原発停止で待ったなし! 高止まりするLNG価格引き下げのカギを握る経産省の思惑

エネルギー関連の記事が9月18日にアップされました。ご笑覧ください。
オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37012


 福井県にある関西電力大飯原子力発電所の4号機が9月16日未明、定期検査のため稼働を停止した。1年2ヵ月前に野田佳彦内閣が再稼働に踏み切って以降、大飯原発だけが運転していたが、3号機が9月2日に定期検査で停止。4号機も止まったことで、国内で稼働している原子炉は再びゼロになった。

 経済産業省は8月末に、原発の再稼働が遅れれば家庭の電気料金が今より25%上がるという試算を公表。原発再稼働に向けたムードづくりに躍起だが、原子力規制委員会の安全審査にも時間がかかっており、年内の再稼働は難しい情勢だ。

 そうなると、電力会社は火力発電で電力需要を賄うことになるが、その際、最大の問題といえるのが、燃料費の増加をいかに抑えるかだ。中でも高止まりしているLNG液化天然ガス)の価格をどう引き下げていくかが1つの焦点になっている。

「高すぎるLNGからの脱却」が課題

 9月10日にある国際会議が東京都内で開かれた。LNGの生産国と消費国、関連する企業などが一堂に会する国際会議で、「LNG産消会議」と呼ばれる。昨年に引き続き2回目で、今回は消費国である韓国やインド、欧州諸国など、生産国であるカタールやオーストラリアなどが参加。約50の国・地域の政府や民間企業から1000人以上が集まった。

 日本がこの会議を主催したきっかけは、ズバリ、LNGの調達価格の引き下げ。米国でのシェールガス革命の進展などによって、国際的な天然ガス価格は大きく下落しているが、アジアに需要が集中しているLNGは価格が高止まりしている。原発停止後のLNG輸入費の急増が貿易収支の大幅な赤字要因になっていることもあり、日本政府が消費国と連携することで、産出国に価格引き下げの圧力をかけていく戦略だ。

 ちなみにLNGは日本が世界最大の輸入国で、世界全体の消費量の4割を日本で使っている。一方で、天然ガスを冷却して液化する特殊な工程が必要なため、産出側と消費側の長期契約が多く、しかも価格が原油価格連動となっていることから、価格が高止まりしている。

 会議で挨拶した茂木敏充経産相は、日本のLNGの輸入価格が100万BTU(英国熱量単位)当たり16.3ドルと米国の3.8ドルに比べて4倍強の価格差がある点を指摘。「液化や輸送のコストを加味しても突出して高い状況が続いている」と述べ、「高すぎるLNGからの脱却」が課題であることを強調していた。

 そのうえで、国内外の複数の企業でLNGを大量購入することで、輸入価格の引き下げを狙う「共同調達」に関する共同研究会を設置、検討を開始する方針を表明した。

LNG先物市場の創設に向けた議論

 実は昨年の会議では別の対策が打ち出されていた。LNG先物市場の創設である。

 原油天然ガスなど多くのコモディティ商品は取引所で先物の売買が行われている。実需に加えて、投資の資金が流れ込むことで、価格がこなれ、市場実勢を反映した価格になるのが取引所取引のメリットだ。

 ところがLNGは産出側と消費側が直接交渉で価格を決める「相対取引」が主体のため、価格に市場原理が働いていない。民主党政権のそんな問題意識から生まれた政策だった。

 経産省は「産消会議」後の昨年11月にさっそく、「LNG先物市場協議会」を設置。先物取引について議論を開始、5回の審議を経て今年4月に報告書をまとめた。

 報告書では、「LNG先物市場の創設に、いくつかの難しい課題があることは理解するものの、積極的に取り組んでいくべきである」とし、現金決済型の市場を先に作ること、そのためのスポット価格の情報収集の仕組みを作ることなどを求めた。市場の創設時期については2014年度中とした。また、現物の受渡しも可能な市場についても「検討していくべきだ」とした。

 ところが、その後の動きをみていると、遅々として進んでいないように見える。この間、政権が交代したためか、経産省の意向が反映されたためか、「市場での価格決定」に難色を示しているようにすら感じられる。

料金認可体制と市場原理

 どうも背後には経産省にとって不都合な2つの問題があるようだ。

 1つは、商品取引所の統合問題。現在政府は、証券取引が中心の取引所にコモディティも扱うことができるようにする「総合取引所」化を推進している。すでに東京証券取引所大阪証券取引所が統合、今年1月に日本取引所グループ(JPX)が発足している。

 社名から「証券」が消えているのがミソで、傘下のデリバティブ市場でコモディティも扱える体制づくりを狙っている。LNG取引も現金決済となれば金融取引で、JPXで上場することに何ら支障はなくなる。

 ところが経産省には「東京商品取引所(旧東京工業品取引所)」という許認可先があり、これまでも幹部が天下りしてきた。LNG先物をJPXに取られるわけにはいかない、という組織の論理があるというのだ。

 もう1つは電力会社に認めている「総括原価主義」の料金体系。調達原価、事業コストに適正利潤を乗せて電力料金を決めていいという仕組みだ。さらに燃料価格が上昇すればその分、自動的に料金を上乗せできる「原料費調整制度」というのもある。

 つまり、電力会社にとっては燃料費を努力して下げても料金が下がるだけで、自分たちにはメリットがない。逆に言えば燃料費が上がっても料金転嫁できるので、懐は痛まない。つまり調達原価を引き下げるインセンティブが働かない仕組みになっているのだ。

 仮にLNG先物市場ができ、市場の原理で価格が決まるようになると、総括原価主義自体が崩壊しかねない。逆に言えば、総括原価主義が残っている限り、先物市場を作っても本格的には機能しないとも言える。経産省にとっては料金認可が権力の源泉だ。料金認可体制と市場原理はなかなか相容れない。

 一方で、原発を即刻再稼働しなければ料金は大幅に上がると急かせながら、一方では先物市場の創設を2014年度中と2年も猶予を作ったのは、そんな「やる気のなさ」を示している。ちなみに報告書を作成した協議会のメンバーにはJPXは入っていない。このあたりにも自分たちの掌の上ですべてを進めたい経産省の思惑がみえる。

 原発再稼働に向けた原子力規制委員会の安全審査には、4つの電力会社が合計6原発12基を申請している。四国電力伊方原発3号機(愛媛県)や九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)、同玄海原発3、4号機(佐賀県)が、早期の再稼働対象とされる。もっとも、審査終了後に、地元の同意を得なければ再稼働は難しく、難航が予想される。LNG価格の引き下げに向けて早急な対応が必要だろう。