

4-6月期決算の数字が現れてきてからその激震ぶりを目のあたりにすることになりそうだが、相当の覚悟が必要になりそうだ。

コロナ大恐慌の突破策「岩盤規制」をぶっ壊せ!  コロナ後の新常態 危機を好機に変えるカギ

Wedge Infinityに掲載されました。雑誌Wedge 6月号(5月20日発売)にも掲載されています。ぜひご一読ください。オリジナルページhttps://wedge.ismedia.jp/articles/-/19633

Wedge (ウェッジ) 2020年 6月号 [雑誌]

Wedge (ウェッジ) 2020年 6月号 [雑誌]

 

  ピンチはチャンスに変えられる。新型コロナ禍によってオンライン診療が認可されるなど、危機はそれまであった意味のない規制を浮かび上がらせ、抵抗勢力である霞が関を屈服させることとなった。今こそ、積み残しになっていた「岩盤規制」を壊し、「次の成長」に向けた基盤を作るチャンスにすべきだろう。企業もこの危機を「コロナ後」の成長に向けた基盤を作れるかどうかで、選別される時代に入る。

 国税庁が5月1日、1本の通達を出した。アルコール度数の高い酒を手の消毒用として出荷する場合には酒税を課さないとしたのだ。新型コロナので蔓延で消毒用のアルコールが不足し、ドラッグストアなどの棚から姿を消して久しい。酒造メーカーは度数60度以上の「酒」を作ることが可能で、それならば消毒用に使える。一升瓶に入れて近隣の病院などに納めたいという声が上がったが、「飲むことが可能なアルコール」は酒税法で「酒」と定義され、酒税がかかるという難題が生じた。蒸留酒はアルコール度数に応じて酒税が上がる仕組みのため、高度数のアルコールだと、1升(1.8リットル)あたり1100円から1400円前後もの酒税を納めなければならない。

 そんな杓子定規の規制に批判が集まり国税庁はしぶしぶ非課税を決めたが、今回の措置はあくまで「臨時的な特例」という立場だ。「飲用不可」などとラベルを貼って消毒用として出荷することを求めている。一方で、無免許での製造や販売は酒税法違反に問われると、国税庁は注意を呼びかけるのも忘れない。

 新型コロナへの対応を機に、本当に必要な規制なのかを示す結果となった。消費税が導入されているのに、なぜ「酒」だけに高税率を課すのか。酒税が明治以来、国の税収の柱だったことが理由で、それが脈々と続いているにすぎない。ところが今や酒税収入は税収全体の3%を切っている。地ビールや地酒がブームになっても新規参入には高い壁が設けられ続けてきた。新型コロナ禍は、そんな「岩盤規制」自体を問い直すきっかけになっている。

 「予備費を使ってパソコンを支給したらどうか」。ある省の事務次官厚生労働省の幹部にそんな苦言を呈していた。加藤勝信厚生労働相が「テレワークの推進」を呼びかけている足元で、厚労省の課長補佐が、自宅に持ち帰れる業務用パソコンを支給されていないため、テレワークができないということが話題になった。パンデミック対策を考えてきたはずの厚労省ですら、交通が途絶し役所に通勤できなくなる事態を想定していなかったわけだ。

 首都圏のある自治体でも、緊急事態発令後も全職員が登庁して勤務に当たっていた。4月下旬になってようやく、職員の半数を在宅にすることを決めたが、「実際には自宅でできる業務はごく一部だ」とその自治体の幹部は話す。従来、業務に当たって、個人のパソコンを利用することは禁じられてきたからだ。在宅勤務で役所のホスト・コンピューターに接続できる権限を付与設定したパソコンは、1万人以上の職員に対してわずかに60台だという。情報流出などの防止を優先するあまり、テレワークせざるを得ない事態はこちらも「想定外」だった。

