「万年野党」が若者を地方に集める「国家戦略特区」を提案! 地方選挙権・被選挙権の年齢引き下げは実現するか

選挙権はなぜ20歳以上なのでしょうか。世界の大半は18歳です。被選挙権はなぜ25歳(参議院30歳)なのでしょう。地方議会の選挙の選挙権・被選挙権年齢は自治体がそれぞれ独自に決めたらよいのではないか。そんな国家戦略特区を「万年野党」が提案しています。
オリジナル→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37020

 以前このコラムでも取り上げた任意団体「万年野党(政策監視会議)」が、選挙権・被選挙権の年齢引き下げを柱とする「国家戦略特区」の創設を政府に提案した。

 現在は、選挙権は20歳以上、被選挙権は25歳以上(参議院議員は30歳以上)となっているが、希望する自治体の選挙に限って年齢を引き下げ、若者の意見を反映しやすい地方自治を目指すことで、若者の流入を加速させ、地方活性化のきっかけにしようというアイデアである。

 国家戦略特区は安倍晋三首相自身が「徹底的な規制撤廃を図り、世界から資本と叡智があつまる場を作る」としているもので、いわば規制改革の突破口。万年野党の提案は内閣府に設置された「国家戦略特区ワーキンググループ」(座長、八田達夫大阪大学招聘教授)のヒアリング対象にも選ばれており、長年議論されながら実現のメドがたたなかった選挙権年齢の引き下げに、風穴があく可能性も出てきた。

選挙権年齢の引き下げは、経済活性化に結び付くのか

 実は、選挙権年齢の引き下げは世界的な流れだ。欧州では1970年代に引き下げの波が広がった。OECD加盟34ヵ国のうち日本と韓国を除く32ヵ国が18歳になっている。韓国も2005年に20歳から19歳に引き下げており、20歳以上としているのは日本だけになっている。

 また、被選挙権についてはOECD加盟34ヵ国中18ヵ国(52.9%)が18歳もしくはそれ以下としている。21歳以下に被選挙権を認めている国は27ヵ国(79.4%)に達する。

 日本でも、憲法を改正する際に必要な国民投票の手続きを定めた国民投票法(2010年5月施行)には「日本国民で年齢満18年以上の者は、国民投票投票権を有する」と定められている。ただ、同法では国政選挙の年齢を18歳に引き下げることや成年年齢を定めた民法の改正など「必要な法制上の措置を講ずる」としていたが、これまで店晒しになってきた。

 自民党は10月に召集する臨時国会で、国民投票の選挙権を18歳に確定する法案を提出する方針だが、同法が求めた国政選挙年齢の引き下げなどは、意見がまとまらず先送りする。

 「地方それぞれに置かれた状況が違うのだから、自治体の選挙権や被選挙権は自治体が決めれば良いのではないか」と万年野党の事務局長で元市川市議会議員の高橋亮平氏は言う。実際、ドイツやオーストリアでは州単位で選挙権・被選挙権年齢を定めており、16歳への引き下げが広がっているという。米国では18歳の大学生町長や高校生市長が誕生した例もあるそうだ。

 アベノミクスの狙いはあくまで経済再生だが、選挙権年齢の引き下げは、経済活性化に結び付くのか。

現行の被選挙権年齢は憲法違反の可能性も

 万年野党の提案にはもう1つの柱がある。大学や大学院に「通信制・政治実習コース」の開設を認め、議員となった学生の議会活動などを「単位」として認定する、というもの。例えば20歳で市議会議員に当選して4年間議会活動を行えば大学または大学院を卒業でき、新卒として企業や官公庁などに就職できるというアイデアだ。

 万年野党が持つ官僚や政治家、シンクタンク研究員といった「政策人」のネットワークを生かし、大学生議員の政策活動を支援・指導していくという。「4年の任期が終われば卒業するのが前提のため、議会がいわゆる職業政治家ばかりになる弊害を打破できる」(高橋氏)とみる。

 若者が活躍できる場ができることで、この特区を採用した自治体に若者が集まると見ているのだ。過疎化が進む地方自治体の悩みは若者が出て行ってしまうこと。若者にすれば、高齢者ばかりで若者の声が街づくりにまったく反映されない、という苛立ちがある。

 このアイデアを実現するためには、最低でも被選挙権が20歳まで引き下げられることが必要になるというわけだ。被選挙権年齢については憲法には規定がなく、公職選挙法などで定められているに過ぎない。「むしろ、25歳や30歳としているのは年齢差別で、20歳以上の成人に普通選挙権を保障している憲法に違反している可能性もある」(大手法律事務所のパートナー弁護士)という指摘もある。

これまでの特区とはまったく違う「国家戦略特区」

 では、実際に、選挙権・被選挙権年齢を引き下げようという自治体はあるのか。

 実はこれまで政府が作ってきた「特区」でも年齢引き下げを掲げた特区提案がいくつも出されてきた。2003年と2005年にはNPO法人が「選挙権年齢引き下げ特区」を提案、2008年と2009年には「地方選挙権・被選挙権年齢を地方で決める特区」提案が出された。

 また、自治体自体からの特区提案もあり、2003年に埼玉県北本市が1回、同年に広島県三次市が5回にわたって提案したが、いずれも総務省などに事実上門前払いされている。

 これまで政府が設けてきた「構造改革特区」や「総合特区」は、自治体や民間の要望に対して、各省庁が規制を緩和するかどうかの方針を示す形で進められ、事実上、役所が嫌う規制緩和はなかなか実現できなかった。

 今回の「国家戦略特区」では民間の委員が選択した特区提案を産業競争力会議で議論、安倍首相が主導して実現する形になっている。「これまでの特区とはまったく違う」(産業競争力会議議員の竹中平蔵慶応義塾大学教授)という。国全体で一度に変えることは難しくとも地方からこれまでの規制を変えていく一歩になる可能性はありそうだ。

 万年野党は、政治や政策決定を"野党"的スタンスで監視していこうという任意団体で、現在、特定非営利活動法人NPO法人)の認証申請中。経済人や学者、ジャーナリスト、政治家・官僚OBなどの参加が内定しており、会長にはジャーナリストの田原総一朗氏の就任が決まっている。