日経平均1万4000円乗せも外国人投資家は疑心暗鬼!? アベノミクス最大の懸念材料は「自信満々」の安倍首相自身か

日経平均株価は5月10日に1万4600円を付けました。果たしていつまで株高は続くのか。多くの人が関心を持って見ていると思います。ひとつの大きな分岐点になりそうなのが、「成長戦略」が発表される6月。下手をすると失望売りで株価が急落することにもなりかねません。安倍首相次第といったところなのですが。。。。現代ビジネスの拙稿を編集部のご厚意で以下に再掲します。オリジナルページは→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/35705


 安倍首相が掲げる経済政策、いわゆるアベノミクスへの期待から株式市場が活況を呈している。大型連休明けの5月7日の日経平均株価は486円高と急伸し、終値で1万4,000円台に乗せた。安倍晋三内閣が発足した昨年12月26日の終値は1万107円だったから、わずか4ヵ月で40%上昇したことになる。

 株高の引き金が「大胆な金融緩和」にあったことは間違いない。金融緩和だけではそろそろ息切れかと思われた4月に、黒田東彦日銀総裁による「異次元緩和」が加わり、株価は騰勢を強めた。外国人投資家が買い越したことも原動力になった。市場の関心はこの上昇相場がいつまで続くのか、あるいは、いつ息切れするのかに移っている。

外国人投資家が納得する「サプライズ」を出せるか

 最大の焦点は、産業競争力会議が6月にまとめる「成長戦略」だろう。アベノミクスの「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」に次ぐ3本目の矢である。

「ここでよほどのサプライズが出て来なければ、材料出尽くしで、ひとまず売りだ」と外資系資産運用会社のトップは言う。実際、外国人投資家の間では、まだまだアベノミクスに対して疑心暗鬼が強い。「日本経済を再生させる」という掛け声だけで終わってしまうのではないか、というわけだ。

 現在の相場の状況は2005年の夏に酷似している。2003年に8,000円を割り込んだ日経平均株価小泉純一郎首相の改革路線の効果などで2005年8月には1万2,000円にまで上昇していた。率にして5割。にもかかわらず欧州系を中心に外国人投資家は完全に乗り遅れていた。つまり日本株を十分に買えていなかったのだ。

 それには訳がある。1990年代後半からの金融危機にあって、日本経済の先行きに対する欧米各国の見方は厳しかった。小泉内閣の改革には自民党内にも根強い反発があった。一向に片付かない不良債権問題をみて、外国人投資家は、小泉首相が改革を貫き通せるか疑心暗鬼でいたのだ。

 それが一変したのが郵政選挙と呼ばれた2005年9月の総選挙。郵政民営化を旗印に、党内の守旧派を駆逐し、改革路線を鮮明にした。それまで様子見だった外国人投資家は、この選挙で大勝した小泉政権をみて、本格的に日本株の買いに回る。日経平均株価は2006年4月に1万7,500円を付けた。わずか半年で4割上昇したのだ。

 現在、日本株を買い上がるべきか迷っている外国人投資家の姿は、当時とウリふたつだ。果たして安倍首相が彼らを納得させることができるだけの「サプライズ」を引き起こすことができるかどうかに、今後の株価の行方はかかっている。

いまいち方向性の見えない「成長戦略」

 そんな中で、産業競争力会議の周辺からは焦りの声が聞こえてくる。雇用規制の緩和や産業政策の転換など、従来の発想からすれば「大胆な」議論が行われてきたが、守旧派の抵抗が根強く、官僚中心の事務局がまとめてくる内容には今1つパンチがない、というのだ。

 会議の民間人メンバーの中からは、「アベノミクス特区」を突破口に改革を進めてはどうかという意見も出ているが、それでは日本全体の構造改革の方向性を指し示したことにはならない。外国人投資家を納得させるどころか、失望させることにもなりかねないのだ。彼らを納得させるには「日本政府は本気だ」と思わせる必要がある。今のままでは到底そんな"過激"な改革案は出てきそうにないという。