 霞が関や一部の伝統的企業のカルチャーは、「責任が問われかねないリスクはとらない」というもの。必要だと分かっていてもなかなか見直しには着手せず、前例踏襲で済ませてきた。岩盤規制と呼ばれる規制の裏には、それを守る既得権者がいるケースもあるが、規制自体を見直した場合に受ける「批判」や「責任追及」を恐れるという役所文化がある。

 安倍晋三首相は、アベノミクスを掲げる中で「規制改革が一丁目一番地だ」と繰り返してきた。ところが、政府の特区諮問会議が出した資料では、2017年6月を最後に特区法改正はなされず、岩盤規制改革は放置されているとして次のように書かれている。

 「この2年余りの間、新たに決定・制度化された規制改革措置は、すべて法律事項以外であり、かつ僅か一桁(9件)に止まっており、その前の約3年間の82件に比べ、改革は著しく停滞している」

 要は、規制改革はピタリと止まってしまっていたというのだ。

放置されてきた岩盤規制
今こそ必要な改革

 それが新型コロナ対策で、動き出さざるを得なくなっている。4月7日には政府の規制改革推進会議が、受診歴のない患者も含め、初診からオンライン診療を認めることを決めた。また、オンライン服薬指導についても規制を大幅緩和した。これまでは医師会や薬剤師会の反対で、オンライン診療は進んでいなかった。当面新型コロナ対策での「時限措置」ということになっているが、おそらくこれが「ニューノーマル」となり、元に戻すことはできないだろう。

大企業にも迫られる
トリアージ(選別)

 「中堅に資本支援1兆円 地方企業の破綻防ぐ」―─。5月1日付の日本経済新聞は1面トップで、新型コロナ蔓延による営業自粛などで経営危機に陥っている中小企業に官民ファンドを通じて資本注入することを政府が検討していると報じた。1件あたり100億円規模の出資も認めるとし、「地域の雇用と経済を支える中核企業の破綻を防ぐ」としている。

(出所)世界銀行「Doing Business2020」 写真を拡大

 経済がまさに「凍りついた」ことで、観光関連の旅館やホテル、外食産業など地域の産業は崩壊の危機に直面している。4月の新車販売台数が速報で28.6%減となるなど、今後、裾野の広い自動車メーカーの減産が本格化すれば、経済への打撃は計り知れない。企業が倒産して経済システムが壊れてしまえば、新型コロナの蔓延が終息しても、経済が復活することができなくなる。資本注入は不可避の選択と言える。

 経済活動の凍結が長引けば、中小企業のみならず、大企業にも資本注入が必要になり、「実質国有化」されるところも出始める。米国のドナルド・トランプ大統領は早い段階から航空会社への支援を想定して経済対策を打ち出している。

 だが、すべての企業を国が資本注入して救うことは現実には難しい。そうなると企業を選別することが必要になる。新型コロナ後の経済社会で絶対に必要な企業を残すために「トリアージ」しなければならなくなる。

 テレワークの進展に伴う業務のオンライン化やデジタル化で、社会は間違いなく大きく変わる。新型コロナが終息しても「元の世界」には完全には戻らないだろう。そうなると求められる産業や企業も大きく変わる。ここで構造転換を進められるかどうかが、コロナ後の成長を可能にするかどうかの分かれ道になるだろう。

大恐慌の教訓
危機を変化のきっかけに

 実は、現代では当たり前と思われている制度や仕組み、生活習慣などが、1929年に始まった世界大恐慌をきっかけに出来上がったものがいくつもある。未曾有の危機を乗り越えようと、様々な改革が検討され、実行された結果だ。例えば「週40時間労働」が基準になったのも、大恐慌後の改革から始まった。最低賃金や16歳未満の児童労働の禁止なども、今流で言うワークシェアリングを実行するために導入が求められた。

 1930年代にはオフィスの光景も大きく変わったと言われる。「個人秘書にかわって速記者のグループが最新の口述録音機を使って仕事をする光景が見られた」(秋元栄一著『世界大恐慌講談社学術文庫)という。つまり、1920年代に一気に花開いた技術革新とそれに伴う働き方の変化は、大恐慌以降、元に戻るどころか、むしろ加速したわけだ。

