日本のエネルギーコストは下がるのか!? LNG市場創設に動き出した経産省の狙いとは

エネルギー関係の原稿を「スマートエネルギー情報局」に書きました。LNG取引所の話です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/37785


LNG価格をどうやって引き下げるか

財務省が12月9日に発表した10月の国際収支(速報)によると、経常収支が1,279億円の赤字となった。赤字に転落したのは9ヵ月ぶり。輸出額から輸入額を引いた貿易収支が大幅な赤字になったことが要因だ。

円安によって輸出は5兆8,332億円と対前年同月比17.9%も増えたが、輸入が6兆9,251億円と28.2%も増加したことが大きい。原子力発電所の停止に伴う代替エネルギーとして原油LNG液化天然ガス)の輸入額が増えたためだ。

10月の貿易統計をみると原油の輸入額は67.8%増加、LNGは39.4%増えた。一方で数量を見ると、原油が36.2%増、LNGは13.1%増だ。つまり数量の増加も大きいが、それ以上に金額の増え方が激しいのである。これはもちろん、為替が円安になったことも響いているが、輸入価格自体が高止まりしている影響も無視できない。

というのも、日本でもっぱら発電用に使われているLNGは世界的にみて非常に高価なものになっている。シェールガスなどの産出が始まった米国では、天然ガス価格が大幅に下落しているが、一方で原油価格に連動する契約が多い日本の輸入LNGは非常に高価で、米国の天然ガス価格の4倍と言われている。

この高いLNG価格をどうやって引き下げるかが、原発が停止した東日本大震災以降の日本の大きな課題になっている。そんな中で経済産業省が進めているのが「LNG先物市場」の創設計画である。

TOCOM復活の切り札に

原油やガソリン、金属などを扱う東京商品取引所(TOCOM)は11月29日、LNGなどを相対で取引する店頭取引(OTC)市場を運営する「JAPAN OTC EXCHANGE(JOE)株式会社」を設立した。シンガポールの石油仲介会社ギンガ・ペトリアムとの合弁で、同社の日本子会社が60%、TOCOMが40%を出資する。当初はガソリン、灯油などの石油製品が中心だが、将来的にはLNGや電力なども取引対象に含めるとしている。

経産省LNG価格を市場実勢に合わせて引き下げることを狙い2014年度中にLNG先物を上場させる方針を示している。経産省の監督下にあるTOCOMに新市場を設置させる方針で、TOCOMはJOEでの店頭取引を第一歩として、LNG先物市場へとつなげていきたい考えだ。まずはLNGの現物を上場し、実需を中心とする取引で市場の厚みを作り、リスクヘッジ目的などに使う先物の上場につなげる戦略だ。

LNG市場の創設には、経産省の別の狙いもある。経営が大きく傾いているTOCOM復活の切り札にしようとしているのだ。

日本の商品取引所は監督官庁の規制が厳しいことなどから、大手商社など主要な投資家が取引を嫌いシカゴなどへ移っている。そのため個人投資家主体の市場になっていたが、問題が多かった投資家勧誘の方法の規制が強化されたことで、さらに売買高が細ってしまい、TOCOM単独では生き残りが難しいという見方が広がっている。TOCOMは、同様にジリ貧に陥っていた農林水産省管轄の旧東京穀物商品取引所も吸収したが、復活の道筋は見えない。

東京と大阪の証券取引所が統合してできた日本取引所グループ(JPX)に商品取引や金融取引などを解禁する「総合取引所」構想も動いているが、金融庁の監督下にある証券取引所に吸収されることに経産省の幹部らが強く抵抗している。

JPXは、自グループのデリバティブ金融派生商品)部門である大阪証券取引所とTOCOMを合併させる案を非公式に打診している。経産省の現場は「このままではTOCOMの先行きは開けない」として合併案に理解を示しているが、茂木敏充・経産大臣も、まずはLNGや電力の取引所を独自に作るべきだ、と主張している。

LNG市場はどんな形で実現していくのか

背後には「商品取引市場での権限と天下りポストを失いたくない経産省幹部の意向がある」(商品先物取引業者)とみられている。TOCOMの江崎格社長は資源エネルギー庁長官などを務めた経産省OBだ。そんな中で、LNGの新市場に生き残りをかけようというのだ。

もっとも、仮にLNGが上場されても、現物市場だけでは売買が少なく、市場に厚みが出ないため、市場実勢を反映した価格が形成されるかどうかは微妙。先物市場ができることで、より幅広い投資家を呼び込むことが、市場の成功には不可欠だからだ。

この点、先物デリバティブで経験が豊富な金融庁は理解しているものの、経産省の抵抗感は強い。実需を伴わない投機が横行して、市場を乱しかねないと懸念しているのだ。

これまで電力会社は原料の調達価格の引き下げ努力が足らなかったと指摘されている。価格よりも安定的に量を確保することを優先したため、割高でも契約してきたというのだ。調達する燃料の費用が割高だとしても、原価に利潤を加えて算出する総括原価方式や、燃料価格の上下を自動的に反映させる原燃料費調整制度によって料金転嫁ができる仕組みになっていたからだ。

それだけに原料価格に市場原理が働くようにするというのは、ある意味、画期的な変化をもたらす。LNG市場はどんな形で実現していくのか---日本のエネルギー価格を大きく左右する問題だけに今後も注目していく必要がある。