現代ビジネスに11月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53590
回復の背景
「ようやく底入れした」と、胸をなでおろすのは、日本公認会計士協会の役員も務めたベテラン会計士。ここ数年、会計士の不人気ぶりが目立っていたことに危機感を募らせていた。
11月17日に金融庁が発表した2017年の公認会計士試験合格者は1231人と前年に比べて123人増加した。2016年には1051人まで減っていたが、2年連続の増加となった。
背景には、減り続けていた試験受験者(願書提出者)の数が増えたこと。今年は1万1032人と、どん底だった2015年の1万180人に比べて8%増えた。
2015年は東芝の不正会計問題が発覚した年で、監査を担当していた監査法人や担当会計士が処分されるなど、会計監査のあり方が強く批判された。安倍晋三内閣によるアベノミクス開始以降、就職情勢が急速に好転したこともあり、難しい公認会計士試験に挑戦するのではなく、民間企業に就職する学生が増えたことも、受験者の大幅な減少につながったとされる。
危機感を持った日本公認会計士協会では、「コウニンカイケイシってナンダ!?」と題する職業としての会計士をPRする動画を作成するなど、会計士職業の知名度アップに力を入れた。
「公認会計士って、どんな仕事?お金の計算ばかりしている仕事? 決算書を作る専門家? そんな風に思ってはいませんか?」
動画が公開されるに当たって会計士協会はそんな問いかけをしている。
「公認会計士は健全な資本市場を守る社会的に重要な役割をもち、経営的思考を持って企業のトップと接する、やりがいと可能性にあふれた職業です。その魅力をこの動画で感じ取って、あなたの未来の選択肢にぜひ『公認会計士』を加えてください」と、リクルートを前面に打ち出した。
それぐらい若い人材の確保が難しくなっていることに危機感を募らせていたのだ。
振り回された「人気」職業
学生たちに公認会計士試験が敬遠されていたもう一つの要因は、日本最難関と言われるほど合格率が低かったこと。2011年には最終合格者の願書提出者に占める割合(合格率)は6.5%にまで下がった。
かつては在学中に合格しなくても、浪人して予備校に通い、合格を目指すというのが当たり前の姿だった。ところが最近では試験合格のために浪人することを嫌う風潮が強まり、会計士試験離れに拍車をかけた。
このほど発表された2017年の合格率は11.2%。2011年を底に6年連続で合格率が上昇している。
2000年代に会計士不足が深刻化すると、試験制度の見直しなどで会計士試験に大量に合格させる時代が続いた。2006年には3108人、2007年には4041人、2008年には3625人が合格している。当時の合格率は2007年で19.3%。合格率の上昇と共に受験者も増え、2010年には2万5648人が願書を出した。今年の受験者の2倍以上である。
そこへリーマンショックが直撃。一転して、会計士余りの時代に直面する。1つの監査法人で500人規模の採用をしていたところが、一気に絞り込んだため、試験に合格しても監査法人に就職できない「就職浪人」が誕生したのだ。
会計士は試験に合格しても、監査法人などでの2年間の業務補助と、3年間の実務補習が終わらなければ会計士として活動できない。監査法人に入れないと実務補習が事実上受けられないという問題に直面した。
会計士試験は本来、業務を始める前提の資格試験だが、弁護士試験などとともに、試験に受かれば食べていけるというギルド組織への登竜門になっていた。米国などでは会計士資格を持っていても他の職業に就いているケースは普通だが、日本の場合大半が監査法人などの会計事務所に勤め、一般企業の経理部などに就職するケースはまれだ。
日本経済新聞が今年度の大手監査法人の採用計画を調査しているが、4法人合計で1000人弱となっており、今年1231人が合格しても、ほとんどが大手の監査法人に採用される計算になる。
本当に必要とされる人材か…?
一方で、資本市場の拡大や、企業金融の高度化によって、企業などが求める会計人材へのニーズは高まっている。
会計士試験に合格したら監査法人に入るという発想や仕組み自体を大きく見直すべきタイミングに来ているのだが、なかなか試験制度自体が世の中の変化に対応できていない。
会計士試験への受験者・合格者が2年続けて増加したことで、会計士の不人気には歯止めがかかったと言えるのだろうか。会計知識は求められる一方で、従来の会計監査制度や監査法人のあり方などが大きく問い直される段階に来ている。
仮想通過ビットコインの基盤技術であるブロックチェーンが広がれば、相互にデジタルデータを保有することで、会計帳簿で不正を働くことは難しくなるとされる。そうなれば、会計帳簿が正しいかどうかを証明する会計監査自体が姿を消す可能性も出て来る。会計業務は「消える職業」として、いの一番の名前が挙がる。
そんな新しい時代に求められる会計専門家を今の試験が供給しているのかどうか。改めて検証が必要になるだろう。