 5月4日、政府は緊急事態宣言の延長とともに「新しい生活様式」を打ち出した。テレワークやオンライン会議、時差通勤などが「新しい働き方」とされ、食事もテイクアウトや宅配へのシフト継続を求めている。やはり、新型コロナが終息しても、生活は元には戻らない、ということだろう。

 「新しい働き方」が求められれば、企業の行動も変わる。昨年あたりからDX(デジタル・トランスフォーメーション)が叫ばれるようになった。紙とハンコで進めてきた業務をデジタルに置き換えるだけでなく、すべての業務をデジタルで行うことを前提に見直し、業務全体を効率化するという動きだ。2020年に入ると先進的な企業の間では部門横断的にDXに取り組む責任者である、CDXO(チーフ・DX・オフィサー=最高DX責任者)を任命する例が相次いだ。

 つまり、時代の変化が始まっていたところに、新型コロナ禍による「新しい生活様式」が加わり、変化を加速させつつあるのだ。新型コロナに伴う経済凍結は、このままでは90年前とは比べものにならない経済収縮をもたらし、社会の仕組みを根本から見直すことが突きつけられることになる。

 

「トンネル組織に丸投げは当たり前」そう開き直る安倍政権の非常識  炎上の理由は「政府への信頼のなさ」

プレジデントオンラインに連載している『イソヤマの眼』に6月12日に掲載された拙稿です。是非お読みください。オリジナルページ→

https://president.jp/articles/-/36192

769億円で事務を受託した「協議会」の中身

「持続化給付金」の事務委託を巡って国民の不信感が高まっている。

持続化給付金は新型コロナウイルスの蔓延で業績が大幅に悪化した中小零細企業や個人事業者に対して最大200万円を給付するもの。5月1日から受付が始まったものの、申請から1カ月以上過ぎても1万件超が未払いになっているなど、支給の遅れが問題になっている。

そんな中で、経済産業省から769億円で事務を受託した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」が、749億円で電通に再委託していたことが発覚、中抜きをする「トンネル組織」ではないかという疑惑が浮上した。

取材を受けた同協議会の笠原英一代表理事(その後、6月8日に辞任)はメディアの取材に対して、「この案件の執行権限がなく、細かいことは分からない。元電通社員の理事に委任している」と語っていた。代表理事に執行権限がないというのも不思議な話だが、「自分は看板にすぎない」と言っているに等しい。報酬も一切受け取っていなかったという。

つまり協議会は電通が作った事業の「受け皿組織」ということなのだろう。そうだとすると野党などが追及する「トンネル組織」だということになってしまう。

事務所を公開したものの、後日不在になっていた

批判を受けた協議会側は6月8日に記者会見を開いて組織として実態があると強調。翌日には本部事務所を報道陣に公開した。数日前に野党議員が本部を訪れた際には誰もおらず、インターホンも外されていたというが、当日は5人が出社していた。不在だったのは新型コロナに伴って自宅勤務をしていたからだと説明している。

事務所には8台の電話と、十数台のノートパソコンが置かれていたが、事務所はガランとしており、膨大な作業を行っている雰囲気ではなかったという。もともと職員は9人だというが、在宅勤務にもかかわらず、置かれたパソコンの台数が多いのが目についたと記者は話していた。広報担当の武藤靖人理事は「都内に複数の拠点があり、150人体制で支払い業務などを行っている」と説明していた。

野党は、協議会が手にした差額の20億円について実態がない「中抜き」ではないかと指摘しているが、政府は給付金の振込手数料など適正な支出だとしている。ちなみに後日、野党議員が事務所を訪ねたところ、やはり誰もいなかった、としている。