産業競争力会議では「産業新陳代謝」などが議論され、解雇規制の緩和などが課題として掲げられた。大企業を中心とする旧来型の産業が過剰な雇用を抱え込んでいる現状を打ち破り、ベンチャー企業などの新産業に人材を回していくことが重要だ、という発想だ。従来は大企業に余剰人員をも解雇させないような法律制度や助成制度が取られてきたが、今後は労働移動を促し、サポートする制度に変えていくという。

 もっとも、こうした雇用政策の大胆な見直しには厚生労働省も抵抗している。組合はもとより、経団連などの大企業からも異論が噴出。大企業が解雇しやすくなるのは問題だとして、野党やマスメディアも反対に回った。なかなか世の中の「常識」をひっくり返すのは簡単ではない、ということだろう。

産業競争力会議と共に構造改革に斬り込むはずだった規制改革会議から出て来る改革案も弱い。当初は諸外国に比べて厳しすぎる規制を撤廃する方法として「国際先端テスト」が活用されるはずだった。海外にはない規制や、あっても日本だけが厳しいような場合、その規制を国際水準並みに見直し、日本を世界で最もビジネスがしやすい環境に変えるというのがうたい文句だった。

 ところが、4月の上旬に同会議が公表した14項目は、改革派経営者から失笑が漏れる代物だった。「圧縮水素自動車燃料装置用容器に係る保安規制の見直し」といった重箱の隅をつつくような規制が並んでいたのだ。

 さすがに規制改革会議のメンバーからも異論が噴出。「医療のIT化の推進」「労働者派遣制度の合理化」といった項目が加えられたが、具体的にどういった規制を国際比較するのか、まったく方向性の見えないものとなった。

それでも自信満々の安倍首相

 こうなると安倍首相のリーダーシップに期待するほかない。安倍首相は「規制改革は安倍内閣の一丁目一番地。成長戦略の一丁目一番地でもあります」と述べていた。大胆な規制改革を行うという具体的な指示を安倍首相が出し続けない限り、霞が関の官僚機構は動かない。

「最近、安倍首相は自信を持ちすぎているのではないか」

 官邸周辺からはそんな声が聞こえてくる。株価の大幅な上昇でアベノミクスがすでに成功したような「錯覚」に陥っているのではないか、というのだ。国会での答弁や様々な会議での発言も自信に満ち溢れている。当初、心配された「体調不良」はこのところ、まったく話題にのぼらない。

 ところが、それと同時に、慎重な発言も減った。政権発足当初は「古い自民党には戻らない」「国民が自民党を完全に支持しているわけではない」と自ら戒めるように発言していたが、それも最近ではすっかり影をひそめている。

 その代わりに台頭してきたのが、安倍首相の「信念」とも言われる「憲法改正」などの動きだ。5月5日のプロ野球で始球式に臨んだ安倍首相は「96」の背番号を付けて登場した。96代の内閣総理大臣だからということだが、まさに改正が焦点になっている憲法96条と同じ数字。わざわざ物議を醸す背番号を身に着けたところに、安倍首相の「自信」が表れていた。

 また、安倍首相は教育改革にも取り組んでいるが、閣僚の中には道徳教育の教科化などを主張している人もいる。また、閣僚や自民党議員が大挙して靖国神社に参拝したことも、安倍内閣の「右傾化」と捉えられている。

 かつて自民党は選挙で苦しくなると「右寄り」の政策を打ち出すことが多かった。自民党の中核的な支持層である保守派に訴えかける戦術だ。いわゆる「右バネ」と呼ばれる効果を狙ったものだ。

 7月の参議院選挙に向けて、このタイミングで安倍内閣が「右バネ」をきかす必然性は乏しい。アベノミクスへの期待から内閣支持率も上昇傾向にあるためだ。このままなら参議院議員選挙自民党は圧勝すると見られている。

「安倍首相は経済よりも愛国政策に優先順位があるのではないか」と外国人投資家は言う。7月の選挙で勝った後、安倍首相はどんな政策に力点を置くのだろうか。

 既得権を守ろうとする守旧派との対決に踏み切り、日本経済の構造改革に本腰を入れるのか。それとも自らの「信念」を貫くことを優先するのか。自信満々の安倍首相自身がアベノミクスの最大の懸念材料かもしれない。