特区で問われるアベノミクスの本気度

産経新聞社が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」の9月16日付け1面コラムに掲載された記事を以下に再掲します。ご笑覧ください。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130916/mca1309160502003-n1.htm

 アベノミクスの成長戦略の切り札とされる「国家戦略特区」の選定作業が始まった。8月12日から9月11日まで、民間企業や地方自治体などから具体的な特区提案を募集。首相官邸に設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」(座長、八田達夫大阪大学招聘(しょうへい)教授)が提案内容についてのヒアリングなどを行っている。提案されたもののうち、ヒアリング対象になった案件は、順次公表されている。11日までにヒアリングを終えたものは17件。内容をみると、「農業」や「都市再生」「医療」「教育」といった分野での特区提案が多い。

 愛知県など東海4県3市は「アグリ・フロンティア創出特区」を提案した。1次産業の農業に2次産業の加工や3次産業のサービス業などを組み合わせる「6次産業化」(1+2+3)の促進が狙い。農家レストランなどへの農地転用の規制緩和や税制優遇などを求めている。愛知県は、県が保有する有料道路の運営を民間に委託する「コンセッション方式」を実行するための特区提案も行っている。

 安倍晋三内閣が6月に閣議決定した「成長戦略」の中で「立地競争力のさらなる強化」を掲げ、その“武器”として国家戦略特区が位置づけられた。具体的な検討事例として「容積率・用途等土地利用規制の見直し」が示されていたこともあり、大手デベロッパーによる提案も目立った。

 三井不動産が「日本橋八重洲『日本発信』特区」を提案。森ビルも「東京グローバル新都市プロジェクト」を打ち出している。さらに、医療法人などが医療関連の特区提案をしているが、これも成長戦略の中に、外国人医師による外国人向け医療の解禁が例示されたことが引き金になっているようだ。

 政府はこれまでもさまざまな特区制度を作ってきた。小泉純一郎内閣で2003年4月から始まった「構造改革特区」や、民主党政権が「新成長戦略」の一環として導入した「総合特区」がある。後者では「国際戦略総合特区」「地域活性化総合特区」といった名称でさまざまな地域が認定されてきた。

 こうした特区は、全国一律の規制を特定の地域に限って緩和しようというものだった。民間の提案があっても役所側が門前払いするケースも目立った。今回は首相主導で、大胆な規制見直しを行うとしており、「これまでとはまったく次元が違う」(産業競争力会議の民間議員)という。

 安倍首相自身、ロンドンで行った経済演説で、国家戦略特区の意義を強調。大胆な規制緩和を実施するので、日本にもっと直接投資をしてほしいと呼びかけた。

 それだけに、どんな特区が具体化してくるのか注目度は高い。いわゆる「岩盤規制」を国家戦略特区を武器に打ち破ることができるのか。アベノミクスの本気度が問われる。(ジャーナリスト 磯山友幸