社外取締役を「数合わせ」に終わらせるな

フジサンケイビジネスアイに掲載された拙稿です。
http://www.sankeibiz.jp/business/news/150430/bsg1504300500002-n1.htm


3月決算の上場企業では、6月の株主総会に向けた準備が本格的に始まった。今年の焦点は何と言っても「社外役員」選びだろう。5月1日に施行される改正会社法によって、社外取締役が一人もいない場合には「(社外取締役を)置くことが相当でない理由」を説明しなければならなくなる。置かない方が良い理由、というわけだから、その説明は至難の技である。つまり、実質的に社外取締役の選任が“義務化”されたのに等しい。

 さらに東京証券取引所金融庁有識者会議がまとめたコーポレートガバナンス企業統治)・コードは、さらに厳しい。これは上場企業としての「あるべき姿(ベスト・プラクティス)」を示したもので、順守が義務付けられるわけではないが、順守しない場合にはその理由を説明しなければならない。コードでは、独立性の高い社外取締役2人以上の選任が「あるべき姿」として示されている。

 東証の調べでは、昨年7月現在の市場第1部上場企業1814社のうち、社外取締役を置いている企業は全体の74.3%。1年前は62.3%だったから急激に増えている。467社がゼロだったが、おそらくこれらの企業のほとんどが社外取締役を選任するだろう。ほぼ100%の会社が社外取締役を置くことになるに違いない。

 社外取締役義務化に反対していた企業の多くは、人選が難しいことを理由に挙げていた。適任者が見つからない、というわけだ。実際、昨年7月段階で1人しか社外取締役がいない725社と、ゼロの467社が、2人になるように人数を増やせば、1659人の社外取締役が必要になる計算だ。弁護士や会計士、大学教授や役人OBなど、目ぼしい人材はすでに何社もの社外取締役を務めている。

 そんな中で注目されているのが、既にいる社外監査役社外取締役に横滑りさせる方法。5月の会社法改正で、新たに生まれる「監査等委員会設置会社」に変身してしまおうというのだ。新形態を採用すれば、監査役は不要になり、取締役会に社外が過半数を占める監査等委員会を置くことになる。

 上場企業には既に複数の社外監査役の設置が義務付けられているから、社外監査役ならばすでにどの会社にもいる。これを社外取締役にしてしまえば良い、というわけだ。

 既に100社近い会社がこの新形態に変更すると見られる。確かに、これなら実質的な社外の人数を増やさなくても「ルール」は順守できる。数合わせはできるのだ。だが、それで本当に会社のコーポレートガバナンスは強化されることになるのか。従来以上に外部の目を社内に取り込むことになるのか。

 もちろん、新たに社外から取締役を招いても問題は同じだ。本当に機能する取締役会とは何か。各社の経営者が真剣に議論すべきことだろう。

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