2030年の原発依存、「最大でも15%」 期限迫る「エネルギーミックス」の結論のゆくえ

原発をどうするのか、温暖化対策への国際協調はどうするのか、国民全体で議論するべきでしょう。日経ビジネスオンラインに掲載されました→
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20130321/245368/


2030年の日本のあるべき電源構成(エネルギーミックス)を決める期限が迫っている。年末にフランスで「国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)」が開かれ、京都議定書に代わる2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組みが決まる予定だ。

 ところが、その議論の前提になる電源構成の将来像を日本はいまだに示せていないのだ。6月には、COP21の準備会合と、主要国首脳会議(G7)がドイツで開かれることになっており、遅くともそれまでには結論を出さなければいけないところまで追い込まれている。

 経済産業省は今年1月30日、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の下に、「長期エネルギー需給見通し小委員会」を設置した。分科会長の坂根正弘コマツ相談役が委員長を兼ね、急ピッチで議論を進めている。

 議論の焦点は原子力発電の依存度をどのくらいにするか。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を大きく減らそうと思えば、CO2ゼロの原発の割合を増やさざるを得なくなる。排出量が大きい石油火力などのウエートを引き下げようとすれば、風力や太陽光といった再生可能エネルギーだけでそれを補うのは難しいとされる。

 民主党政権下の2009年、鳩山由紀夫首相が2020年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で25%削減すると国際公約をしたが、その際には原子力発電の比率を50%以上にする計画が立てられた。

 ところが、2011年に東日本大震災が発生。東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、野田佳彦内閣は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」という方針に転換していた。

安倍内閣は「重要なベースロード」と位置付け

 2012年末に発足した安倍晋三内閣は、民主党のこの脱原発方針を修正、昨年4月には第4次エネルギー基本計画を閣議決定した。そこでは原発を「重要なベースロード電源」と位置付けた。そのうえで、安全性が確認された原発から再稼働させる方針を示している。

 だが、国民の間に、福島の事故以来、原発アレルギーが根強く存在するのも事実。今でも日本の原発はすべて稼働が停止したままで、再稼働はなかなか実現していない。

 そんな中で、原発の比率をどのくらいにするのか。

 震災前の2010年度は、発電量の熱源は、原子力が28.6%、LNG火力が29.4%、石炭火力が25.0%、石油火力が7.5%、水力が8.5%で、新エネルギーは1.1%だった。経産省は2030年でも原子力を20%前後は見込む必要があるという姿勢を取っているとされる。新聞報道によると、議論する坂根委員会でも15〜25%という数字が既に委員の口の端にのぼっているという。

だが、「現実はそんなに甘くない」と経産省の幹部は言う。

 2010年度に1兆キロワット時を超えていた年間の総発電量は2013年に9397億キロワット時にまで減少している。震災の影響などで省エネが進んだことが大きい。2030年の総発電量をどれくらいと見積もるかも難問だが、仮に1兆キロワット時とした場合、20%を原発にしようと思えば、2000億キロワット時を賄うだけの原発が稼働していなければならない事になる。

 現状では稼働から40年を超えた原発は基本的には廃炉することになっている。20年間に限って1回だけ延長することもできるが、もちろん安全性が確立されていなければならない。

リプレイスしなければ「実質的脱原発」が進む

 現在、原発の安全性を巡る検査が続いている中で、一体どれだけの原発を動かすことができるのか。前出の幹部は、「可能な限り動かしても、計算上15%をまかなうのが精一杯」だと語る。原発依存度が15%を上回る数字にしようと思えば、現在の原発だけでは「説明が付かない」というのだ。

 つまり、20%という数値をエネルギーミックスで示そうと思えば、老朽化した原発のリプレイス(更新)か新増設が必要になる。リプレイスとは、廃炉した場所に新たに原子炉を作ること、増設は今ある発電所内に原子炉を増やすこと、新設はまったく新しい立地に原発を作ることである。

 だが、どう考えても2030年に新しい原子炉を稼働させるのは難しいだろう。原発に対する国民的議論がほとんど行われていない中で、15年の間に新規稼働させるのは至難の技だ。リプレイスならば間に合うかもしれないが、再稼働ですらなかなか地元の賛成が得られないのに、古い原子炉をつぶして新しいものを建てるとなった場合、議論が紛糾するのは火を見るよりもあきらかだ。

 経産省の中は今、意見が2つに割れているという。リプレイスや新増設については曖昧にしたまま明確にせず、目標数字として原発依存度を示すべきだという意見と、この際、真正面からリプレイスや新増設について議論すべきだ、という意見だ。

 仮にリプレイス議論を封印したまま2030年のエネルギーミックスを決めてしまうと、いつまでもリプレイスができず、既存の原発はどんどん老朽化していく。40年に達すれば稼働停止になっていく可能性があるのだ。議論がないまま「実質的に脱原発」が進んでいくのである。それを避けるには、いまリプレイスの議論をしておくべきだ、というのが後者の意見である。

 安倍内閣はどう考えるか。原発再稼働も政権基盤を揺るがしかねない問題なのに、さらにリプレイスや新増設という議論が俎上にのぼれば、ますます政権批判が高まる可能性がある。議論すべきというのは正論だが、政治的にもつかどうか、という判断がいる。

 官邸に近い自民党幹部は、「15%で決まりでしょう」と語る。つまり、既存の原発をフルに動かすことで説明が付く水準にとどめざるを得ないというのが、おそらく首相周辺の結論だというのだ。

 問題は、それでCOP21の新たな枠組みを乗り切れるかどうかだ。原発依存度15%という低い割合を提示して、日本として温暖化ガス対策に協力するという姿勢が示せるか。その場合に再生可能エネルギーの割合をどこまで増やさなければならないのか。坂根委員会から辻褄の合った結論が出て来るのか注目したい。