電通が外部に委託するのは「当たり前」のやり方

なぜ、電通ではなく、協議会が受託者となったのか。会見でも明確な答えはなかった。電通出身の業務執行理事である平川健司氏は「協議会はサービス産業の業務プロセス改善の指導、活動、後援を続けてきた実態がある」とし、設立の趣旨に合致する中小企業や個人事業主支援を行うべきだと考えて「幹事社として前に出た」と答えた。

また、同席した電通の榑谷典洋副社長は、「これまでの同種の事業の経験の中でグループ会社を集めることが一番良い形でサービスを提供できると判断しました」と述べ、電通が再受託したものを電通グループの子会社などに再委託した理由を説明した。再受託した「電通ライブ」や「電通テック」といった電通子会社は、さらにパソナ大日本印刷トランスコスモスといった会社に業務を外注している。

電通が受注したものを子会社や外部に委託するのは電通にとっては「当たり前」のやり方だ。通常の民間企業からの仕事でも、電通自身が手足を動かして作業することは希で、実働は子会社や外部委託先が行う。電通はコーディネート料として最低でも15%程度を取るという。

今回、会見で榑谷副社長が、今回の業務は「低い利益率だ」と強調していた。電通の「一般管理費率は10%を超えている」ので、今回、国から受託した事業の管理費10%は低い、というわけだ。

協議会の設立自体が「経産省主導」という疑惑

通常ならば電通が表に出るのが普通だが、協議会を前面に出したのには、理由があったのは間違いない。新人社員の過労死事件などで厚生労働省から処分されるなど社会的イメージが悪い中で、給付金の支払い機関名に名前が出るのを憚った、というのもあっただろう。だが、もっとも疑われているのが経済産業省の「利権」作りだ。

業界団体を作らせそこに補助金助成金を出したり、業務を発注するのは霞が関の伝統的なやり方だ。競争入札で受注させれば、相手は「民間」なので、普通ならば事業について国会などで追及されることはない。事業を実施する手足を持たない霞が関からすれば、業界団体は格好のツールになる。もちろん、その団体や組織に資金が貯まれば、天下りして高給を払わせるわけだ。

今回、協議会の定款の文書のプロパティーの作成者が「情報システム厚生課」になっていたと野党議員が明らかにしている。また、この問題を最初に報じた週刊文春には協議会の設立時の代表理事を務めた赤池学ユニバーサルデザイン総合研究所所長のコメントが掲載されているが、そこでは、「経産省の方から立ち上げの直前に代表理事を受けてもらえないかという話があって、それで受けた」と語っている。

経産省が進めていた「おもてなし規格認証」を運営する団体として作られたもので、つまり、協議会自体の設立が経産省主導だったということが見え隠れしている。

さらに協議会は法律で定められた「決算公告」を出していない。にもかかわらず、設立以来、経産省の事業を受託してきたのは、役所の意向が大きく働いてきたのではないか、と見られている。現在、経産省中小企業庁長官を務める前田泰宏氏が協議会の理事を務める電通関係者と懇意であることも判明している。まさに協議会は“官民連携”の象徴的な存在になっているわけだ。

国民は「またか」と思ったに違いない

平時ならばおそらく、こうした役所と民間企業のつながりも表には出ることがなかったに違いない。また、表に出たとしてもそれほど大きなスキャンダルにはならなかっただろう。農水省の官民ファンドで投資に失敗して回収不能になりながら、関係する役員に多額の退職金を支払っていた問題など、国民から見れば許されない事件だったが、批判の声はさほど大きくならなかった。

ところが今回の問題は、安倍晋三首相が新型コロナ対策として打ち出した目玉政策の一つである「持続化給付金」を巡る問題。経営危機に直面している国民からすれば、そこで「お手盛り」がなされていたとなれば、怒りは収まらない。しかも、巨額の委託費が払われている。もちろん、これは国民の税金だ。

