人口3万人の町が突如出現!? 本気のおもてなしを実践した 「東京五輪の前哨戦」世界スカウトジャンボリーをご存じか

日本で44年ぶりの世界スカウトジャンボリーが山口県きらら浜で開催されています。現地には、突如として外国の「町」が出現したような光景が広がっています。東京オリンピックの前哨戦として、日本企業の多くも支援しています。現代ビジネスに書いた拙稿です。写真は生津勝隆さんです。→http://gendai.ismedia.jp/articles/-/44544


44年ぶりの日本開催

山口県宇部空港に近い干拓地に、人口3万3000人の“町”が突如として出現した。7月28日から8月8日までの12日間にわたって、山口市阿知須のきらら浜で、第23回世界スカウトジャンボリー(23WSJ)が開かれているのだ。阿知須地区の平時の人口は9500人ほどだから、一気に町が4.5倍になった格好だ。

世界スカウトジャンボリーは4年に1度、世界各国からボーイスカウトが集まる国際キャンプ大会で、今回は158の国と地域から3万3000人を超す青少年スカウトや指導者が集まった。期間中はテントで野外生活を送りながら、場内外での様々なプログラムに取り組む。

参加者3万3000人のうち日本人は6500人で、圧倒的に海外からの参加者が多く国際色豊か。会場内を歩くと、海外にいるのではないかと錯覚するほど様々な国の人たちに出会う。

ボーイスカウト運動発祥の地である英国から4000人を超す参加者が来日したほか、スウェーデン1800人超、米国1600人超と大派遣団が参加した。オランダや台湾も1000人を超えた。これだけの規模の国際大会が日本で開かれるのは珍しい。世界スカウトジャンボリーが日本で開催されるのは、1971年に静岡県朝霧高原で開かれた13回大会以来、44年ぶりのことだ。

海外から多くの人が訪れる最大のイベントは何と言ってもオリンピック。2020年には東京オリンピックが控えており、今回のジャンボリーはその前哨戦とも言える。

28日に続々と集まったスカウトたちは一夜にして“町”を建設、29日夜の開会式に臨んだ。

30日からは会場内と会場外の7種類のプログラムを順番に体験した。参加各国の展示パビリオンが集まる「ワールド・スカウト・センター」や、 世界の様々な問題を知る展示を集めた「地球開発村」、日本企業を中心に、様々な科学技術の知識を体得できる「サイエンス」のコーナーなど。参加スカウトたちが小グループに分かれて場内の様々な展示を見て回った。また、ウォーター・スポーツが体験できるコースも設置された。

会場外に出ていく「オフサイト・プログラム」は大きく分けて3種類。開催地である山口の自然を満喫できるハイキングや秋芳洞への小旅行などを行う「ネイチャー」、地元の小学校などとの交流を行う「コミュニティ」プログラムが人気を集めた。地域を訪ねるコースは600コースに及んだ。さらに、中高校生年代のスカウト全員が交代で広島を訪れる「ピース」プログラムも関心を呼んだ。6日間に分かれて合計2万6000人が広島の平和記念公園原爆資料館を訪問。戦争や原爆の悲惨さを学び、恒久平和を祈った。

これとは別に、8月6日に平和記念公園で開催される「広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式」(平和記念式典)に、ジャンボリーに参加している151カ国の代表スカウトが参列する。また、8月5、6日の両日、長崎市で開催される「世界こども平和 会議」にもジャンボリー会場から141カ国の代表が参加する。

今年は戦後70年の節目の年に当たる。世界平和を活動の柱の1つとするボーイスカウトの世界の代表がそろって広島を訪れることには、大きな意味がある。

2年前のプレ大会では一部のスカウトだけが広島を訪れたが、行けなかった国のスカウトや指導者から失望の声が寄せられたという。そのため急遽、今回の世界スカウトジャンボリーではスカウト全員が広島に行くことができる体制を整えた。毎日早朝、観光バス100台が会場を離れて広島に向かっている。

これに先立つ8月2日の夜には、参加者全員が広場に集まる「アリーナ・ショー」が開催された。皇太子殿下からお言葉があったほか、安倍晋三首相やJAXAの宇宙飛行士である野口聡一さんのスピーチがあった。マルチタレントの中川翔子さんやEXILEのUSAさんらのミニライブが行われ、世界から集まった若者たちの歓声に包まれた。

会場内のあちらこちらでは、様々な国のスカウトたちが、自国の民族衣装や料理などを紹介するイベントを開き、国際交流の場になった。

8月7日夜には閉会式が行われる。8日には会場内で一気に撤収作業が始まり、9日ごろにはほぼ“町”は消滅する。

本物の「おもてなし」ができる国へ

安倍内閣は日本の良さを世界に売り出す「クールジャパン」を推進している。今回の大会は、日本の良さをアピールする絶好の機会になった。「サイエンス」プログラムのコーナーにはキヤノンやヤクルトなど多くの企業が出店。それぞれ工夫をこらして自社製品や技術をアピールしていた。

発展途上国を中心に、ボーイスカウト出身者が国の指導的な立場になるケースが多いため、中長期的な企業イメージの向上に役立つという判断のようだ。

参加スカウトたちの日本滞在はジャンボリー会場だけではない。日本人以外の海外スカウトのうち8000人近くが会期の前後に全国各地でホームステイし、日本への理解を深めた。スカウト関係者を中心にホームステイ先を探したという。これだけ大勢の人数がホームステイするのは例がなく、すべての外国参加者の希望にはそえなかったという。

ジャンボリーによる経済波及効果も大きいとみられる。日本までの航空便だけでなく、大会前後の日本国内での観光なども日本経済にプラスになる。大会が開かれた山口市では、食材や生活資材の調達などによって経済効果が大きかったとみられる。

政府ではこうした国際大会や会議などの誘致に力を入れる方針を示している。最大のイベントである2020年のオリンピックに向けて、本物の「おもてなし」ができる国への脱皮が求められることになる。