エコノミストの弁護士会計士特集に書いた原稿です。是非ご一読ください。
- 作者: 週刊エコノミスト編集部
- 出版社/メーカー: 毎日新聞社
- 発売日: 2014/11/25
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログ (1件) を見る
政治とカネの問題が再びクローズアップされている。小渕優子衆議院議員の関連政治団体「小渕優子後援会」の政治資金収支報告書では、観劇会の会費収入と劇場に支払った支出に巨額の差異があることが発覚。小渕氏は経財産業相を辞任に追い込まれ、東京地検特捜部の捜査が入った。誰でもわかるような収支の齟齬をなぜ見逃していたのか。経理の分かる専門家はいなかったのか。
実は、政治資金収支報告書には“プロ”による「監査」が義務付けられている。届けられている報告書には「政治資金監査報告書」が添付され、「登録政治資金監査人」の署名捺印が付されている。
上場企業は公認会計士や監査法人による監査が義務付けられているが、政治資金の場合、会計士の他に税理士や弁護士もこの「監査人」として登録できる。小渕優子後援会もAという税理士が署名捺印している。プロがチェックし、ハンコまで押しているのに、どうしてひと目で分かるような齟齬がまかり通ったのか。
「あれは監査なんて代物ではない」と、日本公認会計士協会の役員も務めた大物会計士は言う。報告書に書かれている支出の領収書があるかどうかを突き合わせるのが主な仕事で、収支がその団体の活動実態を正確に示しているかどうかや、支出内容が適正かどうかといった判断をするのは「登録監査人」の責任ではないのだという。「中学生でもできるような代物」と吐き捨てる。
ではなぜ、そんな緩い「監査」がまかり通っているのか。背景には会計士と税理士、弁護士が仕事を分かち合うなれ合いの構図が潜む。上場企業並みの厳しい監査を義務付ければ、当然、その仕事は会計士しかできなくなる。会計士が仕事を独占するのは許せぬとばかり、税理士や弁護士が反対するのだ。逆に、税理士にきちんとした監査をやらせるような制度にすればよいのだが、そうなると上場企業の監査を独占している会計士業界の領域を侵されかねない。「監査のようで監査でない」中途半端な領域を作って仲良く仕事を分け合うのがお互いの業界の平和のだめだ、というわけである。
世の中で情報公開や説明責任が重要性を増す中で、監査に対する社会のニーズはどんどん高まっている。そんな新しい「監査」領域を、業界が仲良く分け合っている結果、中途半端な領域はどんどん拡大している。
役人OBも外部監査人
政治団体だけでなく、地方公共団体の「外部監査」でも同じことが起きている。会計士のほかに、税理士や弁護士、「公務精通者」が外部監査人になれるのだ。公務精通者とは、要するに役人OBである。
今、存在意義が問い直されているJA全中(全国農業協同組合中央会)が持つ独自の制度も、長年にわたる「すみ分け」の結果だ。農協の「監査」は監査法人や会計士ではなく、「農業協同組合監査士」が行っている。それを会計士協会は「似非監査制度だ」と批判するが、実はこの制度を統括する役割を担うJA全中の監査委員長は、大手監査法人の理事長OBの指定席になっている。つまり、会計士業界自身が、「監査であって監査でない」中途半端な存在を許してきたわけだ。
そうした中途半端な制度が機能しない最大の理由は、独立性が薄くなりがちなことにある。「第三者」がチェックすることによる独立性の確保は、監査制度の要諦である。政治資金監査報告書にもこんな一節が書かれている。「私(監査人)の責任は、外部性を有する第三者として(中略)監査を行った結果を報告することにある。」
前出の小渕氏が代表を務める別の政治団体「未来産業研究会」は親族の店への支出などが不適切だと指弾されたが、実はその収支報告書の登録監査人もA税理士だった。しかも、関東信越税理士政治連盟の「税理士による国会議員等後援会名簿」によると、A税理士は小渕優子氏の後援会幹事長も務めている。税理士が作る小渕応援団の中心人物が果たして第三者なのかどうか。
会計士も税理士も、社会のためにやるべきことはまだまだたくさんある。