アベノミクス成否に3つの試金石

産経新聞が発行する日刊紙「フジサンケイビジネスアイ」の1面コラムにほぼ1カ月に1度、原稿を書かせていただいています。今週アップされた原稿がサンケイビズにも掲載されています。是非ご覧ください。→http://www.sankeibiz.jp/macro/news/131022/mca1310220502005-n1.htm


 外国人投資家が「アベノミクス」に期待する理由は、安倍晋三首相の政策によって日本企業の収益性が大幅に改善するのではないかという点にある。世界的な水準からみて収益性が低い、つまりもうかっていない日本企業は大化けする可能性があるとみているのだ。

 目に見えて日本企業の収益性さえ改善すれば、この20年間、ざっと500兆円で横ばいだった日本の名目GDP(国内総生産)は一気に増えると見る。5%増でも25兆円だというのだ。

 そんな外国人投資家がアベノミクスの成否を占う「試金石」とみている点は、ほぼ3つに集約できる。まずは、法人税率の引き下げ。企業の競争条件を、競争相手であるアジア諸国並みにする意思が安倍内閣にあるのかどうかを、見極めることができるというのだ。だから、法人税率引き下げの効果があるかないか、という議論はあまり意味がない。企業がもうける環境整備の「象徴」なのである。

 もう一つが「雇用」改革だ。これは企業のコストに直結する。生産性が高い部門や人材は重用する一方で、時代遅れの部門や生産性の足を引っ張る人は退場してもらう。成長戦略を決めた産業競争力会議で「産業新陳代謝」が必要で、それを進めるために、解雇ルールを法律で明確にしてほしいという声が出たのも、こうした流れからだ。企業の収益性を高める構造転換には衰退産業から成長産業への人材シフトが不可欠だというのである。

 3つ目は「社外取締役」だ。なれ合い的な取締役会に緊張感を与え、経営として収益向上を目指させるには「異分子」を入れる必要があるというのは世界の常識。英国では取締役会の3分の1以上を社外取締役が占める企業は95%に達する。日本企業も社外取締役が普通になれば、収益性が上がるという。実際、日本取引所グループの調査では社外取締役が3分の1以上の企業の利益率(ROE)は、それ未満の企業に比べて大幅に高いという。社外取締役は間違いを犯さないためのブレーキ役と思われがちだが、利益を上げる背中を押す役割を果たす。

ではこの3つについて安倍政権は外国人投資家の期待に応えられるのか。

 法人税率の引き下げについて安倍首相は繰り返し意欲を示している。財務省自民党税制調査会には反対論が根強いが、早急に結論を得るとして議論が始まった。

 解雇については安倍首相が規制改革の突破口とする「国家戦略特区」案に一応、盛り込んだ。契約で解雇ルールを決める仕組みを目指したが、厚生労働省などの反対で断念。雇用契約を結ぶ際に相談するセンターを特区内に設置するとしている。

 社外取締役は、民主党政権が「諮問」した会社法改正案がまとまっており、法務省はそれをそのまま国会に提出したい意向だ。経団連などの反対で「社外取締役は義務付けない」ことになっている。民主党案のまま法律になれば、外国人投資家の失望を買うのは明らかで、アベノミクスが大きく揺らぐ。

 うがった見方ながら、民主党が残した時限爆弾といえるかもしれない。(ジャーナリスト 磯山友幸