日経平均16000円台乗せで、再び火がつく高額品消費。アベノミクスの成否はやはり株価次第

日経平均株価が6年ぶりに1万6000円台に乗せました。株高の効果が最も出ているのが高額品消費です。百貨店での高額品は夏以降、再び売り上げの伸び率が高まっています。また、円安は海外からの観光客の増加にも結び付いており、百貨店の売り上げに貢献しています。日本経済はやはり消費が盛り上がらないと火が点かないというのが実状です。アベノミクスは株価次第ということでしょう。
オリジナル→講談社現代ビジネスhttp://gendai.ismedia.jp/articles/-/37905

日本百貨店協会が12月19日に発表した11月の全国百貨店売上高(店舗数調整後)は、前年同月比2.4%の増加となった。10月は0.6%のマイナスだったが、再び高い伸びを示した。中でも目立ったのは「美術・宝飾・貴金属」部門の伸び。宝石や高級時計、絵画といった高額商品が21.0%増と大幅な伸びとなった。

株価上昇で保有株の資産価値が上昇したり、売買益を手にしたことで高額品消費に資金が向く、いわゆる「資産効果」が再び顕在化してきた。12月24日の東京株式市場では、日経平均株価が一時、6年ぶりに1万6000円台を付けるなど、株高が進んでいる。アベノミクスの柱は、株高による消費主導の経済回復という色彩が鮮明になってきた。

株高の資産効果、消費増税前の駆け込み、観光客増で百貨店好調

「美術・宝飾・貴金属」の売上高伸び率は2012年9月からプラスに転じたが、本格的な伸びを示し始めたのは安倍晋三内閣発足後の2013年1月以降。3月からは二桁の伸び率が続いた。ところが5月の23.3%増をピークに、やや伸び悩む傾向がみられ、9月には6.3%増と一桁になった。

5月といえば、夏前の株価のピークで日経平均株価1万6000円台乗せにあと一歩まで迫った時期。その後、株価の低迷に合わせて高額品消費の伸びが鈍化したわけだ。消費と株高が大きく連動していることを如実に示した。

株価が再び上昇し始めた秋以降、高額品消費も再び堅調となっている。10月には19.7%増となっていた。10月は台風など悪天候が続いた影響もあり、百貨店売上高全体はマイナスだったが、「美術・宝飾・貴金属」部門は大きく伸びたわけだ。これに続いて、11月も20%を超す伸びとなったことで、株高に連動する高額品消費の強さが証明された格好だ。

女性用のハンドバッグやアクセサリーなど「身の回り品」も再び伸びている。11月は5.9%増と、前月の1.6%増を大幅に上回った。売り上げ規模の大きい衣料品も1.0%増と伸びた。大都市圏で婦人服が好調だったのだ。また、家具なども堅調に伸びたが、これは来年4月からの消費税率引き上げを前に、住宅などの駆け込み需要が膨らんでいる余波だと、百貨店協会では分析していた。

円安による訪日外国人の増加も、百貨店の売り上げ増に貢献している。日本政府観光局(JNTO)の推計によると、11月の訪日外国人数は83万9800人と前年同月に比べて29.5%増えた。

尖閣諸島を巡る問題で昨年11月に激減していた中国からの観光客が10万1900人とほぼ倍増したほか、台湾、香港、タイ、マレーシアなどからの旅行者が急増した。2013年に訪日外国人が初めて1000万人の大台に乗ることが確実になっている。円安で日本での買い物を目当てに来日する観光客が増えているのだ。

12月の百貨店売上高も堅調に推移するとみられる。引き続き外国人客が伸びる見通しのほか、冬のボーナスの支給額が増えた企業が多いことや、株高が進んだことも追い風になる。資産効果による高額商品の好調も続くとみて間違いないだろう。

デフレは脱却できても、生活は豊かにならない?

問題はこうした高額品消費が一般の消費にまで広がるかどうかだ。

日本チェーンストア協会が12月20日に発表した11月の販売統計速報によると、店舗調整前の売上高伸び率は4.1%。3月以降、対前年同月比プラスが続いているが、6月の5.1%増に次いで高い伸びとなった。新店の開業などの効果もあるが、店舗調整後のいわゆる既存店ベースでも売上高は0.7%増えている。

既存店ベースでみても8月以降4カ月連続のプラスとなった。中でも伸び率が高いのが食料品。店舗調整前で7.4%、調整後でも3.0%伸びた。

もっとも、これを消費が伸びている効果と手放しで喜べるかどうかは微妙だ。円安によって輸入食料品の価格が上昇していることが大きく影響していると見られるからだ。対照的に、衣料品が前年同月比7.2%減と大きく落ち込んでいることを見ても、無条件に消費が底堅いとは言い切れない。

こうした価格上昇による売り上げの伸びは、アベノミクスが掲げる「デフレからの脱却」にはつながるものの、一般の生活者からすれば、物価上昇の影響を受け始めているということでもある。安倍首相が繰り返し言うように、雇用者の給与が今後増えていかないと、「デフレからは脱却できても生活は豊かにならない」という批判が増えることになりかねない。

アベノミクスは今のところ円安と株高しか効いていない」と日本銀行の幹部は言う。1本目の矢である大胆な金融緩和で円安・株高となっている結果、消費が伸びて景気をけん引しているというのだ。

2本目の矢である大胆な財政支出によって公共事業は増えたものの、「まだ景気に効いていないのではないか」という。まして、3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」はまだまだ動き出していない。

2本目の矢と3本目の矢の効果が出て来るまで、円安・株高の効果が持続するかどうかが焦点だが、そのうえでも「株高につながる政策をもっと打ち出すべきだろう」と国内の機関投資家の幹部は言う。安倍首相の周囲でも「内閣支持率の底割れを防ぐには株高が必須」との声が上がっているという。

安倍内閣の支持率は12月に急落した。各社の世論調査で軒並み10%ポイント近い低下となっている。特定秘密保護法や日本版NSC(国家安全保障会議)設置法の成立過程で強引さが目立ったことが大きい。この支持率下落の流れを止めるには、「経済」で実績を示すことが不可欠というわけだ。

4月の消費税率引き上げが消費にマイナスに働くのは間違いない。放っておけば、けん引役である消費の火が消えてしまうことになりかねないのだ。それを食い止めるためには、長期にわたって日本経済が回復するという見方を投資家の間に広げ、株価を一段と上昇させるほかない。

1月以降、株価を意識して、安倍首相が株式市場が評価する政策を打ち出すことができるのかどうか。アベノミクスの成否はやはり、株価の行方にかかっている。