安倍首相が打ち出した「アベノマスク」も表明から2カ月たっても届かないところが少なくないうえ、委託した業者の選定などでも不透明さが指摘されてきた。持続化給付金の問題が出て、ほとんどの国民は「またか」と思ったに違いない。

森友学園問題、加計学園問題、財務省の文書改ざん、桜を見る会、そして黒川弘務・東京高検検事長(5月に辞任)の定年延長問題など、癒着や忖度などが疑われる不透明な政策決定について、国民はホトホト呆れかえっている。「政府への信頼のなさ」が、今回の業務委託問題への怒りを増幅しているとみていい。

情報開示を渋れば、政治不信はますます強まる

役所が民間に業務委託する場合は、競争入札など公平な選定プロセスが義務付けられている。だが、実際には、実施までのスピードが求められたり、特定の事業者しかできない業務というのも存在する。国民に納得してもらうには、徹底した情報開示を行うことが不可欠だろう。今回の持続化給付金の問題でも国会で追及されると「企業秘密」を盾に情報開示を拒むケースが少なくない。

それでも追及されると渋々、情報を出す。出せるものなら初めから出せば疑念は生じないが、政治家も「渋る」ことで国会対策、つまり時間稼ぎに使うことが少なくない。結局そうした対応がさらに不信感を増幅する悪循環になっている。

協議会と電通の会見も「ツッコミどころ満載」という声もあり、今後も不審点の追及が続くことになりそうだ。そうなれば、政府への不信感が高まり、そうでなくても急低下している内閣支持率をさらに引き下げることになりかねない。

コロナリストラが日本を襲う…!失業増で「消費の崩壊」が始まった  4月消費支出11.1%減は序の口

現代ビジネスに連載している『経済ニュースの裏側』に6月11日に掲載された拙稿です。是非ご一読ください。オリジナルページ→

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/73238

すべての費目で大幅減

壊滅的な消費悪化が鮮明になってきた。総務省が6月5日に発表した4月の家計調査で、2人以上の世帯の消費支出が26万7922円と前年同月比で実質11.1%減った。

昨年10月の消費増税以降、マイナスが続いてきたが、2月の0.3%減から、3月には6.0%減、そして4月は11.1%減と、まさにつるべ落とし状態になっている。

費目別では、「被服及び履物」が55.4%減と大幅に減少、教養娯楽費も33.9%減った。新型コロナウイルスの蔓延に伴う緊急事態宣言が出された結果、外出が激減したことで、衣料品が売れなくなり、旅行での宿泊などへの支出も大幅に減った。

食料への支出も7万3919円と6.6%減った。自宅勤務などによる「巣ごもり」の結果、家庭で購入する食品への支出は大幅に増えたが、外食への支出が減った結果、差し引きではマイナスになった。

食品は、肉類19.7%増、乳卵類18.5%増、穀類10.7%増、野菜・海藻10.0%増、魚介類7.0%増といずれも大きく増えた。油脂・調味料の消費額が21.6%も増えたのをみても、家庭で料理する機会が大幅に増えたことを物語っている。酒類も21.0%増えた。

生活スタイルの変化で支出減

一方、外食への支出はメタメタで、前年同月比で65.7%も減り5127円になった。

消費行動が変わった結果、消費関連の業界も大幅な変動が起きた。日本フードサービス協会がまとめた外食チェーンの4月の売上高は、ファーストフードが39.6%減、ファミリーレストランが59.1%減、パブ・居酒屋が91.4%減と、壊滅的な影響を受けた。

マクドナルドの4月の既存店売上高が6.5%増になるなど、テイクアウトに強い一部の業態では伸びたところもあるが、自粛要請に従って店舗営業を休止したところが多く、全体では外食産業が猛烈な影響を受けた。

消費の落ち込みがこれまでに前例のない水準に達しているのは外食産業だけではない。

例えば、4月の国内新車販売台数は、日本自動車販売協会連合会全国軽自動車協会連合会のまとめによると、総販売台数は前年同月比28.6%減の27万393台にとどまった。消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の反動で、24.%減となった昨年10月を上回った。

