民主党の幹部と話しても、アベノミクスに代わる経済政策の具体像をまったく描けていないことが分かります。批判のための批判では、昔の社会党と変わりません。いまの「経済無策」のままでは、政権の受け皿になるのは夢のまた夢に思えるのは私だけでしょうか。現代ビジネスに書いた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/print/46072
批判するしか能がないのか
民主党の支持率低迷が再び鮮明になってきた。NHKの世論調査によると、民主党の政党支持率は8月に10.9%を付けたものの、9月は9.8%、10月は8.6%と2カ月連続で下落した。
自民党への支持率が35%前後で、今年春の37%前後に比べれば低落傾向にあるにもかかわらず、まったく受け皿になっていない。
10月25日に行われた宮城県議会議員選挙(定員59)では、自民党が4議席減の27議席と、過半数を割ったものの、民主党も7議席から5議席へ、2議席減らした。
安全保障関連法の成立や景気回復の遅れで自民党への批判が強まっているものの、民主党はその批判票を受け止めることができていないのだ。宮城県議選では共産党が4議席から8議席へ、議席を倍増させた。
民主党の支持が高まらない大きな要因のひとつは、経済政策が定まらない事だ。
昨年の総選挙以来、安倍晋三内閣が推進する「アベノミクス」を真正面から批判するスタンスを取り続けているが、もっぱらアベノミクスの成果を否定するばかりで、自ら建設的な対案を出すことができていない。そんな「経済無策」に国民の多くがそっぽを向いているのだ。
各種の世論調査を見るまでもなく、国民の関心事は「経済」である。日々のビジネスに直結する足下の景気への対策から、将来の生活を左右する年金・医療・介護などの社会保障政策まで、政治への期待は大きい。
安全保障関連法を成立させた安倍首相が、間髪いれずに「経済最優先」を繰り返し、軸足を経済に再び戻す姿勢を見せたのが、それを端的に表している。経済こそが国民の最大の関心事であることを安倍首相は理解しているのだ。
ところが、民主党はアベノミクスをただただ批判する姿勢を変えていない。
共産党に負けている
安倍首相が、「就任以来、雇用を100万人増やした」と言えば、「増えたのは非正規雇用ばかりで格差は広がっている」といった具合に、相手の足を引っ張ることに専念している。批判のための批判といった感じなのだ。格差拡大を強調し、再分配を強化すべきだという社会主義型の経済政策に大きく傾斜しているとも言える。
そうした分配中心の経済政策は、もともと社民党や共産党の主張と重なる。アベノミクスを当初から徹底的に批判してきたのも両党である。法人減税で経済活動を活発化させることで、経済を成長させ、国民の所得を増やし、最終的には税収も増やそうというアベノミクス的発想には、共産党などは強く反対してきた。
内部留保を溜め込む大企業にもっと課税をして、それを原資に弱者に再配分すべきだ、というのが左派政党の典型的な主張である。
ところが、昨年末の総選挙以降、民主党は明らかにそうした分配型の政策志向を強めている。そうなると、経済政策で見る限り、民主党と共産党に「違い」が見えなくなってしまう。自民批判票が民主党を飛び越えて共産党に向かってしまうのも、そうした民主党の政策の立ち位置と無縁ではないだろう。
もともと民主党議員の中には、自民党以上に経済改革志向の強い人たちがいる。言うならば、アベノミクスよりもさらに先を行く議員だ。
民主党が政権を奪取できたのは、自民党の既得権を温存する政策を打ち壊し、改革を進めることを標榜したから。政権獲得前の民主党政調では、公共事業の削減や公務員制度改革、郵政民営化の促進といった自民党ではできないと思われていた政策を掲げた。
こうした改革的な政策が国民の民主党への支持を呼び起こし、政権奪取へとつながった、とみていいだろう。
ところが政権を取ると、掲げた改革は大きく後退し、自民党に「バラマキ」と批判されることになった再配分強化の政策ばかりが目立つようになった。労働組合を有力な支持母体に持つという党組織の限界とも言えたが、急速に国民の支持を失うことになった。
民主党政権の看板のひとつだった「国家戦略担当大臣」を務めた民主党議員が最近、こんな事を言っていた。
「アベノミクスでやっている政策の多くは、実は民主党政権で私たちが始めたことなんです」
そして離党者だけが増える
確かに、古い自民党を否定した民主党政権が策定した「成長戦略」とアベノミクスの改革は重なる部分が少なくない。安倍内閣発足直後に「古い自民党には戻らない」と宣言したことを考えれば、当然とも言える。
アベノミクスでやっている政策は本来民主党の政策だった、と本音を言ってみたところで、民主党の支持率が上がるわけではない。アベノミクスを否定するなら、それに代わって岡田克也代表の名を取った「オカダノミクス」でも、細野豪志政調会長の名を取った「ホソノミクス」でも打ち出すべきなのだが、まったく出て来ない。
民主党は今年3月、細野政調会長の下に「成長戦略研究会」を立ち上げた。設置を報じた毎日新聞は、「同党の政策は子ども手当や農家への戸別所得補償など所得再分配のイメージが強いことから、成長戦略にも力を入れる姿勢を示すのが狙い」と書いていた。アベノミクスが失速気味にもかかわらず、民主党からアベノミクスを凌駕する経済政策パッケージが打ち出される気配はない。
そんな中で、共産党が民主党に選挙協力を呼びかける事態が起きた。安保関連法案は「戦争法案」だとして、これを廃止に追い込む「国民連合政府」を作るべきだというのだ。
民主党の岡田代表や細野政調会長は選挙協力に否定的な発言をしているが、議員の一部には賛同する動きもあるという。自民党では支持がグラついた時に右旋回して「右バネを利かす」傾向があるが、民主党はついに「左バネを利かす」戦略に出たのだろうか。
だが、そうなれば、経済政策はますます分配論中心になり、成長戦略などまったく描けなくなるのは必然だろう。
民主党内閣で外務大臣を務めた松本剛明衆議院議員が10月26日、民主党を離党する意向を表明した。「私が目指す政権への道と民主党の進む道がもはや重なることはなくなった」のが理由だと報じられている。
民主党はきちんと今後の「進むべき道」を示すべきだろう。それは安全保障政策だけでなく、経済政策でも同じことだ。そのうえで国民の支持を求めるべきだろう。このままでは、ひとりまたひとりと、民主党から心が離れていく人が出てくるに違いない。