人口減少自治体が悲鳴も! 安倍首相はなぜ移民政策を避けて通るのか

訪日外国人が急増して月に150万人もの人たちが入国している中で、移民問題にどう向き合うのかをきちんと議論しておかないと、なし崩し的に外国人居住者が増えていくことになります。対策が後手後手に回れば、様々な社会問題が起きることになります。欧州などが過去に失敗した事例を教訓に、きちんと移民問題を議論することが大事ではないでしょうか。現代ビジネスにアップされた原稿です。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43592

移民問題は解決できるのか
日本はどうやって外国人を受け入れていくべきか。アジアで「人の移動(移民)」が一段と活発化する中で、日本が採るべき道を探る国際シンポジウムが6月1日、東京・青山の国連大学で開かれた。

日本国際交流センター(JCIE、大河原昭夫理事長)が主催、国際機関のIOM(国際移住機関)や東京都などが後援した。「アジアにおける人の移動の現状と課題」がテーマだった。http://www.jcie.or.jp/japan/gt/ngo_asi/3rd/symposium/

会議ではアジア諸国の移民制度の現状やNGO(非政府組)の役割について各国の研究者が発表したほか、元・国連事務次長の明石康国際文化会館理事長が基調講演を行った。

さらに移民問題に関わる国際組織の代表や学者、専門家、メディアなど30人余りが「人口減少社会・日本に求められるアプローチ」をテーマに活発に討議した。筆者が討議のモデレーターを務めたので、報告を兼ねて紹介したい。

50年以上前からわかっていたこと
討議では冒頭、少子高齢化と人口減少に直面している北海道滝川市の前田康吉市長と広島県安芸高田市の浜田一義市長がそれぞれの市の実状を説明。

「もはや町が維持できないところまで来ている」(浜田市長)と、人口減少対策が待ったなしのところまで来ている事を訴えた。そのうえで、外国人研修生を積極的に受け入れている取り組みなどについて紹介した。

人口問題の専門家からは、「2000年代に入れば日本の総人口が減少し始めることは、50年以上前から想定されていたにもかかわらず、抜本的な対策を怠ってきた」といった声が上がった。

多くの出席者から指摘が出ていたのが、日本が外国人受け入れや移民について、真正面から議論がされていないという点。一種、タブーとして扱われていることは、問題を先送りしているに過ぎないというわけだ。

民主党衆議院議員移民問題に長年取り組んできた中川正春・元文部科学相も参加。「(外国人受け入れに関して)まず、制度設計をきちんとする事が大事だ」と指摘した。民主党政権下では「移民基本法」の制定を準備したが、政権交代でとん挫した事などが紹介された。

明石氏も基調演説で「移民法の整備や移民庁の設置が必要だ」と訴えていた。海外からなし崩し的に外国人が流入してきている事態を放置するのではなく、きちんと向き合って対策を取るために、日本として明確な方針を持つ必要がある、という点で多くの識者が一致していた。

長年、外国人労働者問題に取り組んできた組合関係者からは、研修生名目などでやって来る外国人の実態は労働者なのに、それを労働者と呼ばないことを挙げ「日本人は事実を直視する力があるのか」と疑問を呈する声も上がっていた。

すでに日本には、様々な形で外国人が入ってきている。帰国することが前提の技能実習生だけでなく、留学生や日本人と結婚した定住者も少なくない。また、アベノミクス以降、観光やビジネスで日本にやってくる訪日外客数も急増している。日本全国の町々で外国人の姿を見かける事はもはや日常となっている。

だが、外国人移民に対する基本的な考え方が議論されず、明確な方針も示されていないため、対策が付け焼刃になっているのが実状だ。

安倍晋三首相は外国人移民問題を直視する姿勢を取っていない
安倍晋三首相は日本を海外に開いて、世界で最もビジネスがしやすい場所にするとし、外国人人材の活用を掲げている。だが、その一方で、「いわゆる移民政策は取らない」と国会で発言している。つまり、外国人移民問題を直視する姿勢を取っていないのだ。

日本に移住したフィリピン人女性などを支援する組織「カラカサン」のレニー・トレンティノさんは、「日本の政策には感受性が乏しい」と批判していた。後手後手に回った対処療法に追われ、問題を先回りして解決するような政策が打たれていないというわけだ。自治体関係者などからは、日本語教育が不十分なことによる「言葉」の問題が大きな障害になっているという指摘も出ていた。

駐スイス大使を務めた國松孝次・元警察庁長官は、「労働力不足の観点からの議論だけでなく、文化的な側面からも議論すべき」と語っていた。

移民というと日本文化を破壊するという批判が挙がりがちだ。だが、地方では人口減少や高齢化によって地域の祭りなど伝統行事が消滅の危機に瀕しているケースが少なくない。外国人の移住者によって人口が増え、コミュニティが維持できれば、結果的に日本文化が守られるという考え方もあるのだ。

討議の最後に、人口減少に直面する日本の現実を直視して、日本人、外国人双方にとって望ましい外国人の受け入れ方について、幅広い議論を開始すべきだ、という点を日本社会へのメッセージとしするという提案が出され、拍手で採択された。

JCIEの毛受(めんじゅ)敏浩・執行理事 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41050 は「これだけ様々な立場の人が集まって日本の移民受け入れ問題を討議したのはおそらく初めての事で大きな意味があった。こうした議論の場を今後も持続していきたい」と話していた。

地方を中心に、高齢化と人口減少が顕著に現れるようになってきた。だが、これは決して地方の過疎地域だけに限った問題ではない。いずれ都市部での激しい高齢化やって来る。そうした現実に直面する前に、外国人をどうやって受け入れていくのか、少なくとも真正面から議論を始める時であることは間違いないだろう。