訪日外国人旅行者の急増は時計に追い風

時計の専門誌「クロノス」に連載している「時計経済観測所」。経済と時計のつながりをみる視点で書いています。
是非、雑誌もご覧になってみてください。
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Chronos (クロノス) 日本版 2013年 11月号 [雑誌]

Chronos (クロノス) 日本版 2013年 11月号 [雑誌]

 日本を訪れる外国人観光客が大幅に増えている。日本政府観光局の推計によると、今年7月の1ヶ月間の訪日外国人旅行者数は100万3100人と、月間として初めて100万人を越えた。円安によって韓国や台湾などからの観光客が急増しているほか、東南アジア諸国からの旅行客に対するビザ(査証)の発行要件が7月から緩和されたことも追い風になったとみられている。
 最大の追い風は何と言っても円安。安倍晋三首相が推し進める経済政策「アベノミクス」の大胆な金融緩和などによって為替が円安に振れた結果、安倍内閣発足時に1ドル80円前後だった為替水準は1ドル100円前後で落ち着いている。2割以上も円安が進んだわけで、外国人にとってみれば自国通貨が強くなり、日本への旅行費用が大幅に安くなった。
 豊かになったアジアでは旅行ブームが起きており、割安になった日本旅行の人気が一気に高まったという。
 1月は対前年同月比マイナスだったが、2月以降の伸びは大きい。2月33.5%増→3月26.7%増→4月18.4%増→5月31.2%増→6月31.9%増と続き、7月は18.4%増だった。1~7月の累計では韓国からが36.8%の156万人と最も多く、次いで台湾が49.3%増の126万人だった。香港も47.2%増の42万人に達している。
 日本政府は7月1日から、タイとマレーシアの訪日観光客のビザを免除する緩和策を導入した。また、フィリピンとベトナムには数次ビザを発給、インドネシアは数次ビザの期間を15日から30日に延長した。その結果もあって、7月のタイからの訪日観光客は84.7%も増加。マレーシアも25.2%増えた。
 政府は成長戦略の柱として「観光立国」を掲げ、2013年の外国人旅行者1000万人を目指している。12年は835万人だったから、20%増という強気の目標だったが、1~7月の累計で595万人に達しており、1000万人達成が視野に入ってきた。
 ビザの緩和で東南アジアから毎年200万人の観光客を呼び込みたいとしているほか、インド、ロシアなどについてもビザ緩和を検討していく方針だという。今後も観光業、とくに外国人相手の観光ビジネスは大きく伸びることが予想される。
 そんな東南アジアからの外国人観光客に人気なのが「買い物ツアー」だ。首都圏の百貨店や近郊のアウトレットなどはブランド品目当ての外国人が押し寄せている。中国語や英語が話せる専門のスタッフを配置する百貨店が増え、郊外のアウトレットもイスラム教徒向けの祈祷室を設置したところもある。いかに外国人観光客にモノを買ってもらうかが焦点になっているのだ。
 アジアからの旅行者が日本で高級ブランド品を買う理由は「信頼」だ。日本では百貨店はもちろん、アウトレットなどでも偽物はなく、間違いなく本物を買えるという安心感がある、という。旅行者はハンドバックやファッション小物、スカーフなどが人気だが、もちろん時計も売れている。
 高級時計の一大消費地である香港やフランス、ドイツなどで売れている時計の多くは観光客が購入しているとされる。旅行者の消費と高級時計は切っても切れない関係にあるのだ。
 とすると、外国人旅行者が急増している日本は、今後、高級時計の一大消費地になるということだろう。東京など大都市のデパートや高級ホテルのブティックばかりではなく、地方の観光地の空港やホテルなどでも今後、高級時計が売れていくことになるのだろう。スイス時計などの日本への輸出額がどんなペースで増えていくか、注目したい。
 もうひとつの注目点は中国からの観光客がどれぐらい戻ってくるかだろう。外国人観光客が増えている中で、尖閣初頭問題以降、中国からの訪日客数が激減している。ピークには月に20万人に達したが、一時は5万人にまで減少。ようやく底入れして増加の兆しも見えはじめた。「時計好き」で知られる中国人旅行者が伸びれば、時計販売の伸び率はさらに大きくなるのは間違いない。
◆クロノス日本版11月号(2013年10月発売)