問題は今後。新車販売は5月の速報も公表されているが、21万8285台と44.9%も減った。東日本大震災直後の2011年4月に47.3%減った例があるものの、未曾有の販売減少となった。

本番はこれから

しかも、消費の減少は一時的なものに止まりそうにない。というのも前述の家計調査では、勤労世帯(2人以上の世帯)の実収入も調査しているが、4月は53万1017円と前年同月に比べて1.0%増加。物価変動を除いた実質でも0.9%になった。

つまり、4月のこの統計では、収入は減っていない中で、生活スタイルが変わったことで11.1%も家計支出が減ったのである。

今後、企業業績の悪化によってボーナスの減額や月給のカットなどが行われる可能性が強まっている。中には企業の倒産や事業縮小によって仕事がなくなり失業する人も出ている。

収入が減れば当然、支出も抑えることになり、消費には大きなマイナスになる。4月時点では、そうした新型コロナ不況による消費減少という「本番」は迎えていないと言っていい。つまり、消費の大幅な減少が日本経済を襲うのはこれからなのだ。

雇用急転

実際、雇用は減少し始めている。

総務省が5月末に発表した4月の労働力調査によると、自営業者などを含めて職に就いている人を示す「就業者」も、企業などに雇われている「雇用者」も88カ月ぶりに前年同月比マイナスに転落した。

就業者・雇用者の増加が始まったのは2013年1月で、第2次安倍晋三内閣が発足した翌月から。安倍首相自身、雇用が増え続けてきたことを、繰り返しアベノミクスの成果だとしてきた。それが遂にマイナスに転じたのである。

4月の雇用者数は5923万人で、3月は6009万人だったから、季節要因があるとしても、86万人が職を失った。4月ということもあって正規社員は増加しており、非正規雇用だけを比べると2150万人から2019万人へと131万人も職を失っている。大半が女性のパートや学生アルバイトだ。

パートの女性が失業して収入を失えば、当然、家計支出は減少する。

コロナリストラに後手後手

すでに業績悪化が鮮明になっている外食産業では店舗の閉鎖や業態転換などの動きが出始めた。ジョイフル(大分市)は直営店の3割近くに当たる約200店を、7月から順次閉店することを明らかにした。新型コロナの蔓延長期化で、簡単には来客数の増加が見込めないことから、採算の悪い店を中心に大量閉店に踏み切る。

ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングスも2021年までに全国の約1割に当たる約70店を閉めることを明らかにしている。また、居酒屋チェーンのワタミも2020年度中に65店舗を閉店する方針を示している。

当然、こうしたリストラによって、多くのパートやバイトが職を失うことになる。

さらに、今後も人の動きが制約を受け続ければ、航空業界や鉄道、バスなどの規模の大きい企業の業績悪化も深刻化してくることになる。そうなれば従業員数を減らさざるを得なくなる可能性が出てくる。

政府は雇用調整助成金制度の拡充や、持続化給付金などの支援策で失業発生を防ごうとしているが、対策が後手後手に回っている。消費の落ち込みが続けば、日本経済への打撃は大きい。

新型コロナ「経済失速」1カ月で「女性100万人失業」という現実

新潮社フォーサイトに6月10日に掲載された拙稿です。オリジナルページ→

https://www.fsight.jp/articles/-/46999

 総務省統計局による4月の「労働力調査」がまとまった。就業者数が前年同月比で80万人減少、雇用者数は36万人減少と、いずれも88カ月ぶりの減少になった。

リーマンショック以上」の危機

 就業者数と雇用者数の増加が始まったのは2013年1月から。第2次安倍晋三内閣が成立した翌月である。景気の底入れと共に働く人の数は増え続け、安倍首相自身もアベノミクスの成果として、この「就業者数」と「雇用者数」の増加を繰り返し持ち出して強調してきた。