「税理士vs会計士」自滅の泥仕合

ファクタの2013年12月号(11月20日発売)に掲載された連載コラム「監査役 最後の一線 第32回」の原稿を、編集部のご厚意で以下に再掲いたします。是非お読みください。
http://facta.co.jp/article/201312013.html

税理士と会計士の縄張り争いが泥仕合の様相を見せている。9月28日に日本税理士連合会が税理士法改正を求める意見広告を新聞に出すと、10月25日には日本公認会計士協会がそれに反対する意見広告を出した。他にもあちらこちらでキャンペーン合戦を繰り広げている。

焦点は公認会計士に対して税理士資格を自動付与している現行の制度の廃止。「公認会計士または弁護士に税理士の資格を付与するにあたっては、税法または会計科目に合格する等の一定の能力担保措置を講ずるべき」というのが税理士会の主張だ。それが「より一層納税者の信頼に応え得る制度の構築のために必要不可欠」だとし、「日本の未来のために税理士法改正を!」と大上段に振りかぶっている。

これに対して会計士協会側は、監査・会計と税務は一体不可分だとし、「公認会計士の資格で税務業務ができない国は存在しない」と、税理士会側の主張は「国際標準を逸脱するもの」だとしている。自分たち公認会計士は税務の十分な能力を持っているとし、税務業務から会計士を排除すれば、それこそ「納税者の利益」を損なうと、真っ向から反論している。

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実は税理士会側のこうした要求は今始まったものではない。かねてから繰り返し主張されてきた。だが今回は「土俵際に追い詰められている」と日本公認会計士協会の山田治彦副会長は危機感を募らせる。税理士会側が政治力にモノを言わせて税理士法改正をごり押ししようとしている、というのである。

10月末現在で税理士の登録者数は7万4千人あまり。これに対して会計士は2万5千人に過ぎない。資格を持っているが会計業務は行っていない「準会員」を含めても3万3千人と、税理士の半分以下だ。しかも大企業の監査などの仕事が多い会計士は都市部に集中している半面、税理士は全国におり、中小企業などとのつながりも深い。

地方の選挙区選出の国会議員からすれば、「選挙になれば圧倒的に税理士会の方が頼りになる」と、会計士協会に近いと見られている西日本選出の自民党のベテラン議員ですら語る。会計士と税理士との争いとなれば、税理士に加勢する政治家の方がだんぜん多いというわけだ。

税理士会側は有力議員に働きかけて自民党税制調査会の議論にのせ、一気に法改正に持ち込もうとしている。税調が年内にもまとめる「税制改正大綱」に盛り込まれるかどうか、今がまさに勝負の秋というわけだ。

だが、会計士協会幹部の焦りとは別に、「当の会計士ですら問題意識が薄い」とベテラン会計士は言う。会計士協会は11月25日付で、3万3千人の会員・準会員に意見広告のコピーや理事会の決議資料などを送付。森公高・会長名で、「関係各所への働きかけ」に協力するよう呼びかけた。ツテのある国会議員などに依頼してほしいというわけだ。

そんな会計士協会の動きに呼応して、学界からも声が上がった。11月2日に開いた日本監査研究学会が理事会として「重大懸念」を表明したのである。会計士を税務から排除すれば「日本の公認会計士は税務にかかる知識がないと国際的にも誤解される」ことになり、日本の信用失墜につながる、というのだ。それに加えて、もう一つ「根本問題」を指摘している。

実は税理士法では、税務署に勤務するなど国税実務に23年間携わると試験が免除され、研修を受けるだけで自動的に資格が付与される制度が規定されている。市役所の税務職員など地方税実務でも28年携われば無試験だ。これが「社会的公平性の観点からも重大な問題」だというのである。

実は税理士のうち試験を突破した人は、全体の45%ほどとされる。無試験で資格を得た税理士が半数を占めるのだ。試験は超の付く難関で、2012年では4万8123人の受験者のうち最終合格者は1104人に過ぎなかった。合格率にして2.3%である。

税理士試験は11科目のうち5科目に合格すれば税理士資格を得られるが、一度の試験で全科目を同時にパスする必要はなく、科目ごとにばらばらに合格していけばよい仕組みだ。試験を行う国税庁は20.9%という合格率を発表しているが、これは科目合格者の合計である。11年に5科目を同時にパスした人が出たが、これが何と1993年以来だったとして新聞などでも話題になったほどだ。

そうやって試験を「狭き門」にしているのも、「国家承認のOB天下り制度」と揶揄される自動付与の税理士を守るためだ、というのである。税理士の数が増えてしまえば、税務署職員あがりのOBの仕事が減り、食いっぱぐれてしまう。

税理士試験合格組からすれば、自動付与組は許しがたい存在だが、身内を批判するわけにはいかない。監督官庁である財務省国税庁の利害に直結する話だけに矛先は向けられない。そんな憤懣が同じ無試験組の会計士に向いている面もあるという。職域を荒らすという意味でいけば、実力のある会計士の方が税理士にとっては「脅威」でもある。

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会計士協会側も、この国税職員への自動付与制度は批判しない。「財務省を敵に回して得はない」(会計士協会役員OB)という判断からだ。実は会計士協会も役所に頭が上がらない理由がある。ここ数年、会計士の数が増えすぎたとして、試験合格者を絞ってもらうよう要望し、認められてきた経緯があるからだ。この結果、公認会計士試験も超難関になっている。既存の資格保持者が食いっぱぐれないようにしたい、つまり、パイが大きくならない中で、分け前に預かる会計士の数を減らしたいという本音がある。

既得権者を守るために入り口を狭くした結果、何が起きたか。税理士や会計士をめざす若者が激減しているのだ。税理士試験の受験者は05年の5万6314人から15%、8千人も減った。会計士試験も同様だ。資格予備校でも税理士・会計士を目指すコースは閑古鳥で、公務員試験コースばかりが盛況だという。要は優秀な人材が集まらなくなっているのだ。

表向きの主張とは裏腹に国益などそっちのけで、既得権者の縄張り争いに終始していれば、早晩、業界は滅ぶ。